JDMC会員による「リレーコラム」。
メンバーの皆さんそれぞれの経験・知見・想いをリレー形式でつなげていきます。
今回、バトンを受け取ったのは、株式会社セゾン情報システムズ 細見 征司さんです。
皆さま、はじめまして。セゾン情報システムズの細見と申します。
私は「HULFT」や「DataSpider」といったデータ連携の製品を提供するソフトウェアベンダーでデータ活用分野のマーケティングを担当しています。
弊社では、自身が提供するサービスをまずは自分たちが率先して導入・活用することで、実体験から得たノウハウをお客様へ提供する“Eat our cooking”という考え方を大切にしています。要するに自分たちが食べてみて、価値があると判断したものをお客さまに提供しているわけです。
それはデータ活用においても例外ではなく、社内で保持しているさまざまなデータを公開し、社員の誰でも自由に分析・可視化できるようにデータ活用基盤を運用しています。
今回のコラムでは、弊社が全社データ活用に取り組むことにした背景や、それをどのように推進したのか、社員がデータ基盤をどのように活用しているかなどを紹介します。皆さまの参考になれば幸いです。
セゾン情報システムズがデータ活用に挑んだ背景
弊社は約5年前から社内システムの100%クラウド化を進めてきました。これは前述のEat our cookingの考え方の下、勢いのあるSaaSサービスと弊社が得意とするデータ連携技術を組み合わせることで、自社業務を実験台にDXのエコシステムを構築しようというものです。
社内システムをクラウドに移管していくと、業務が標準化・効率化され、業務を回すという観点においては楽になっていく一方、社内のデータがどんどんクラウド上に分散していくことで新たな課題が生まれました。
例えば、データを使って経営状況を可視化したい、データ分析によって事業の成果を高めたいといった場合、データが各サービスへ分散しているためにスピーディーに対応しにくいといった形です。そこで弊社では、SaaSを活用した業務DX化の次のステップとなる「データ活用」を見据え、データ連携の力をもって、データ活用を実現しようと考えたわけです。
目標は「全社員」がデータを活用している状態にすること
ひとえにデータ活用と言っても、「どこまでやるか」は各社で異なるでしょう。弊社がデータ活用で目指しているゴールは以下の通りです。
1. すべてのデータがこの基盤の中にあることを、全社員が認識していること
2. 個別にデータが管理されず、すべての情報がシェアされていること
3. データリテラシーが養われることで、全社員がデータに対する影響やリスクを理解できるようになること
4. データ民主化により情報格差がなくなり、全社員がクリエイティブな仕事をしていること
5. これらの実績をユースケースとして、お客さまに自分の言葉で説明できること
中でも特徴的なのは“全社員”がデータを活用している状態にする、ということです。
弊社は約700人の社員が在籍していますが、IT企業の弊社といえども、すべての社員がITに長じているわけではなく、営業、マーケティング、バックオフィスなど非技術系の社員も多く在籍しています。
全社員がデータを活用している状態にするという目的を達成するには「データ集めました、ご自由にお使いください」というだけでは不十分。材料だけあってもどのように料理すればよいか分からないからです。 最終的には社員一人ひとりがデータ活用の手順やノウハウを身につけ、データを手軽に参照し、分析・自動化のツールを駆使して目的を達成できるようにする必要があります。この課題をいかにクリアするかという点に、弊社の創意工夫があったと言えるでしょう。
カタログ作りから3カ月の学習カリキュラムまで。誰でもデータを使える仕組みをどう作ったか
全社員がデータを自発的に活用するためには、何よりまず、社員が活用したいと望む魅力的なデータが基盤に格納されている必要があります。
そこで弊社では「データと業務の関連性を知り、意味付けができる社員」の関与が要であると考えました。データの意味や業務の課題を知る人の頭の中にこそ“真の要件”があるからです。そのため、プロジェクト構想段階から各部門の担当者に参画してもらうことにしました。
まず取り組んだことが、社内に存在するすべてのデータの棚卸しです。各システム・サービスに保持しているすべてのデータを列挙し、業務担当者に「このデータは分析・可視化に使えそうか?」と確認しながら、格納するデータを選定していきました。
合わせてデータ特性の見極めも行っています。過去の時点情報が必要なデータについては「何年前までさかのぼれるようにするか」、秘匿性が高く全社員に公開すべきではないデータについては「データを閲覧して良い社員は誰か」といった要件も整理していきました。
次に行ったのは、社員が「どのように」欲しいデータにたどり着くか? ということです。そのために導入したのがデータカタログです。これは一言で言うと「データ辞書」のようなもので、データ基盤に格納されているデータを自由に検索でき、データが示す意味やそのデータに詳しい人は誰か、といった付随情報を調べられる仕組みです。
このデータカタログを全社員に展開することで、社員が主体的にデータを活用できるようになります。そうして必要なデータを手に入れた社員が自らの手で業務改善を行えるよう、データを「活かす」ためのツールを申請性で社員に提供することにしました。
