日本データマネージメント・コンソーシアム

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【インタビュー】マーケティング分野におけるデータ活用の最先端事例を披露、データ活用の実践的な手法が学べる研究会

真にデータを活用し企業の競争力に貢献することを目指して、2011年4月に発足した日本データマネジメント・コンソーシアム。JDMCでは現在、6つのテーマに分かれて研究会を開催している。今回、紹介するのはテーマ1「顧客行動分析による実践的なデータマーケティングのアプローチ研究」である。同研究会ではどんなメンバーが、どんな取り組みをしているのか、リーダーを務める小泉泰慎氏(セイコーエプソン IT推進本部ビジネス分析エンジニアリンググループ主任)、そしてサブリーダーの佐藤市雄氏(SBIホールディングス 社長室 ビッグデータ担当 次長)、宮本玲氏(アシスト 情報基盤事業部 製品統括部 技術3部課長)、金光博明氏(トライアルホールディングス 経営戦略部 東京分室 担当課長)、堀内康夫氏(アシスト 顧客専任支援室)に話を聞いた。(聞き手・ライター中村仁美)

参加メンバーはユーザー系、ベンダー系が約半々

──まずはみなさんの普段のお仕事について教えてください。

小泉氏 社内での販促領域のデータ活用の推進に従事している。販売会社と協業し売り上げアップに向け、Webサイトと顧客のプロファイルをつなげて、購入してくれそうなお客さまのターゲティングを行っています。現在、当研究会のリーダーを務めています。

佐藤氏 社長室でビッグデータを担当。ネットを中心としたSBIグループ全体での活用を推進しています。JDMCの活動では、当研究会の前身となった研究会「顧客行動分析による実践的なマーケティングアプローチとは」で、2013年、14年のリーダーを務めました。そして15年からはサブリーダーを務めています。

宮本氏 アシストのETL(Extract/Transform/Load)製品の、技術マネジャーを務めています。JDMCに参加したのは、データ連携という仕事が多く、データ活用のための研究をするためです。2013年から参加しています。14、15年とサブリーダーを務めています。

金光氏 トライアルは流通小売業です。ID-POSデータを有効活用したOne To One マーケティングや、メーカー様、卸様と協業で売場作りをしていくカテゴリマネジメントのシステム企画を担当しています。今期からサブリーダーを務めています。

堀内氏 顧客専任支援室で、重要顧客に対し、技術支援や提案をしている。JDMCは2013年から参加。ソーシャルデータの活用研究で2年リーダーを務めました。今年はソーシャルデータとマーケティングデータの研究会が統合されたことで、今回からこの研究会に参加しています。

──研究会の位置づけについて教えてください。

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小泉氏 私たちの「顧客行動分析による実践的なデータマーケティングのアプローチ研究会」は、顧客との新しい関係性を構築し顧客に対して効果的にアプローチするために、顧客データを有効に活用するための手法の研究や、活用する際に注意すべき点や課題をケース研究から探り、ガイドラインを作成すること、さらにはソーシャルデータを活用したアプローチの研究などを行っています。そのため、参加しているのは実際にユーザー企業のマーケティング領域でデータ活用されている方、ベンダーでデータマネジメントツールやシステムを扱っている方、販促領域に課題を持った方です。どういう風にデータを活用していくのが良いのか、各社の経験や事例をベースに、マーケティング分野におけるデータ活用のフレームワークの完成を目指してディスカッションを進めています。

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宮本氏 もう少し具体的にメンバーの構成を披露すると、ユーザー系とベンダー系は約半々の割合です。ユーザー企業の方はデータ活用に関して実際に直面している課題を解決したいと思い参加していますし、ベンダーはユーザーがどういうところに困っているのか、課題に思っているかを勉強したいと思って参加しています。研究会が立ち上がった初期はアウトプットに関してはそれほどこだわってはいなかったのですが、最近はアウトプットをきちんと出そうという流れになっています。当研究会では一人1回は発言することにしており、ディスカッションは非常に活発です。

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金光氏 他業種の人もいるので、事例発表といってもあまりオープンにせず、探りながらやっているかなと思いましたが、実際はかなりオープンに話し合っているので、自分のためにもなるなと思いました。当初のイメージとは違い、嬉しい誤算でした。

shikakuソーシャルデータの活用研究会を統合した理由

──この研究会のテーマである顧客行動分析によるデータマーケティングには、さまざまな難しさがあると思うのですが。

小泉氏 私たちの研究テーマは人を対象としています。お客さまは一人ひとり異なる嗜好を持っています。さらに市場を捉えて、その一人ひとり異なるお客さまにどうアプローチしていくか、それが難しいところですね。お客さまのプロファイル情報やWebや店舗での行動データ、そういうデータを基にどういったことをすればお客さまが喜ぶ情報を提供でき、成果に結びつけられるのか。世の中の状況、そのときのお客さまが置かれている状況にも左右されるので難しいです。

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──人間は不確定要素が多いですからね。また本年度からソーシャルデータの活用も研究テーマとして扱うようになりました。なぜ、「企業におけるソーシャルデータ活用研究」と統合することとなったのでしょう。

