CRM研究会メンバー・マルティスープ株式会社 千田益護
2021年2月3日(水)、CRM研究会オープン研究会の第2回目を、オンラインで実施しました。オープン研究会は、研究会メンバー以外、JDMC会員であれば参加できるものです。今回は、小売業界の伝説のマーケターと称されている、前田 徹哉氏(株式会社ビービット)をゲスト講師にお迎えしました。 デジタルデータをどう読み取って顧客の状況や的確なコミュニケーションを設計したらよいのでしょうか。「CRMにおけるデジタルデータ活用‐ECにおける戦略的なUX構築の方向性‐」をテーマに講演と質疑応答を行いました。50名程の会員が参加し盛況に開催しました。
前田氏の講演の一部を箇条書きでレポートします。
オープン研究会概要
日 時: | 2021年2月3日(水)18:00~19:30(オンライン) |
参加者: | JDMC会員限定 |
ゲスト講師: | 「CRMにおけるデジタルデータ活用」 株式会社ビービット UXインテリジェンス事業部 SaaSセールス シニアマネージャ 前田徹哉 氏 |
進 行: | 逸見光次郎 株式会社CaTラボ 星 祐輝 株式会社 三越伊勢丹 武藤奈緒子 株式会社みずほ銀行 |
■アジェンダ
1.顧客の維持、育成、獲得
2.ある人間の実話に基づいたEC運営の一定レベルでの成功とその後の挫折の事例
3.アフターデジタルの世界観とUX改善の重要性(概要)
4.データドリブン・マーケティングの現状
5.USERGRAMを活用しての成果創出事例
6.まとめ
1.顧客の維持、育成、獲得
- ECは、顧客と長期的な関係性を築くこと(活動としてはCRM)を、最上位の概念に据えてマーケティング展開する業種。すなわち、「LTV追求型業種」。 ※LTV=Life Time Value、顧客生涯価値。
- 「LTV」を追求するためには、既存顧客の「維持・育成」、新規顧客の「獲得」が不可欠。
- 顧客の「維持・育成・獲得」を推進する上では、顧客との関係性(ステージ)がどう推移しているのか(数、率など)、その状況を正しく把握することが重要。
- サイト上の顧客一人ひとりの行動データを抽出し、特定の状況での特徴的な行動(=モーメント)を分析するツール「USERGRAM(ユーザーグラム)」を活用した例を紹介。
既存顧客の維持:
顧客がストレスに感じているポイントを発見して改善する。顧客が購入したいのに購入できないというチャンスロスを見つけ改善する。
既存顧客の育成:
顧客の行動から、購入データでは見えないニーズを探り、提案機会を提供する。顧客が望むであろうコンタクト手段(時間、デバイス、コンテンツ)を探り、一層のロイヤル化を推進する
新規顧客の獲得:
休眠していても来訪してくださっているお客様の行動から、復活のボトルネックを探り改善。・純新規顧客の獲得に至る部分でのペインポイントを探し出し、改善する
2.ある人間の実話に基づいたEC運営の一定レベルでの成功とその後の挫折の事例
「顧客勘定」と「商品勘定」
- 「顧客勘定」とは、顧客が現金と引き換えに商品の所有権を獲得することによってもたらされる売上高
- 「商品勘定」とは、棚卸資産が現金に交換されることによってもたらさせる売上高。
- ある企業では、「顧客勘定」という考え方によって、ECの売上と営業利益を大幅に伸ばした(売上高の伸長率は7年で約450%、営業利益の伸長率は3年で約350%)。
- 「商品勘定」に加えて、「顧客勘定」という視点からPDCAサイクルを回すことで「顧客資産」の最大化を推進した。
顧客セグメントと顧客ステータス
- ある企業では、購買行動に基づいた「9つのセグメント」と購買金額等に基づいた「4つのステータス」を組み合わせて、きめ細かいマーケティングを推進。
- 自社と顧客との関係性がどう推移しているのか(顧客の移動)を、徹底してウォッチし、離反に対して打ち手を講じた。
- 上位30%の顧客にフォーカスした資源投入:上位30%の顧客の維持、上位30%と同じステータスへの育成、上位30%と同じステータスになりうる新規顧客獲得を重点化することで、売上高の80%を構築
- 顧客勘定に基づいたPDCAのフレームワーク:推進
