日本データマネージメント・コンソーシアム

会員コラム

【Vol.95】シマント 和田 怜さん、 データマネジメント推進プロジェクトに起こりがちな「ハードシングス」 乗り越えるカギとなるのは?

JDMC会員による「リレーコラム」。
メンバーの皆さんそれぞれの経験・知見・想いをリレー形式でつなげていきます。
今回、バトンを受け取ったのは、株式会社シマント 和田 怜さんです。


JDMC会員の皆さまには日頃大変お世話になっております。株式会社シマントの和田と申します。

シマントは、自社DWH製品の導入やデータマネジメントに関するコンサルティング、データマネジメント基盤の構築作業支援などを行っております。

データマネジメントに関しては、私自身も過去に勤務した大きな組織で、営業や企画部署などの各部署のデータを「横串」を刺す形で取り扱った経験から、それぞれの業務事情によって作られたシステムに収納されている、データの整合作業の難しさを感じて参りました。

個人顧客を主体としたビジネス部門と法人顧客を主体としたビジネス部門など、ターゲットとする業種業態も違えば、事業部ごとの事業規模が拮抗しているコングロマリット企業の場合、どちらか一方の業務都合を立てれば、もう一方の業務都合には合わないという理由で、仕様が固まりきらない事例は散見されます。

過去、時代のトレンドを追いかけようと熱意高く立ち上がった企画も、当初メンバーの前向きな発言が、いつの間にか部門間の利害調整に追われて疲労感が漂い、愚痴が多くなるという経験も何度か経験して参りました。

統合されていない社内のシステムに溜まっているデータ資産も、データマネジメント基盤を構築すれば「なんとかなる」という期待に裏打ちされて、一気にウォーターフォールでデータマネジメント基盤を構築されながら、使われずに日の目を見ないというプロジェクトも見聞きしてきました。

毎日追われる業務に手を取られ、営業部門が新規にデータ登録を繰り返した結果、同一取引先に関するデータが複数存在してしまうと言った現場起因の混乱もあれば、同じ製品でも納品先ごとに、違う製品番号を採番して管理するなどといった、業務フロー上避けて通れない混乱など、大小さまざまな調整事項がありとあらゆる工程で発生します。

その他、ERP製品導入に伴う業務フローとデータ体系の変更など、自社都合だけではない要因の混乱もあるでしょう。こういった「ハードシングス」が多発するデータマネジメントの推進プロジェクトにおいて、必要な要素とは何なのでしょうか?

データマネジメント推進プロジェクトには、全体を俯瞰できる人材が欲しいところだが……

まず思いつく要素として、既存の業務で使われるデータを集めて分析・整理して、対策を取れるファンクションが挙げられます。

一方で、社内でこれができる人材を確保しようとすると、適任者が少ないのも事実です。データマネジメント推進プロジェクトの企画部署は、企画を立てはするものの、全業務にまたがる実際の全データを触ることは不可能でしょう。

また、データを収納しているシステムメンテナンスを担当することが多い「情報システム部門」も、データの提出には協力できるでしょうが、主業務はあくまでメンテナンスですから、データの調査・分析に強みがあるわけではありません。

そこで、こういった状況では、業務上各社の数字を把握したり、横串を刺して管理しているユーザー部門が担当に指名されることも多いです。

大抵のケースでは、この人に聞けば何とかなる、という「生き字引」的な人が社内に一人はいて、その人がプロジェクトにアサインされるわけですが、生き字引になるような方ですから、当然、たくさんの別業務を抱えているわけです。

結果、データマネジメントの方針立案や経営陣とのコンセンサス形成に十分な時間が割かれずに、何となくプロジェクトのつじつまを合わせて無理やり終わらせ、そして、何年か後になって新たな基盤構築の企画立案の機運が高まるのを待つ……という話になりやすいのではないでしょうか。


プロジェクト成功のカギとなるのは、ツールでも役職でもなく「プロセスそのもの」

最近では、ノーコード・ローコードを中心にいろいろなツールが出現し、データマネジメント業務に関わるハードルを下げる動きやデータスチュワードという専門役職を作る動きも出ていますが、結局のところ、ツールや役職の導入を表面的に進めても、プロジェクトがうまくいくわけではないのは、想像に難くないところです。

それより本質的に大事なことは、皆の熱量が高いプロジェクトの初期段階で迅速にヘルスチェックを行いつつ、経営陣を巻き込みながら、組織メンバーのデータ品質へのコミットメントを積み上げていくというプロセスそのものではないか、というふうに思っています。

私自身も製品を売る立場の人間ですので、自戒を込めて言いますが、人々が望んでいるのは、ツールではなく、ユーザー部門の代わりに、既存の業務で使われるデータを集めて分析・整理して、経営陣への合意形成を担う工程のサポートなのだと思います。

最近、弊社は物流を起点とした、サプライチェーン全体のデータマネジメントに関するプロジェクトにも挑戦しています。難しいのは、単体の企業でも難しい利害調整をメーカーから物流、そして卸・小売など、複数のステークホルダーにまたがって実施しなければならないことです。

ここでも、顧客にとって価値を創出できるのは、ツールではなく、実際に使われているデータを収集して分析・課題を整理して、ステークホルダー間の利害関係調整や合意形成を促すファンクションである、と思って日々の業務に取り組んでいます。

今後もJDMCの活動を通じて、こうした業務での経験を共有しつつ、皆さまの意見をご経験を拝聴し、日々の活動のクオリティを上げて参りたいと思う所存です。これからもよろしくお願い致します。


和田 怜(わだ さとし)

株式会社シマント
代表取締役

金融機関にて営業店現場と営業部店向け業績推進企画業務、富裕層向け事業承継・資産運用セールス企画業務、CRE戦略構築支援業務等を経験。
2014年に株式会社シマントを起業。金融機関では、データマネジメント基盤の構築・コンサルティング、複数業務システムをまたぐ係数管理システムの構築、AI前処理業務自動化などのプロジェクトを手がけた。最近は、物流企業において3PL業務における配車管理システムの構築を手がける。

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