日本データマネージメント・コンソーシアム

その他

(5)MDMとデータガバナンスの動向

〜 データ・ガバナンス・プログラム・オフィス(DGPO)主要機能と日本型CDO(Chief Data Officer)の提言
 
伊阪コンサルティング事務所 伊阪哲雄
 
データ管理に関し、日本的企業風土においては、未だ性善説が主流的思考である。しかし、自動車企業、大手IT企業のようなグローバル展開を実施している企業においては、「データ品質属性*は時と共に損なわれるものであること」を前提としたデータ・ガバナンス(以下「DG」と省略する)は必須要件であり、大局的にはコーポレート・ガバナンスを支える基盤的な機能として真剣に対処すべきテーマである。前回の連載で、各種ガバナンスについてCOBIT(Control OBjectives for Information and related Technology)の概念に従って言及しているので、ご参照願いたい。


 
さて、日経コンピュータの2017年1月5日号と19日号に、極めて興味深い記事が掲載されていた。これらの記事について日経BP社の担当記者とも意見交換を行ったので、ここで筆者なりの見解を少し述べたい。1月5日号の記事には、ガ―トナー社によるCDO(チーフ・データ・オフィサー: 最高データ責任者)の重要性が言及されている。特筆すべきは「CDOオフィス」の普及の進展と重要性について、世界180社のCDOへの調査結果が述べられている点である。ガ―トナーがいう「CDOオフィス」とは、概念規定的には本稿におけるDGPO(データ・ガバナンス・プログラム・オフィス)のことである。筆者が考えるものと全く同一概念である。19日号の記事には、もう一つの視点としてチーフ・”デジタル”・オフィサーをCDOとして規定し、延べ25ページに渡り日本企業の事例が各社のCDOの視点で説明されている。こちらは、筆者の規定するCDOとは少々視点は異なるが、日本のデータ活用の前線で活躍する企業の様々な視点がわかるので、一読をお勧めする。
 
前回の連載で、CDOの主要役割と機能について言及した。本稿では、多様な機能を要求されるCDOを機能させるための組織であるDGPOについて、さらに日本型CDOへの提言について、筆者の見解を述べたい。
 

1.DGPOの”プログラム”に込める思い

DGの知識と技術は、ITや大規模インフラ事業でのみ有効ということは絶対になく、全産業・業種・業態で利用でき、ビジネスを飛躍させる原動力である。
 
ここで、筆者がなぜDGPO(データ・ガバナンス・プログラム・オフィス)に”プログラム”という語を用いているかを説明したい。
まず、プログラムとプロジェクトの違いであるが、プログラムはプロジェクトの上位概念である。筆者が入社した日本ユニバック(現日本ユニシス)の親会社はアポロ計画に深く関わっていた。プログラムとかプロジェクトといった用語・概念は、1960年代米国のアポロ計画のあたりから使われるようになった。アポロ計画自体は「プログラム」である。このプログラムの下にアポロ1号、アポロ2号、などロケット打ち上げに関する個別ミッションがあり、これら各々が「プロジェクト」と呼ばれた。なお、プロジェクトはさらに、設計・製作・飛行などの「フェーズ」(あるいは「アクティビティ」)に分解される。

このように巨大な事業全体を、構造的に分解して管理するのは米国的思考法の得意とするところである。この思考法をDGに適用すると、DG自体は企業の継続する限り存続するプログラム(機能)であり、DGを実施する多様な局面で各々のプロジェクトが発生する。プログラムは恒久的に継続される長期的なものであり、一方プロジェクトは短期的なものである。すなわち、DGPOは恒久的・継続的なものであり、その中での一つ一つの施策として、その各種プロジェクトが位置づけられるべきであるという思いがある。
 
企業内のDG活動を長期的視点で支援するDGPO導入により、様々な効果と効率化が期待できる。
 

2.DGの事業経営視点での期待効果と効率化

最初にDGPOの概念を以下の通り規定する。
 
「CIOの所管するデータ処理部門とDGPOの関係は、製造業における生産ラインと品質管理部門の関係と機能的には類似」
 
実際に英語圏では情報処理システムの本番運用を「Production」という。言い換えれば製造業における「生産」という概念になり、生産に対して品質確保機能が品質管理部門である。これを敷衍すれば、情報処理においてはDGPOがデータ品質管理部門と認識することができる。
 
DGは、そもそも経営陣が主導的に関わるべき課題である。その結果として、経営陣にとって以下にあげる11項目に渡る多くの効果と効率化が期待できる。特に経営視点にとって価値があるのは上位5項目である。
 

3.DGPOのミッション

DGPOは、企業全体におけるDG強化の戦略的展開を実施し、DGにおけるプログラム・リスクの極小化及びプログラム並びにプロジェクト・リソースの最適化を図り、DGプログラムと各プロジェクトを成功に導くための機能・組織である。
 
DGプログラム基盤の整備及びDGプログラムと各プロジェクト支援による、組織としてのDGPOの戦略的展開については、「6. DGPOを実現するための実施事項」において、DGPOの業務機能のある程度具体的に内容を述べる。

「DGPO成功」の定義として、各社の経営目標・事業方針に沿って具体的なKPI*を設定することが必要である。一般的には、まずDGPO自身が「DG評価基準」を策定し、併せて効果測定方式と手順も策定を行う。それらを踏まえてDG活動の経営貢献度評価を含むKPI**との総合的な評価を行う。各種ガバナンスは経営環境と事業環境などにより多様に変化するため、評価基準と測定方式を年に一度程度の見直しすることが必須である。中核的な計測はDGプログラム進捗である。
 