堀内氏 「企業におけるソーシャルデータ活用」研究会の活動が始まったのは4年前です。ちょうどソーシャルメディアが爆発的に広がった時で、その管理の仕方取り扱い方の知見についてあまり知られていませんでした。そこで、研究してみる価値はあると言うことで発足したと記憶しています。同研究会では一応の成果物も出しましたし、今やソーシャルメディアはマーケティングツールとしても重要な位置を占めています。そこでより広いテーマを扱っている当研究会と統合することとなりました。

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佐藤氏 どのデータが役に立つのか、どういうデータがマーケティングに使えるのかについては13年、14年の研究会の議論の中心テーマでしたが、議論は充分には深まらなかったのです。重要なのはお客さまにどうアプローチしたいのか、その具体的なアプローチの手法、そして企業としては何をしたいのかです。したがって、15年以降はそれを主題にデータをどう使うのかというところで議論を進めてきました。ソーシャルと統合することになったのは、ソーシャルもマーケティングデータの1つ。一緒に議論した方が、話としてはまとまってくると考えからです。

宮本氏 リーダーに小泉氏が就いて以来、当研究会では、毎年テーマを据えて、議論を進めています。ただ、テーマは決めても実際にどういう議論をするかは年間計画として特に決めていません。

小泉氏 研究会の前半は、参加している方が自社の事例や支援している内容を発表し、その情報を共有することを行います。その方が本来なら外で言えないような内容も比較的話をしていただけるので、一般的な講演よりも勉強になることも多いのです。

金光氏 そして発表された内容について議論していくわけです。ここでは正直ベースでの話が聞けるので、議論が盛り上がります。

shikaku研究会の活動の中心は参加企業の自社事例の紹介

──議論が盛り上がると、発散してしまうこともありますが、そのあたりの工夫は何かしていますか。

堀内氏 1年間で研究会の活動は10回。前半で議論を発散させ、後半で成果物にまとめていくのです。

佐藤氏 議論を発散させるのは、各社の状況がどこまで進んでいるか分からないからです。活用ができていない企業は、どんなデータが社内にあり、どう蓄積しているのか。また実際にデータ活用が進んでいる会社は、どこまでできているのか、どんなアプローチをしているのかなど、それを見極めるためにもディスカッションを制限することなく、自由にできるようにしています。

──JDMCの参加している企業は、データ活用について日本の中で進んでいるのでしょうか。

堀内氏 状況は様々です。先進企業もおられますし、遅れている企業も当然あります。業種によっても、進み具合は違いますから。

佐藤氏 肝心なのは進んでいる、進んでいないという基準ではないと思います。例えばある企業ではデータの精度にこだわっているが、他の企業ではスピード、分析のサイクルにこだわっている、また見える化に注力している企業もあれば、ソーシャルデータに注力している企業もある。そういった業種の違いで注力ポイントが違うという点がわかることも、非常に参考になると思います。これから勉強したいという企業の方も、データマーケティングのアプローチ手法について一通り聞けるので、吸収できることも多いと思います。

──データマーケティングについてどの程度の知識があれば参加可能でしょうか

小泉氏 マーケティングに関しては事前知識として持っていた方がよいですが、特に「どんな知識が必要か」ということは気にしなくても良いと思います。マーケティングについてこれから勉強を始めるという方もいらっしゃるので。私たちの研究会はいい意味で仲良く、何でも話せる雰囲気ができています。途中からでも参加しやすいと思います。研究会は6時半から8時半の2時間ですが、その後に懇親会を設けています。懇親会は研究会の延長という感じで、より「ここだけの話」が多くなります。初めての方も溶け込みやすい雰囲気ですよ。登録メンバーは40人。その半数以上が毎回、研究会に参加しています。

参加者が持ち帰れるものとは

──参加するメリットについてお聞かせください。

佐藤氏 毎回、参加者には何か持って帰るモノを提供することにこだわって運営しています。具体的な事例は、当日、参加した人しか聞けない内容となっています。それが一番のお土産ですね。また現在、これまでの事例を参考に、データマーケティングのアプローチのフレームワークを作成しています。社外に発表する際、そのフレームワークを活用して自分たちの活動をまとめていくことが具体的にできるようになりました。

──ベンダーの方が参加していることで、ユーザー企業の方が自分たちを狩りにきているのでは、という懸念を持つ心配はありませんか。

堀内氏 ベンダーの立場で参加していますが、業務ではマーケティングは無縁で、個人的に勉強したいという考えで参加しています。こんな時にこういう施策を打つとこうなるということがわかるので、自分たちのお客さまに話すときの知識として活用しています。また私はマーケティングの素人なので、違う角度からの意見を述べる役目を担っていると思っています。

宮本氏 私自身、製品の技術を担当していると視野が狭くなります。だからこの研究会に参加すると、集積されたデータがどのように活用されているのか、見えてくる。ビジネスパーソンとして成長できる機会になっています。