- 離反、ランクダウンの抑止施策の成果:50%→35%まで改善
- ユーザ起点で改善案を考える際のポイント:ユーザの状況を想像し理想の体験から改善案を考える必要あり
3.アフターデジタルの世界観とUX改善の重要性(概要)
- UX(User Experience=顧客体験)とは、企業が提供する全てのタッチポイントを通じて、ユーザが感じたこと全ての総称
- UI(User Interface=ユーザインターフェイス)とは、PCやスマフォに表示されるデザイン、フォントや製品そのものや外観など、ユーザの目に触れる情報
- UX改善のポイント:以下の3点。
A)想定と違う文脈に着目する
B)購買行動だけでなく、検討行動を捉える
C)量を踏まえて判断する
- 2種類のユーザ視点:よくあるユーザ視点Inside Out/あるべきユーザ視点Outside In
「ユーザはどういうニーズか、どう伝えるか」ではなく、「ユーザから見て自分たちはどう見えているのか」を捉える。 - UX改善における重要な思考方法「OMO」:全てのタッチポイントをオンラインの考え方で再構成
- OMO時代に生き残るカギは、「ユーザ起点で思考し、UXを向上させる姿勢」
- アフターデジタイル=オフラインのない時代
- 起業に求められる思考の転換:単一接点型から常時寄り添い型へ:状況ターゲティング
- 時代の変化~企業と顧客のコミュニケーションは状況単位
- エクスペリエンス中心=バリュージャーニーを磨き続けられるか
4.データドリブン・マーケティングの現状
- Googleアナリティクスなどのアクセス解析:
結果系の集合知と呼んでいる(PVが多い、コンバージョンレート高かったなど)。
USEGRAMでは、これに加え、背景を探って改善案を出していく。 - デジタルマーケティング領域では、アクセスログを計測し、個票データとして活用する
購買行動だけではなく、検討行動を見るとそれぞれ状況がことなる。例えば、マグカップを購入するケース。Aさんの場合。Googleの自然検索からギフト品ランキングに入って、商品紹介から価格帯をみて絞り込んで、商品詳細をみてラッピングオプションに行きました。これは事実。事実が並んでいる。これは、自分用に購入にしている訳ではなくて、このマグカップを人にあげようということでみているんだね。という形で、検討行動を読む。 - 個票データを業務で活用するには工夫が必要:
個票データを一つひとつ分析するのは非現実的。シーケンス単位で分析すると良い。行動全体の50%を占める場合がある。
5.USERGRAMを活用しての成果創出事例
- ユーザ行動を一人ひとり可視化し行動の背景や理由を明らかにするUSERGRAM(ユーザグラム)を活用した事例の紹介
メルマガ配信タイミング変更:売上300%以上
パスワード照会フォーム改善:離脱率50%改善
ABテスト勝率:勝率10%以上
映画公演ページ閲覧顧客にもバレエ公演を案内:CVR9倍
6.まとめ
- ECという観点でのUX改善の枠組み:
ECは顧客と長期的な関係性を築くこと、つまりLTV追求型業種である。
UX改善を行うことでビジネス上のKPIである「顧客の維持、育成、獲得」を推進していくことが重要。 - アフターデジタルの世界観とUX改善の重要性:
オンライン/オフライン分けずに、一連の良い顧客体験(UX)を作ることが重要。「単一接点型から常時寄り添い型」へ - データドリブン・マーケティングの現状:
結果の原因を堀り下げずにDo , Seeを繰り返すのではなく、ユーザ行動を可視化して「なぜ」を掘り下げて施策立案を行うことが重要 - USERGRAMを活用しての成果創出事例:
成果を創出していく企業に共通しているのは「違和感のある状況を発見し、お客様の不安要素を除去するとともに、見えていなかったニーズを可視化して施策を立案、実行」していること
参考文献
「アフターデジタル2 UXと自由」(藤井 保文著 | 2020/7/23)
「アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る」 (藤井保文・尾原和啓著– 2019/3/23)
■参加者アンケート
- とても面白いお話ありがとうごいました。
