JDMC会員による「リレーコラム」。
メンバーの皆さんそれぞれの経験・知見・想いをリレー形式でつなげていきます。
今回、バトンを受け取ったのは、株式会社パタンナー 深野 嗣さん です。
●JDMCとの出会いと、私たちの志
私たち株式会社パタンナーは、今年で創業5期目を迎えるスタートアップです。セルフサービス型データマネジメントを実現するプロダクト「タヅナ」をはじめ、データ基盤の設計・開発、BIやAIを活用したソリューションの提供、さらには福岡市主催の『DATA ENGINEER CATAPULT』に代表されるデータ人材育成にも力を入れています。
そんな私たちがJDMCと出会ったのは昨年のこと。開発中のプロダクトに対して、専門的な視点からご意見をいただきたいと思い、水谷さんにご縁をいただき、研究会活動に参加させていただきました。その研究会で、ある気づきに衝撃を受けたのです。
JDMCの研究会会員の皆さまは、“最新技術への関心”にとどまらず、1990年代の日本における世界レベルのコンピューター開発・インフラ技術(サーバー、セキュリティ、データベース等)に深い知見を持っておられるのです。
私たち自身も、2017年頃の深層学習ブームの頃から、民間企業のAI PoCプロジェクトにデータサイエンティストとして関わってきました。Pythonのライブラリを活用した開発が主で、便利な道具に恵まれていた一方で、ゼロから組み立てる感覚のなさに、どこか物足りなさを感じていました。だからこそ、私たちはプロダクト開発に挑戦しているのです。
そして、良質な日本発のプロダクトを提供していくには、最新技術だけでなく、コンピューターの歴史やデータの本質的な仕組みへの理解が必要不可欠であると痛感しました。それがJDMC入会を決意した最大の理由です。
●技術とビジネスの橋をかける──BRIDGE宣言
私たちには、もう一つ大切にしている信念があります。それが「BRIDGE=橋渡し人材」の育成です。
「技術が分かる人」「ビジネスに強い人」はそれぞれいるでしょう。しかし、その2つを“つなげられる人”は圧倒的に足りていません。
データマネジメントとは、まさにITと業務、制度と現場、設計思想と現実運用を“つなぐ”営みです。私たちは、その橋をかける人こそが組織の変革を支えると考えています。私たちが提唱する「BRIDGE宣言」は、以下のような価値観に基づいています。
<BRIDGE宣言 – データ活用のための価値宣言>
・文書で整えるルールよりも、現場で使われる仕組みを。
・一方通行の可視化よりも、フィードバックが循環する運用を。
・守りのガバナンスだけでなく、行動を“動かす”デザインを。
・一時的な研修よりも、継続的に橋をかける人材を。
・部門の最適化よりも、組織全体を“つなぐ力”を。
文書による明文化も必要です。ですが「現場で実際に活用される仕組み」こそが、データに本当の価値を与えるのです。保存されるだけのデータには、保存コストしか生まれません。同様に、メタデータも「理解のための情報」に留まっていては不十分です。私たちは、“メタデータとは行動を促す情報でなければならない”と考えています。
どれだけ便利な技術や製品が登場しても、企業を運営するのは「人」。だからこそ、チームワークと横断的な連携が、データ活用の最大の醍醐味であり、私たちが「BRIDGE」に込めた想いなのです。
●セルフサービスデータマネジメント──“BRIDGE”を仕組みにする
私たちは、現在この「セルフサービスデータマネジメント」を体現するプロダクト「タヅナ」を提供しています。
セルフサービスデータマネジメントという考え方は、2024年のGartnerハイプ・サイクルでも注目され始めました。専門家ではない社員でも、直感的かつ安全にデータを管理・活用できるというアプローチです。
実際、多くの企業では「セキュリティ」「AI活用」「システム刷新」「データ基盤構築」などで忙しく、データマネジメントを体系的に学ぶ余裕も自信もないのが現実です。JDMCの研究会で、ある方が語った言葉がとても印象的でした。「DXとは、これまで一部の職種しか使えなかった技術やモノを、もっと多くの人が使えるようにすること」。
私たちは、データマネジメントもまさに同じだと感じています。「使える人を増やす」ことが、セルフサービス化=ITとビジネスが協働する新たな管理スタイルの核心なのです。
●データ活用は“現場に橋をかける”ことで成功する
「登録者数100万人を突破しました!」
マーケ部門が喜ぶ中、IT部門の担当者が言います。「いや、まだ99万8千人です」。
これは実際に私たちが直面した事例です。YouTubeの登録者数には「速報値」と「確定値」があり、
・マーケティング部門はフロント表示ベースの速報値を見ており
・IT部門は3日遅れの確定値を見ている
──という違いが背景にあります。どちらも「正しい」数値ですが、用途や価値が異なります。しかし、その違いを理解し、橋をかけられる人がいないとデータは“混乱のもと”になるのです。
従来のように「IT部門だけで整備」「業務部門は使うだけ」というスタイルでは限界があります。だからこそ、私たちは「セルフサービス型」のデータマネジメントを重視し、現場が自律的に動ける仕組みづくりを支援しています。
●これからの組織に必要なのは、“BRIDGE”人材
セルフサービス型データマネジメントは、まさにこのBRIDGEを仕組みにすることです。
・現場が自らデータを探し、使い方を記録し、共有する
・IT部門は伴走者として、ガバナンスと環境整備に注力する
・メタデータ設計では、「守り」と「使いやすさ」を両立する工夫が必要
こうした環境の中で、人は自然と成長していきます。私たちが目指すのは、「使う人」が育ち、「整える人」が現場から生まれていく組織です。
データドリブン経営の中心に立つのは、きっと「BRIDGE」人材。私たちはこれからも、データ利活用とデータマネジメントの“あいだ”に橋をかけるプロフェッショナルとして、組織の未来に伴走していきます。

深野 嗣(ふかの・ひで)
株式会社パタンナー 代表取締役
北海道札幌市出身。船井総研で経営コンサルタントを経て、エムスリーキャリアでWebエンジニア、AIベンチャーでデータサイエンティストとして実務経験を積む。大手企業のAI開発や分析基盤構築、組織立ち上げを支援し、執行役員・マネージャーを歴任。2021年に株式会社パタンナーを創業し、セルフサービス型データマネジメントツール「タヅナ」を開発。現在は企業のデータ活用支援や人材育成、教育コンテンツの提供に取り組んでいる。
https://pttrner.co.jp/