日本データマネージメント・コンソーシアム

会員コラム

【Vol.78】ワコム 深井弘志さん、ビジネス価値の向上につながる 真のマスタデータ活用にチャレンジしよう

JDMC会員による「リレーコラム」。
メンバーの皆さんそれぞれの経験・知見・想いをリレー形式でつなげていきます。今回、バトンを受け取ったのは、株式会社ワコムの深井弘志さんです。

 

人々の創造力を引き出す「ライフ ロング インク」がワコムのビジョン

皆さま、こんにちは。株式会社ワコムの深井弘志と申します。

当社は、ペンタブレット製品および関連ソリューションを提供することにより、さまざまな分野の方々に、一生を通じてデジタルインクによる創造力を引き出すことのできる環境をお届けする、「ライフ ロング インク」をビジョンに掲げてビジネスを行っている会社です。その中で、私は社内システムにおけるさまざまなマスタデータを管理する、いわゆるマスタデータマネジメントのマネージャを担当しています。

今回このコラムをお引き受けするにあたって、「マスタデータを活用した、ビジネス価値の向上へのチャレンジ」と題して、日頃から考えているところを、ざっくばらんにお話ししたいと思います。

 

「マスタデータ」のほとんどは、特定の業務処理にしか使われていない

では、マスタデータ活用によってビジネス価値の向上を図るために、わたしたちは何をすればよいのでしょうか。そもそも「ビジネス価値を向上させられるマスタデータ」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。マスタデータマネジメントに携わる者としては、「データは会社の資産であり、中でもマスタデータはその核をなすものである」という観点で理解しようとしてみます。しかし実際に会社の戦略や業務に関連づけて、その実像を具体的に描き出そうとすると、意外にあいまいで、とらえどころのないもののように思えてしまいます。

実際に、日常の業務の中でマスタデータとして理解され、取り扱われているものは何かを見てみると、その多くは「特定のアプリケーションシステムのためのマスタデータ」であることがわかります。

それらのデータを生成、登録、利用している方々も、ほとんどの場合、個別の業務要件やアプリケーションシステムに限定した理解をしています。たとえば受注、在庫、出荷請求、売上計上といった基幹業務では、その基幹業務システムに登録されている得意先や製品といったマスタデータを、上に挙げたような特定の業務処理に目的を限って利用しているのです。

つまり、それらを「マスタデータ」と呼んではいるが、実際の用途は特定の業務処理に限られている。このようなアプローチでは、会社全体のビジネス戦略に根差した価値をデータから引き出すという発想には、いつまで経ってもなりません。しかし残念ながら、実際のマスタデータの活用状況を見ると、多くの企業がその段階にとどまっているのが実情です。

 

データの正確な「定義」を抜きにしては、いたずらに混乱を招く懸念も

さて、特定の用途に限られているのが問題ならば、単に社内の各アプリケーションのマスタデータを連携できるようにすれば、それで問題は解決するのでしょうか。マスタデータマネジメントのソリューションの1つに、業務横断的に関連するマスタデータを、単一の共通マスタとして管理することで全体最適を促し、より高次元のビジネス価値を生み出すものにするという考え方があります。

これは、たとえば会社のビジネス戦略に直結する製品や顧客に関するマスタデータを共通マスタとして管理すれば、そこからビジネス価値を導き出す洞察を得られるということです。たしかにそれ自体は非常に重要かつ不可欠な視点ですが、ここで再び私たちは、新たな課題に直面します。それは、データの「定義」の問題です。

たとえ同一に見えるマスタデータでも、異なるアプリケーションによって異なる意味と用途で利用されていることが一般的です。たとえば、同じ「顧客」というマスタデータであっても、アプリケーションによって「エンドユーザ」「流通チャネル」「受注先」と各々異なる意味を持つ場合がある。そうなると、マスタデータの単純な共通化だけでは、かえって混乱を招く結果にもなりかねません。

 

真のマスタデータ活用には、ビジネス戦略に合わせたデータの「再定義」が必要

共通化されたマスタデータは、会社のビジネス戦略に関連付けて意味づけされ、理解されて、初めてビジネス価値を生み出すものとして機能させることができます。言いかえれば、マスタデータの活用目的、すなわち「どのようにマスタデータを活用すれば、ビジネス価値を生み出すことにつながるのか」を明確にすることが欠かせません。

そう考えると、ビジネス価値の向上を目標にマスタデータ活用に取り組もうとするならば、まず共通マスタとして管理されたデータをビジネス戦略目的に整合させて「再定義」し、それをマスタデータと関連付けて管理するという課題が、新たに浮き彫りになってきます。

ひるがえって見れば、この課題が解決できて、ようやく本来のマスタデータマネジメントとしての役割を果たせるとも言えます。またその技術的要件としては、必要に応じてアプリケーションのマスタデータ以外からもマスタデータとして定義できること。マスタデータ自体だけでなく、そのコンテキストを表す参照データやメタデータまでも、マスタデータと関連付けて管理できることが重要だと考えています。

そう考えるだけでも、マスタデータマネジメントの領域には、まだまだ解決しなくてはならない課題がひそんでいることが予想されます。ぜひこれからもJDMCの皆さまと共に、議論を重ねながら前に進んでいきたいと願っています。

 

深井 弘志(ふかい ひろし)
株式会社ワコム
インフォーメーションサービス
マスタデータマネジメント マネージャ

京都大学大学院工学研究科修了後、ワコムに入社。
2016年よりマスタデータマネジメントチームメンバーとなり、2018年に同マネージャに着任、現在に至る。日常業務のかたわら、同社における本当の意味でのマスタデータマネジメントはどうあるべきかの追究を、課題として取り組んでいる。

 

RELATED

PAGE TOP