4.DGPOの業務

主要業務と実務を以下の表に示した。

主要業務実務
1)DG基盤整備①DG標準化推進:方針、手順及び標準を記録し公開し保守すること

 

②DG情報システム整備・運用

③DG人事制度企画・推進

④DG人材教育制度企画・推進

2)教育・研修①DG委員会メンバー、データスチュワード、プロジェクト管理者及び開発・IT支援スタッフに対する研修を含むDG適用のための育成カリキュラム及びDGを支援する提供プログラム研修の開発と作成

 

②DGについてベストプラクティスの定義と記録

3)DG管理業務①各層に諸活動を支援と記録と公開

 

②データに関係する方針と手順を促進しどこで必要かを遡ること

③DGに関するリスクと課題を記録するログの管理

④ビジョン、戦略、プロセス及びプログラムの価値を含むエンタープライズへのDGメッセージの取得と啓発

4)DGPO成熟度モデルの作成と診断によるDGPO改善①公表されているDGPO成熟度モデルを参考に自社向けモデル作成(ただし、筆者の知る範囲では現時点では全て英語版のみ)

 

②DGPO成熟度モデル適用

③改善点の明確化と実施計画立案と実施

5)DG支援活動①DGモニタリング業務

 

②DGレビュ業務

③DGサポート業務

④ヘルプデスク業務

5.DG導入の進め方

DGは比較的難解な課題であるため、以下にあげる四項目はそれぞれ容易なテーマではない。従って、導入開始当初は外部のコンサルタントの活用が必須である。情報共有を有機的に推進するために体制を整備し、ドキュメント管理システムを確立し、継続的に変化と履歴を正確に管理することが求められる。その際にはBPM(Business Process Management: 業務処理管理)システムを活用すべきである。
 

6.DGPOを実現するための実施事項

DGPOは以下の三階層の委員会から構成され、参加者とその実務・能力は以下に示す。

委員会代表的参加者主要実務と能力
1)役員調整委員会各担当役員(CXO:CEO,CIO等を指す)①組織の変化の承認

 

②文化的変容の推進

③全社横断プログラムの支援

④DG委員会メンバーの承認

⑤DGプログラムへの資金提供

2) DG委員会各部門データ管理者(各部門データ所有者など)①事業部門DGに関する意思決定の実行

 

②データスチュワード委員会のメンバーの選定

③データスチュワード委員会の決定の承認

④データ関連方針の承認

3) データスチュワード委員会各部門業務データスチュワード担当業務:

 

①全社データの方針の策定と維持:管理/参照・修正/データ品質

②モニタ:KPI**を介したスチュワードシップ

③管理:特定ドメインでのデータ品質

④解決:データ品質の齟齬と例外業務

⑤データ決定の勧告とデータ関連手順の記載

能力:

①所属する部門データ利用の社内経験が十分にあること

②情報収集と意思決定ために納入先と仕入先に意思疎通が可能なこと

③データの意味と算出方法について最も知識を有する典型的な担当者

7.日本型CDOモデルの課題と提言

最後にこれまで述べたことの総括として、日本型CDOモデルを推進するうえでの課題と提言を説明し、本稿のしめくくりとしたい。

2) 既存のPMO(プロジェクト管理オフィス)の自社モデルをベースにDGPOについても自社モデルの構築をすべきてある。ただし、PMOとDGPOの決定的な相違点は業務の定常性の有無である。DGPOは定常的に活動が必要である。

3) DG委員会の設置と運用をすべきである。

4) DG、データ品質管理及びMDMの導入効果を立証する成功事例が国内外に多く存在するため、それらを参考にすべきである。

5) グローバル化を考慮した海外事例を基に社内啓発を実施し、大手企業ではDGを前提としたMDMの導入に積極的に取り組むべきである。

6) 旧来はデータ管理をIT部門が中心となり推進して来たが、CDO視点での業務部門がリーダーシップを取り、データ管理を推進すべきある。

7) 極めて曖昧性が高い「ビッグデータ」から「データレーク」の概念適用が国際的には推進されつつあるので、ここで実施されている効果的かつ継続的なMDMとDGを参考にすべきある。

 
次回は、DGの方法論を説明したい。
 

注)
*データ品質属性: データ品質属性とは下記の14種を指す。
①完全性、②正確性、③有効性、④実用性、⑤統一性、⑥正規性、⑦一貫性、⑧名寄せ(重複の排除性)、⑨参照統合性、⑩整合性、⑪鮮度ないし適時性(DB連携不備)、⑫継続性、⑬独自性(ユニーク性)、⑭冗長性
**KPI:Key Performance Indicators(重要業績評価指標)
参考文献:後藤 年成著、「第98回 プロジェクトマネジメントとプログラムマネジメント」、日経コンピュータ2017.1.5号および2017.1.19号

 
文字数制約から詳細には言及できないが、データ統合、MDM、DGなどの推進、ソフトウェア選定とSI事業者選定などに関して、具体的な関心がある方は、遠慮なく問い合わせ(isaka@isaka.com)をお願いしたい。
 
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 ─ 伊阪哲雄プロフィール ──────────────────────

データ・マネジメントを専門とするITコンサルタント。1970年に外資系大手コンピュータ・メーカーに入社して以来、一貫してデータ・モデリング/設計やデータ・クレンジング、データ統合、マスターデータ管理、データ・ガバナンス、人材育成に関わる支援を行ってきた。特に通信業界、医薬業界や、金融業界のデータ・マネジメントに詳しい。米国のデータ管理系コンサルタントと幅広い交友関係があり、米国など海外の事情にも通じ、例えば米MDM Instituteが主催するカンファレンスに頻繁に参加している。

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