用意したのは自動化・効率化を実現する「データ連携ツール」と、分析・可視化を可能にする「BIツール」の2つ。これらのツールを社員が使いこなせるよう、3カ月かけて使い方を身につけてもらうための教育カリキュラムを実施しました。
各ツールに精通している社員が講師となって手ほどきし、最後には「社員の在宅勤務率をBIツールで可視化する」という総合演習まで行いました。このカリキュラムを通じて「データを業務に活かすというのはこういうことだ」という体験を積んでもらうことができました。
さらに、データ基盤に関するあらゆる情報を網羅したポータルサイトも開設しています。利用申請、学習コンテンツ、規約ルール、データ鮮度といった、利用者が使い始めるときや日々使う中で迷うであろうポイントを可能な限り掲載し、誰でも参照できるように公開したわけです。
このように弊社では、データを活用したいと望む社員に対し「こうすれば良いよ」といった方法を示すことこそが重要だと考え、入念に仕組みを構築していきました。データ活用に向けた環境作りについては、以下のコラムでより詳しい話をご紹介しております。ぜひご覧になってみてください。
https://www.hulft.com/hulft_square/case_12-1
「情シス抜き」で回るデータ活用基盤が完成、業務改善事例も出始めた
このような過程を経て、2022年4月にデータ活用基盤の運用を開始し、社内のデータがオープンになりました。
基盤ができたことで、社員はデータが欲しいと思ったとき、従来のように情シスにデータ提供を依頼するのではなく、自らの手で必要なデータを入手して分析・可視化を行えるようになりました。
社員はデータを活用したいと考えたとき、まずは前述のデータカタログを用いてデータ基盤の中から使いたいデータを検索し、検索結果として表示されるデータ項目やその意味、実際のデータなどを確認しながら分析のしかたを設計できます。
弊社ではデータマートも自由に作成できるため、分析の前にデータ加工が必要なときには、データ連携ツールを用いて加工したデータを保存しておくことも可能です。最後にBIツールを使って目的に沿ったVIZ(グラフや表)を作成するといった流れで活用しています。
この一連のプロセスにおいて、情シスに何かを依頼するといった必要は特になく、すべての工程を自由意思で進められるようにしていますが、その過程で技術的な疑問が生じた場合には、Slackに用意されている質問チャンネルを通じて運営メンバーから解決のアドバイスをもらえるようにしました。利用開始から半年以上が経ち、各部門からデータを使った改善事例が出てきていますので、いくつか簡単にご紹介します。
・【営業】西日本地区担当:Yさん
お客様との関係希薄化リスクを低減するため、お客様ごとに最終訪問日からの経過日数を色分けして可視化するダッシュボードを作成
・【マーケティング】コミュニティ運営担当Mさん
コミュニティサイトの会員登録者数を週次で自動集計し、年間約70時間分のレポート作成業務を軽減、どの施策で登録者数が増えたかの効果測定が容易に
・【カスタマーサクセス】データエンジニア:Sさん
製品ご利用中のお客様状況を9象限に分類して可視化、お客様が求めている情報を考察してコンテンツ開発に活用
・【開発】HULFT開発マネージャ:Uさん
データドリブンな製品開発を目指し、利用社数・原価・問い合わせ件数・障害件数など製品開発の指標となる数値の推移を可視化、お客様満足へ向けた意思決定に活用
・【システムインテグレーション】エンジニア:Mさん、Kさん
各ビジネスパートナー様の過去案件実績から技術力・業務知識・作業効率などを評価し散布図で可視化、案件特性に応じた最適な調達先の検討が可能に
・【品質管理】品質管理担当:Nさん
事業リスクを早期発見するため、約300案件分のプロジェクト進捗状況をリアルタイムにモニタリング、異常プロジェクト数やその危険度合いが一目で分かるように
ローンチから1年、「データを使って課題が解決できるかも」という意識が広がった
データ活用基盤の運用開始からまもなく1年が経ちます。成果としてはまだまだ現場レベルの小さな改善にとどまりますが、事例が出始めたことで、これまで「手作業でやるしかない」と考えていた社員の中にも「データを使って解決できるかも」という発想が広がり始めていることを実感しています。
よく「データ活用は小さく始めることが肝要」と言われますが、まさにその通りだと考えており、こういった小さな成功体験を積み重ねることで少しずつその輪が広がり、やがて組織風土として定着していくのではないかと考えます。
弊社もようやくスタートラインに立ったばかりで、真価が試されるのはこれからです。今後もJDMC会員の皆様と広く意見交換、情報交換をさせていただきながら、伴に未来を築いていきたいと思っています。今後ともどうぞよろしくお願いします。
本コラムでは紙幅の都合上、詳しくご紹介できなかったことが残念でなりませんが、もし興味を持っていただけましたならば、以下ページに掲載している私のコーナーで詳しくご紹介しておりますので、お時間のあるときにご覧いただければ幸いです。
https://www.hulft.com/special-column/hulft-event-report/hulft-event-report-15