──コンサル系の方も参加していますが、どういうかかわり方をしているのでしょう。

佐藤氏 サブリーダーを務めている堀内さんもコンサルですが、事例を発表した際、それについてコンサル系の方にコメントをいただけるのは非常に勉強になります。また自社でできていること、できていないことをディスカッションする中で抽象化してプロセスにまとめてくれるということも得意としていますし、議論も深めてくれます。コンサル系の方、データ専門家の方など、さまざまな視点の方が集まって議論できるのが、この研究会のいいところだと思います。

リーダー、サブリーダーを務める面白さ

──リーダー、サブリーダーとして活動していますが、リーダー(サブリーダー)について良かったということ、また苦労したことについて教えてください。

堀内氏 苦労したことは、準備にそれなりの時間が必要になることですね。実業務とのバランスをいかにとるか苦労しています。しかしリーダー、サブリーダーをやると他の研究会のリーダーやサブリーダーとコミュニケーションを取る機会があるので、人脈が広がります。有益なことも多い。運営するにあたって苦労というか気にしているのは、参加している方にいかに有益だと思っていただけるかということ。次回も参加したいというモチベーションが得られるところを気にしています。

金光氏 まだサブリーダーに就いて少ししか経っていないので、苦労は特にしていません。しっかりしたアウトプットにするところで苦労するのではと思っています。社外の人と連携して結果を残せるというのは、自分にとっても大きなメリットだと考えています。

宮本氏 成果物を作る段階になると参加者が減るというのが悩みですが、まとめるという作業は自分のスキルアップにつながりますので、苦労は特に感じていません。堀内さんもおっしゃいましたが、リーダー会はいろんな人が集まっているので本当に面白い。参加すると勉強になります。

佐藤氏 苦労するのは、議論が発散していくので、議事録も膨大になり、それをどう抽象化できるかを検討することです。ヒアリング手法や戦略、計画という一つ一つの細かな概念についてまとめていくため、それぞれについて勉強が必要になります。そこも苦労しています。参加者の中には大きなイベントで登壇される方もいます。そういった大御所の方と議論ができるのも非常にためになります。

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小泉氏 私は販促業務に就いた年にJDMCに参加しました。今年で3年目です。今はまだ自分の知識のなさを感じているところ。そんな状態でリーダーについたので、最初は大丈夫かなと不安でした。しかし人脈を広げたり、ファシリテーションや人前で話す経験をしたり、度胸を付けたりということができると思い引き受けました。結果、人脈も広がりましたし、ファシリテーションの勉強にもなった。この3年間は非常に充実しています。ファシリテーターとしてどうすれば話しやすい環境を作れるのかについてはまだまだ手探りで苦労していますが、それも良い勉強だと思っています。

4章から成るフレームワークを作成。データ活用の参考にして欲しい

──今後の展開について教えてください。

小泉氏 今多くの方に参加していただき、活用してもらえるようなフレームワークの作成に取り組んでいます。
フレームワークは0章から4章という形でまとめています。0章は現状の把握。ここでデータや業務、課題、現場を理解します。1章ではそれを受けて、どのデータを活用していこうかという戦略の立案を行います。2章で戦略、計画をベースに必要な社内・社外からデータを収集します。3章はそのデータを使って分析・集計、クライアントの部門に理解してもらえる形に整理します。2章と3章は頻繁に繰り返すことを行います。なぜなら、データの精度が悪い、項目の追加が見えてくるからです。そして業務に活用できるようになると4章へと進みます。4章は根付かせる活動です。特に私たちが重視しているのが1章です。しっかりとした戦略・計画が立てられていないと、それ以降スムーズに進まなくなります。他の章もまだまだ課題は多く、検討しなくてはいけない状況にあると認識していますが、1章は特に深堀をしていく必要があると考えています。

──最後にこれから参加を検討しているみなさんにメッセージをお願いします

小泉氏 今年は金融系の方が増え、今までに無い分野の方がより多く参加しています。様々な業種、企業の方が、真剣にデータ活用についてディスカッションする場。マーケティングの知識の無い方でも、データ活用について理解していただけると思います。気軽に参加してください。

佐藤氏 当研究会はJDMCの趣旨にある日本の産業への貢献も実現できうる研究会だと思っています。ここで話される事例は、おそらく日本におけるその業界、ジャンルにおいて最先端のものです。そういった事例を直接の担当者から学ぶことができるので、自社への貢献もできます。データ活用の勘所もつかめる。グローバルの概念というよりも、日本企業でこういうやり方ができるという実践的なやり方が学べるので、ぜひ、参加してください。

■インタビュー後記

日本のデータ活用は、欧米と比べると数歩遅れていると言われている。その状況を変えていく役割を担っているのがJDMCである。JDMCの中で同研究会は、データ活用をけん引していく役割を担っている。毎月第三木曜日にNTTドコモ本社(千代田区永田町)の会議室で開催されている。マーケティング分野におけるデータ活用に関心のある方、データ活用がなかなか進まない方は、ぜひ、参加してみてはいかがだろう。(なかむら・ひとみ)

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