日本データマネージメント・コンソーシアム

レポート

「現場を止めずにサイロを崩す」コスモ石油が示したデータ統合の現実解

JDMCコミュニティ「データマネジメント座談会」主催 オープン勉強会レポート

JDMC情報発信部会

現場を残したまま、裏側でデータを束ねる選択

製油所にはセンサー値も設備台帳も点検記録もある。それでも「必要なときに必要なデータへたどり着けない」。コスモ石油が直面してきたのは、データの欠如ではなく、入り口がバラバラなまま残るサイロ化だった。

日本データマネジメント・コンソーシアム(JDMC)コミュニティ「データマネジメント座談会」主催のオープン勉強会 #5が、2026年7月13日にオンラインで開かれた。テーマは「コスモ石油が挑むデータ統合プロジェクトの舞台裏」。コスモ石油工務部保全戦略グループの久保田真実氏、コスモエネルギーホールディングスIT推進部システム開発1グループの齋藤功一氏、産業データ基盤を手がけるCognite(コグナイト)の丸山ひかる氏(シニアマーケティングマネージャー)が、産業用データ基盤「Cognite Data Fusion(CDF)」を軸にした統合の進め方を語った。

左から司会 加藤俊氏(JDMCコミュニティリーダー)、久保田真実氏(コスモ石油)、齋藤功一氏(コスモ石油)、丸山ひかる氏(Cognite)

コスモのDX戦略「Cosmo’s Vision House」

コスモエネルギーグループは、石油の探鉱・開発から精製、販売、石油化学、再生可能エネルギーまでを手がける。国内製油所は四日市、千葉、堺の3拠点。グループの原油処理能力は日量40万バレル、サービスステーションは約2,500カ所に及ぶ。

齋藤氏が示したコスモのDX戦略は「Cosmo’s Vision House」と呼ぶ3層構造だ。土台のデジタルケイパビリティではデータ活用基盤の強化とパートナーリングを進め、組織風土のチェンジマネジメントでは人材育成と外部文化の取り込みを図る。その上で現場起点のデータ活用により事業そのものを変えていく。

保全は「設備のお医者さん」──つながらないデータが生む時間ロス

現場側の語り手となった久保田氏は、保全部門を「設備のお医者さん」になぞらえる。タワー、加熱炉、熱交換器、タンク、ポンプなど、製油所の多種多様な設備の健康状態を診て、適切なタイミングで補修・更新を行い、事故を防ぎ安全・安定操業を守るのがミッションだ。

その業務を支えるデータの側に、長年の壁があった。各業務で活用するデータは存在するのに、システムが分断され、入り口が異なる。「必要な時に必要なデータに素早くたどり着けない状態だった」と久保田氏は振り返る。

書類だけでは分からないことも多く、現場確認のために何度も足を運ぶ。往復だけで1時間かかることも日常だったという。紙のチェックリストを持ち歩き、現場データや作業記録をデスクに戻ってエクセルや管理台帳へ転記する手間もあった。いまはタブレットで情報共有が進み、事務所から現場支援やデータ分析ができるようになった。意思決定の速度は、以前と比べて大きく変わったという。

Cogniteが担う「産業ナレッジグラフ」とコンテキスト化

CDFの位置付けを説明した丸山氏によれば、Cogniteはノルウェーで設立され、180年以上エネルギー事業を手がけるAker(アーカー)グループのDX支援から生まれた。産業データを誰でも簡単にアクセスできるようにする、という課題に創業以来取り組んできたという。

製品は大きく3層だ。最下層ではITデータ、OTデータ、エンジニアリング(ET)データを統合し、意味付け・紐付け(コンテキスト化)によって産業ナレッジグラフを構築する。中間層は、そのデータを参照しながら保全課題の解決や作業指示の分析などを支える産業向けAIエージェントの層。最上層は、それらを業務アプリとして現場に届けるユーザー体験の層になる。

一番の壁は技術ではなく「現場・現物」だった

導入で苦労した点について、久保田氏は「現場側にITの人材がいないこと」と答えた。API接続など、IT用語が分からない状態からのスタートだった。社内の「DX Hub」という社内プログラムを通じ、ホールディングスのIT部門に入ってもらい、システム連携や、現場とIT間の橋渡しを支えてもらいながら進めた。

現場が日常的に使い続けている既存システム(CDFに連携するデータの供給元)を、急に置き換えないこと。IT部門と現場が互いに歩み寄り、現場のニーズを最優先で開発を進めること。 データ品質とガバナンスを、AI活用の前提として正面から扱うこと。

久保田氏らが語った内容は、製油所のように重い現場を持つ企業ほど、参考になりやすい。

「データはあるのに使えない」状態を変えるには、完璧な一本化を最初から目指すより、現場を止めずに意味のあるつながりを増やしていく設計が要る。今回のオープン勉強会は、その実践の手触りを共有する場となった。

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