2015年11月12日、日本データマネジメントコンソーシアム主催で開催されたCDOカンファレンス 2015〜デジタルビジネス時代を切り開く〜の基調講演にコニカミノルタ社の山名昌衛氏が登壇した。コニカミノルタがデジタルビジネスの時代をどう切り開いているのかについて紹介した山名氏の講演をレポートする。
●米国事情
先週シリコンバレーに行ってきました。今シリコンバレーは暑い熱気に包まれています。どんな熱気に包まれているかといえば、様々な新しいテクノロジーで現在のビジネスを創造的破壊するようなチャレンジがスタートアップによって次々行われており、形になってきています。
Fortune 500に名を連ねるような大企業がスタートアップや新しいテクノロジーに向かい合っています。彼らの危機感は「10年後に50%の会社がFortune 500のリストから無くなっている」と言われていることです。グーグルはすでに大企業で、一般的には新しい取り組みを次々行っているように見えます。しかしホールディングカンパニーであるアルファベット社を作った背景には、もっと新しい創造的破壊となるようなテクノロジーや事業を作り出さないといけないという思いがあると言っていました。
米国では多くの人がUberを使っています。Uberは確かに既存ビジネスを変革するビジネスですが、ドライバーの品質向上のための顧客フィードバックや、走行距離などのデータがあり、乗車料金をそのまま経費精算システムと連動できるところまで来ています。しかしこのようなビジネス変革だけに着目すべきではなく、Uberはこれらのデータを都市計画にどう活かすかについてまで考え始めています。米国のスタートアップはそのようなステージにきています。
●事業統合
コニカミノルタはコニカ社とミノルタ社が統合した会社ですが、実は統合した時の売上規模は今とあまり変わりません。しかし2006年に、創業事業で25%の売上を占めていたカメラ事業から撤退しました。それでも既存事業を成長、変化させることで売上を維持拡大して、現在のコニカミノルタがあります。
当社の事業領域はオフィスサービス、商業産業印刷、機能材料、産業用光学システム、ヘルスケアとありますが、全事業において、成長が見込める領域を特定してリソースを集中して、トップを狙うジャンルトップ戦略をとっています。A3カラー複合機、カラーデジタル印刷機、光源色計測機器などは世界トップクラスのシェアを誇っています。これらの事業を支える源泉は創業以来培ったコア技術で、画像、微細加工、光学、材料という分野の技術を統合してジャンルトップにこだわってビジネスを展開しています。
2013年には、統合当初から続いていた事業毎の持株会社7社を合併して、経営体制を再編しました。製品毎に特徴を活かした事業も良いとは思いますが、やはりお客様を軸に考えれば、お客様が必要とするソリューションを様々な製品を組み合わせて提供することの方に価値があり、当社にはそれができるとの思いで再編をしました。
●創造的破壊と付加価値の創造
デジタルを使った創造的破壊とは、もう少し俯瞰して考えると潜在的な課題の解決に繋がるのではないかと考えています。お客様の潜在的ニーズを把握して、ハードとソフトを組み合わせることで顧客の課題を解決する付加価値型事業を生むことはもちろん、社会が抱える本質的な課題解決に取り組むことで、社会・ビジネス・人間生活の質を改善し続ける「社会的存在価値」の向上が重要であると考えます。
日本は細部や自社技術に対するこだわりが強く感じられますが、今の世界では既に世の中にある技術をどう組み合わせて、社会的な課題を解決するのかというビジネスプロデュース力が重要です。これをスタートアップなみのスピード感で実行することが求められており、企業の競争軸も変わってきています。デジタル世界になることで変化のスピードが加速し、特異な技術もすぐに汎用化してコスト競争が激しくなっていることも事実です。
もう一度、
- 何が付加価値なのか?
- 日本企業が技術で勝ってビジネスで勝てないのはなぜなのか?
- そのビジネスモデルは創造的破壊なのか?
