日本データマネージメント・コンソーシアム

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データ管理温故知新 第1回

第1回 なぜ今データ管理が必要なのか -データ管理の歴史を振り返る

 
3月に開催された「データマネジメント2017」は、1,000人を超す入場者を迎え大盛況であった。それだけ、ビジネスでのデータへの関心が高いという証拠なので、データに関するビジネスに携わっている者としては、喜ばしいことではあるが、やや煽られているのではないかと思われる。
「わが社でもビッグデータを活用して新商品開発を目指そう」とか「AIできめ細かな生産計画を立案し在庫を削減しよう」など企業内も騒々しい。
世の中にはビッグデータが溢れていて、それらを解析するのにもディープラーニング技術を使えば、自社に最適な解が見つかると思っている人が多いようだ。少なくとも、経営レベルの人たちはそのように考えている人が多く、データ処理の現場に対して難題が付きつけられている。一方、現場では経営側の気持ちもわかるが、実現するための環境が整っていないと思っている。
 

社内には、従来から商品管理システムや顧客管理システムが構築され、商品マスタや顧客マスタが作成されているからデータの整備は十分できているはずだ、と経営陣は思っているだろう。既に社内には蓄積されたデータが歴然とあるではないか、なぜ活用できていないのか。大量データをさばくソフトやハードの基盤が無ければ、クラウドを使えばいいだろう、といった声が聞こえてくる。
 

ITの現場では、消費者の購買動向や販売店での商品の売れ筋に関するビッグデータがあっても、それらが、自社の顧客や商品のデータと紐づかなければ、有効活用することはできないことはわかっている。そのためには、自社内で保有しているデータを整備しておくことが重要だとは思っていても、データを整備するとはいったい何をやれば良いのか分からない。
顧客マスタといっても事業毎に別々に作成されていて、ビッグデータと突き合わせるのに、どのマスタを使ったら良いのか。また、売上実績のデータ上の商品コードも、買収や合併により同じ商品に対して別のコードが振られているというのが実態だ。このような結果を招いたのは、IT部門の責任だけとはいえない。実ビジネスを素早く立ち上げるには、個別にERPを導入し、独自のマスタを構築するのも致し方なかった。ましてや合併によるシステム統合ほど難儀なものは無い。
 

ビッグデータ活用のためには、何をしなければならないのか。企業情報(エンタープライズ)システムは、今まで如何に堅牢なシステムを作って長い年月運用するかを目標にやってきたが、現代は、速くシステムを作ってリリースし新たなビジネスを立ち上げることが要求されている。そして、システムを通してデータが活用できているか、蓄積されたデータが有効利用できているかが、システムの成功の判断ポイントになっている。単に機能通りに、トラブルなく動くだけでは、経営陣の評価は得られない。
IT部門、IT技術者は、システムの仕組みに興味はあっても、システムを流れるデータの中味については、興味がなかったといえるのではないか。しかし、今後は、そうは言っていられない。情報システムは、インフラやユーザ要求の追加により更改されるが、そこを流れるデータは、移行によりずっと引き継がれていくもので、重要な企業資産である。
 

メインフレーム中心で企業情報システムを構築していた80年代から90年代前半の情報システム構築手法として、システムの入力源となるデータがいつ発生して、更新され、消滅するまでのデータライフサイクルを優先して考え、データに付帯してプロセス(プログラム)が存在するというデータ指向開発がある。そして、データ指向開発を進めるために、まず「データ管理標準」を作成し、現場に散在しているデータを「メタデータ」として一つ一つ「名前」を付け、定義していった。同じ意味のデータは1か所にしか存在しない(one fact in one place)というのが、データ中心アプローチの大原則であるから、そのために「名前付け(ネーミング)ルール」を作成し、名前付けのための用語(単語、熟語)辞書を作成してから作業を開始した。
 

データを定義していく上での支援ツールもあったが、データ定義は、地道で根気のいる作業だ。一見、単純作業にも見えるが、そのデータが企業内でどんな意味を持ち、何を目的として、いつどこで発生するのかを把握し、さらにそれらのデータがどんな組み合わせで各々の役割を演じるのかを描けなければならない(これが、データ項目がエンティティを構成し、エンティティ間の関連付けを持つというデータモデリング)。マクロ眼とミクロ眼で臨まなければならない。ブリューゲルのバベルの塔のように大きなスケールと現実に即したち密な描写が要求される。
そして、「この、地味で根気と信念が必要な作業を担当する者をデータ管理者(DA)」と呼んでいた。それは、当時、黎明期であったRDBの面倒をみるデータベース管理者(DBA)とは異なる職種であることを明言していた。当時ご支援させていただいたある企業では、データ管理標準をシステム部門の憲法ですと言い切っておられたのを懐かしく思う。
 

いきなり、80年代のデータ管理の話を持ち出したが、30年以上経った現代でも必要な考え方で、ビッグデータを有効活用するための基盤整備として、AI化のナレッジとなり得るかもしれない。
過去を振り返るだけでは進歩は無いので、「温故知新」で、過去から学ぶべきを学び、今日のデータ管理にどう活かしていけるかを考えてみたい。

以上
 

(連載予定)
第2回 データ管理されていないと何が問題か
第3回 改めてデータ管理とは何か、そして今データ管理に何が求められているか

■著者プロフィール
真野 正(まのただし)株式会社データアーキテクト 代表取締役
大手SI会社勤務(株式会社シーエーシー他)を経て2005年データアーキテクトとして独立。システム基盤はメインフレーム、C/S、Web系を経験、RDB黎明期より携わり、データモデリングは、概念レベルにとどまることなく、実装を意識した設計を心掛けている。モデリングからDBA、SQL性能改善までと幅広くデータ系全般をカバー領域として多くのプロジェクトに携わる。主な著書に、実践的データモデリング入門(2003年翔泳社刊)、ITエンジニアのためのデータベース再入門(2017年リックテレコム刊)がある。
 
 

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