- 貴重なお話を大変楽しくお聞きすることができました。 ありがとうございました。
- 大変参考になりました。ありがとうございます!! データ分析で見えることは広がると思いつつ、違和感を発見するのは人間というのもわかりました。データが少ないとないものねだりで欲しくなりますが、少なくても、目的や分析視点をしっかり決められるように、仕事の進め方を見直してみようと思いました。
- 私はAWSやAzureのクラウドのデータプラットフォームサービスでデイタレイクやオムニチャネルの仕組みをお客様に構築し提供していて、最近は行動データを扱うことが増えてきていますが、今回の話を聞いて具体的にどのように活用して、次の一手を講じる施策を考えているのかという話が伺えてとても参考になりました。
- ECの世界は、B2Bと全然違うことが理解できて、楽しかったです。
- 弊社でもお客様に対し、UXの最適化に対して顧客ビヘイビアが重要であり、利用しない手はないというおすすめをしております。今回は、その裏付けができたという意味でも有意義でした。
- 複雑なことを簡潔に卑近な例でご講義いただき、あっという間の1時間でした。相関関係と因果関係の違いは常に意識鶴必要があることを教えていただきました。またOMOについて、全てのタッチポイントをオンラインの考え方で再構成する、ということについて、より具体的にイメージしたいと思いました。とても刺激あるご講義、本当にありがとうございました。
- 特定ユーザの行動を追う、ビッグデータからの機械学習とは逆のアプローチで、おそらく得られる示唆も異なると思われるので、そのようなデータの見方も活用していきたいと思いました。
- やはり総論より、各論で細かく踏み込んで行って話が出来る方が面白いだろうなと思いました。
- 普段聞けないお話を伺えた点は今後のデータ分析の学びのインプットになりそうです。 前田さま、事務局のみなさま含め、有難うございました。
※前田 徹哉氏 慶應義塾大学文学部卒業後、西武百貨店(現そごう・西武)入社。その後プライスウォーターハウスコンサルタント(現日本IBM)にて小売業や製造業のマーケティング戦略立案や顧客情報活用支援に向けた業務設計、IT要件定義などのコンサルティングに従事した後、スクウェア・エニックスに入社。学習研究社との合弁企業である株式会社SGラボにて代表取締役社長を務めた後、スクウェア・エニックスのオンライン事業部長としてECやコミュニティの統括に従事。2011年10月にタワーレコード入社。オンライン事業本部 本部長としてタワーレコード オンラインショップの統括の任に従事。2019年4月にビービットに入社。中小企業診断士。 |
※株式会社ビービット データをUXに還元する専門集団。ビービットは人間の心理・行動を可視化することで、ユーザの体験を高めていくことを追求している会社です。 年間1,000人以上を対象に実施する「ユーザ行動観察調査」などの科学的な手法を用いたコンサルティングサービスと、ユーザエクスペリエンスを可視化するUXチームクラウドUSERGRAM(ユーザグラム)の開発・提供により、企業がユーザ体験を向上させるための支援をしています。 デジタル時代だからこそ、企業が日々、データによってお客さまの様子をいきいきと実感し、体験の改善に取り組める世界を目指しています。 ホームページ;https://www.bebit.co.jp/ |
※CRM研究会について B2B、B2C、B2B2Cなど、様々な業務に携わるメンバーが集っています。今年度は、テンプレートに沿って各自のカスタマージャーニーマップ(CJM)を策定。 CJMはみなさまご承知の通り、ユーザが商品やサービスに関わる際、認知・興味・検討・購入などの様々な行程があります。そしてユーザの行動と、それに紐づく思考や不満など感情の動きを時系列にまとめたものです。ユーザユーザーの全体像を可視化ユーザな顧客との関係を発見・創造します。本研究会が「JDMCらしい」のは「データ」に拘っていることです。CJMに登場するペルソナ(架空の顧客像)はデータに基づいて設定すること、CJMで収集蓄積されるデータはどういったものか、などがくり返し議論されています。 |