このような自問を通じて、どうやって付加価値を作り出すのかが私のテーマでもあり、当社のテーマでもあります。コニカミノルタの価値は社会的課題の解決とお客様の変革に貢献することだと考え、そのために当社自身がトランスフォームする必要があるのです。
●コニカミノルタのトランスフォーム
当社の売上はまだ約1兆円ですが、スケールアップを求めるのではなく、体質を変えることを重視しています。そしてこのトランスフォームはAgileに(俊敏に)実行しなければなりません。今の経営計画もトランスフォームに軸を置いています。イノベーションには、新しい事業を仕組みも含めて育て上げるということと、今やっていることを付加価値型ビジネスにすることの2つがあると思っていますが、後者の、既存事業をトランスフォームすることも大切で、当社もまだ発展途上であり、色々とチャレンジしている最中なのです。
当社は生産、R&D、事業開発、販売・サービスの各観点でトランスフォームしています。例えば生産では、新興国での人件費高騰など、人件費がより安い国に次々と移り、生産を続けていくモデルには限界があって、これからは人や場所に依存しないものづくりが必要です。そのためにICTと自動化を用いて生産を最適化するデジタルマニュファクチャリングに取り組んでいます。
またR&D・事業開発では、オープンイノベーションを進めています。これまで新しい事業開発に、調査会社の資料などをもとに経営幹部の議論を通じて取り組んできましたが、そのようなスピードではもう追いつけません。そのため、ビジネスイノベーションセンター(BIC)を世界5極に設立しました。BICの人材はコニカミノルタとは無関係な人材を集めるようにしています。そして、マーケットに近いところで、顧客、社外のパートナーと一緒にAgileに事業開発をしていきます。日本で技術開発を担う人材も、BICのような環境に触れて、やり方やスケールを学んでもらうことで、育っていくと思っています。
●トランスフォームのための6Values
トランスフォームのための優れた戦略を経営者が考え抜くことはもちろんですが、真にトランスフォームを実現するためには実行力が欠かせません。ではどうやって実行するのか?
当社だけではなく米国のFortune500の経営者も悩んでいることがわかりました。みんなトランスフォームしなければならないことはわかっている。どうすれば良いのか?ポイントはカルチャーだと思います。いくら素晴らしい戦略があっても、カルチャーを変えられなければトランスフォームできません。当社はフィロソフィーを再構築するために、6valuesを掲げました。この価値を作ったのも、トップやマネージャーがリードするのではなくて、全世界約42,000人の社員ひとりひとりが自律して6valuesに沿って行動ができるようになってほしいと考えたからです。このようなカルチャーが根付けば事業をトランスフォームできると思うのです。
●トランスフォーム加速のためのデータ活用
社内のオペレーションを向上するためにデータを活用するのは当たり前で、当社は企業買収や統合作業が多かったためマスターデータの統合などは重要な取り組みになっています。
しかし、それだけでは不十分で、商品やサービスの開発を通じて得たデータを付加価値に変えていく必要があります。加えて、お客様にデジタルカンパニーになって頂けるようなソリューションを提供できるかがポイントになっています。
商品開発の例としては、当社の複合機にセンサーを搭載して、複合機から収集されるデータを収集、最適なサービス提供をしています。複合機以外にも、例えば介護施設向け見守りシステムやレーザーレーダシステムでは、独自のセンシングと画像認識技術を組み合わせて得たデータをインテリジェンス化して、サービス開発に生かしています。お客様へのソリューション提供例としては、Webの戦略策定からシステム構築、効果測定までをトータルで支援するデジタルマーケティングがあります。
会社をトランスフォームしなければいけない状況でデータというのは大切で、データに付加価値を付けることがさらに重要なのです。IoTと言いますが、繋がることが重要なのではなく、繋がった結果生み出される価値に視点を置くべきであり、それを目的としないといけないはずです。日本の企業がいくら繋げる技術を作っても、その繋げた結果の付加価値を創造できなければ、結局は部品を作ったり下請けをしたりすることに甘んじてしまう。これでは日本という国や産業はグローバルで競争できないと思います。
●何のためなのか?
最後に、何ためのイノベーションなのか?何のためのトランスフォームなのか?を見誤らないことが重要です。イノベーションやトランスフォームは手段であり目的ではありません。社会的な課題の解決や、人間のクリエイティビティ向上、働く人々の生活、仕事の質の向上などが目的としてあります。何のためなのか? コニカミノルタは「Innovation For〇〇」ということを常に考えていきたいと思います。
※ご参照
「CDOカンファレンス2015」
・プログラム
・カンファレンス趣旨説明(寺澤慎祐氏)
・概要レポート