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会員コラム

【vol.73】Zホールディングス 工藤真一さん、議論を重ねてきた「AI倫理基本方針」を発表予定、世界に公開しAIの正しい進化に寄与したい

JDMC会員による「リレーコラム」。
メンバーの皆さんそれぞれの経験・知見・想いをリレー形式でつなげていきます。今回、バトンを受け取ったのは、Zホールディングス株式会社の工藤真一さんです。

Zホールディングスと私の紹介

はじめまして。Zホールディングス株式会社の工藤です。当社はヤフー、LINE、PayPay、ZOZO、アスクルなどの企業をグループ会社に持つ持株会社です。上場会社として社会、行政、投資家等に対して企業グループやガバナンスに関する説明責任の役割を有しており、私はその中でもサイバーセキュリティ、プライバシー保護、経済安全保障、AI倫理などを担当する組織におります。

2021年6月に当社はAI倫理に関する有識者会議を設置する発表をしました。そのプレスリリースに対してJDMC事務局の臼井琴美さんよりお問い合わせを頂戴し、それがご縁で本年度から正会員となり、有意義な関係を構築させて頂くことができました。大変感謝しております。またAI・データ活用のためのコンプライアンス研究会にも途中から参加させて頂き、西村あさひ法律事務所の福岡真之介先生、SBIホールディングスの佐藤市雄さん、NEC安井秀一さん、マクニカ神嶌潔さんらの最先端の議論に触れ、大いに刺激を頂きました。

さて、私の自己紹介とキャリアについて少しお話しさせて頂きます。私のキャリアは少し変わっています。2003年にベンチャー時代のヤフーにエンジニアとして中途入社し、Yahoo!トラベルなどのサービス開発、運営を担当した後、他社合弁で立ち上げたソーシャルゲーム会社の立ち上げに関わり、経営に参画しました。その後再びヤフーに戻ってきて、当時社員数の増加で複数のビルに分散していたオフィスを統合し、現在の紀尾井町のオフィスに移転するプロジェクトに携わります。さらにその後はまたまた畑違いの財務企画部門を経て、ホールディングス体制の移行に伴い現在の組織に出向し、AI倫理等を担当し現在に至ります。

同じ企業に属しながらも、その時々で旬の仕事に携わらせてもらえたことは、困難もありましたが、多様な経験と多様なスキルを付けさせてもらえた点で、会社に感謝しているところです。

ソフトバンクアカデミアとAIとの出会い

そんな私のキャリアの中でも、大きなインパクトがあったことの一つは、ソフトバンクアカデミアではないかと思います。ソフトバンクアカデミアは、孫正義さんが作った経営の学校で、ソフトバンクの次世代の後継者を作り育成するために、孫さんが培ってきた経験、ノウハウを惜しみなく教えるというものです。幸運にも入学出来た私は、2度孫さんの前で5分のプレゼンテーションをする機会を頂きました。孫さんは私のつたない話を大変真剣に聞いて頂き感激したのと同時に、終わった後、私の背中が滝汗でぐっしょりとなったのを覚えています。

「シンギュラリティ」という言葉を初めて聞いたのも、孫さんからでした。シンギュラリティとは、AIが人類の知能を上回る技術特異点。最初に聞いたとき、理念は分かったものの、具体的に何が起こるのか。社会がどう変わるのか。ビジネスにはどう影響するのか。全く予測がつかなかったというのが正直なところでした。

私がそれを明確に感じることができたのは、2012年に当時の日本将棋連盟の会長だった故米長邦夫先生が、AI将棋のボンクラーズに平手戦で負けた時だったと思います。当時でも天気予報のような情報量が主となる戦いではAIに分がありましたが、人間とAIが将棋盤面という同じ情報量で対峙したとしても、AIの意思決定が人間を上回る結果を出す。それを目の当たりにして衝撃を受けると同時に、AIの将来性を強く感じました。

AI倫理基本方針の作成

AIにはこれまでの人間の生活や社会を革新的に良くしてくれる可能性があると思います。既にAIは深層学習や強化学習、システム開発環境が急速に進化し、多方面で応用がなされ、我々の生活を改善し始めていることは周知の通りです。今後ますますAIを使ったプロダクトサービスが社会を非連続に成長させてくれると思うと、ワクワクします。

一方でこのことはAIを提供者が意図せずとも悪意をもって使われてしまう、あるいは想定外の形で作動してしまうと、その強力さがために深刻な問題を起こしてしまうことを意味します。フェイクによる社会の分断、富や資源の不均衡、身体や財産の損害や、これまでには無かったAIならではの問題が現実となることもあろうかと思います。しかもそのようなAIの使われ方や振る舞いに対して、現時点では法律や社会のガードが十分整備されているとは言えません。

当社がAI倫理に関する有識者会議を設置してからまもなく1年が経過しようとしています。
そしてこのほど議論を重ねてきた「AI倫理基本方針」を発表する予定です。これは当社グループにおけるAIの正しい利用を促進するとともに、負の側面を抑止する指針を示し、今後定める具体的な自主ルールの理念となるものです。

この基本方針は当社グループのこれまでのAI開発、運用、失敗の経験や、国内外の政府、団体、企業などの議論やガイドライン、慶應義塾大学の大屋雄裕先生をはじめとする有識者の先生からの献身的なアドバイスと、そしてJDMCの研究会での議論等を注入しており、リリース時点では最善最良と自負するものです。そして、多くの皆様のご協力で仕上がったこの成果物は、広く世界に公開し、社会に還元させて頂くものでもあります。世界のどこかで何かの参考になり、AIの正しい進化に僅かでも寄与することができたなら、パブリッシャーとしてこれ以上の喜びはありません。

最後に、Zホールディングスは基本方針を発表した後も、技術革新に追随するためのアップデートと、その方針をどう実効的に遵守していくかについて、次のマイルストーンを置いています。もしご興味がある方がいらっしゃいましたらお声がけ頂けると幸いです。

工藤 真一(くどう しんいち)
Zホールディングス株式会社
GCTSO(Group Chief Trust and Safety Officer)企画室室長

1995年東京理科大学理学部応用物理学科卒業。2003年ヤフー株式会社入社。2013年ジクシーズ株式会社取締役。2018年ヤフー株式会社財務企画本部長。2020年より現職。情報処理安全確保支援士、第二種電気工事士、宅地建物取引士、ソフトバンクアカデミア1期生。島根県出身。

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