JDMC会員による「リレーコラム」。
メンバーの皆さんそれぞれの経験・知見・想いをリレー形式でつなげていきます。
今回、バトンを受け取ったのは、Phybbitの大月聡子さんです。
AIには期待し過ぎず、「実際に使える」ところから取り入れる
―序―
最近巷ではAI(Artificial Intelligence:人工知能)がバズワードと化して非常に騒がれていますが、実際、AIを使った成功事例って皆さんどれくらい聞いたことあるでしょうか? 「将棋でAIが人間に勝った!」といったニュースくらいではないでしょうか?
私は、「AIはなんでもできる!」と人々が期待し過ぎに思えます。そして、実のところ重要なのは、「データの整理とその自動化」であると考えます。当社Phybbit(フィビット)のサービス事例をサンプルに説明してみたいと思います。
―破―
Phybbitのビジネス領域はアドテクと言われるネット広告業界です。その中で、AIを使ったアドフラウド(Ad Fraud:広告詐欺)対策ツール「SpiderAF」を提供しています。
ネット広告の世界は、広告枠をクリックしていくら? 表示していくら? というビジネスモデルなのですが、このクリックを不正に大量獲得し、広告予算を横取りするような悪い人々がたくさんいます。このような不正行為をアドフラウドと呼んでいます。事実、北米では広告予算の20%はアドフラウドで不正に持っていかれているというレポートが出ているほどにシリアスな問題です。
当社がなぜこの分野でサービスを提供し始めたかを少しお話させてください。Phybbitは当初、アドテク企業からの受託でデータ解析や開発のお仕事をいただいていました。何社かのお客様からアドフラウドの悩みを聞きました。「対策しようにも、月々数10~100TBを超えるデータのクレンジングや解析に膨大な時間がかかる。たくさんの種類の不正を対応しきれず、そもそも不正アカウントをブロックしてもすぐに別のアカウントを作られてしまい、イタチごっこが終わらない。結局ほとんど対応できていない」……そんな状況でした。
当社はここで、この問題を何とか解決できないかと思い、実際の作業を詳しく尋ねてみたのです。典型的には、広告ログを解析し、異常値のものを抽出し、担当者が広告出稿先のWebサイトを目視で不正かどうかを判別する、というのが一連のフローでした。
そこで私たちは、その一連のフローをルールベースのデータ解析+Webコンテンツクローリング自動システムに落とし込むことにしました。これが非常に上手くいき、このルールベースだけで、人手による作業の3倍以上の検出率となりました。
ただし、それだけでは、パターンを学習するタイプの不正botにやられてしまいます。そこで当社は、自動システムによる不正判定の結果を人間が検証し、その結果を自動システムにフィードバックして不正判定の判断基準に加えるというプロセスを追加しました。これにより、人間の判断基準を都度学習し、自律的にルールベースから判断基準を最適化していくというAIと呼べるシステムができあがりました。これがSpiderAFです。あるお客様は月々1000万円もの広告不正を防ぐことができるようになりました。今後学習していくことでさらに成果が上がっていくはずです。
―急―
当社はSpiderAFのAI利用を大々的に謳っていますが、お話したとおり、実際にAIを使っている部分は最後の5%に過ぎず、その前のデータ処理の自動化のところがとても大きいです。それでも、十分に効果を上げられているのです。
つまり、AIというバズワードに躍らされたり、過度に期待したりするのではなく、まずは手持ちのデータを整理して、いかに現状の課題を自動化で解決するかを考えるのが先です。その後に必用であれば、AIといわれるようなロジックを追加することで、さらなる効果を期待できる、くらいに考えるのが、今のAIではちょうどよいのではないかと思います。
大月聡子(おおつき さとこ)
株式会社Phybbit 代表取締役社長。1984年生まれ。2011年、首都大学東京 理工学研究科修了後、Phybbitを創業。複数社のアドテクサービスの受託開発を経て、自社サービスのSpiderAFを新事業としてスタート。現在、コンサルティング・営業・PR業務をメインに従事。