メンバーの皆さんそれぞれの経験・知見・想いをリレー形式でつなげていきます。
今回、バトンを受け取ったのは、セイコーエプソンの矢島正信さんです。
“深さ・信頼性・範囲”に着目し、データ活用を個別最適から全体最適へ
みなさん、こんにちは。セイコーエプソンの矢島と申します。当社は2013年度からJDMCに加入しており、私はデータ経営の在り方研究会でお世話になっております。研究会では様々な業態、立場の方が集まり、データ経営に関する活発な議論がなされ、とても刺激になっております。この協会での皆様との出会いを大切にし、よりビジネスの幅を広げていきたいという想いから、今回リレーコラムを引き受けることになりました。
私は入社以来、当社の基幹系システムの開発に携わってきましたが、業務を支援する個別システムが充実する一方で、そこで発生するデータの活用がなかなか促進されていないことに大きな課題を感じていました。2012年から当社のグローバル管理会計システムの構築に参画し、情報活用系の仕組みに携わることになると、その課題をより強く抱くようになりました。データマネジメントの世界に足を踏み入れて間もない身ですが、私が日々感じていることを記していきたいと思います。
私がデータマネジメントに関わるようになって、社内、社外を問わず聞くことが、データがうまく活用されていないという悩みです。では、データを活用できていないとは、どういう状態か?――と踏み込んで聞いてみると、各社、各組織によって事情が異なるようです。例えば、次のようなことが、その代表例だと思います。
●定型的なデータ確認はできているが、起きた問題に対する深堀分析はできていない(データ活用の「深さ」の問題)
●データ活用のためのシステムを構築したが、収集したデータの精度に問題があり、利用者が安心してデータ活用を行えない(データの「信頼性」の問題)
●ある部門では、データ活用が十分に進んでいるが、他の部門ではまったく活用できていない(データ活用の「範囲」の問題)
これらの問題を乗り越えて、データ活用を促進するためには、どのような取り組みが必要でしょうか? 私の考えでは、下記の2点が重要だと考えています。
(1)データの精度、鮮度、意味づけを確保する
(2)データ活用の視野を、個別最適から全体最適へと広げる
(1)の「データの精度・鮮度・意味づけを確保する」については、データの精度・鮮度に関しては言うまでもありません。私の参加している研究会の中でも各社同じようにデータの精度に課題を抱えていることがわかりました。特にグローバルに事業を展開する会社では、海外拠点からのデータ収集時に精度課題が発生するケースが多いようです。
この問題に関しては、タイムリーに、人手を介さずにデータを収集する手段を検討しなければなりません。これはデータ活用システムだけの問題ではなく、データガバナンスの問題として捉える必要があります。各拠点システム、各事業システムを検討する段階で、データ活用を前提とした整備をしていかなければなりません。
また、いかに精度の高いデータが集まっても、それが活用されないと効果が発揮できないことから、データの意味づけをはっきりさせ、活用しやすいようにすることも必須です。最低でも1つ1つのデータ項目に対して、データ辞書を整備する必要があります。理想的には、そのデータがどこで発生し、どういう計算過程を経て、その結果に至ったか、といった情報も利用者に提供できるようにしたいです。
(2)の「データ活用の視野を、個別最適から全体最適へと広げる」については、おそらくどこの企業においても、現場レベルではデータを用いた業務改善ということはできているのではないかと思います。しかし、複数の組織、あるいはバリューチェーンをまたがって、データ活用をするとなると、一気にハードルが高くなると思います。
しかし、今こそ、全体最適視点でのデータ活用が重要です。「データ活用の目的を業務改善から業務改革へとシフトさせる」とも言い換えられるかもしれません。これを実現するために必要なことはいくつかありますが、代表的なことを挙げていきたいと思います。
まずは、特定の活用ニーズにより、収集データを個別最適しないということです。集めたデータは様々な用途で2次利用されることを想定すべきです。そのため、精度の高い明細データとして収集することが理想です。
また、現代の製造業では事業最適化のため、とても複雑な物流・商流ネットワークを築いていますが、これらの1つ1つのセクションから、事業活動で発生したデータを確実に集めてくる必要があります。そうすることによって、データ統合がしやすくなり、新たな知見を発見することができます。バリューチェーンの中にデータのミッシングリンクを発生させないことが重要です。
最後に、このような形で集めたデータは大変な量になりますので、それを安全に蓄積でき、必要な時に取り出せるようなビッグデータの活用基盤が必要になります。当社でも今年度から少しずつではありますが、並列分散処理、NoSQLといった基盤整備に着手してきてきました。
ここまで、理想論ばかりを並べてきましたが、実現することは容易ではありません。実際のビジネス状況の中では、さまざまな理由から壁が立ちはだかることでしょう。しかし、千里の道も一歩から、みんなであるべき姿を議論し合い、少しでもデータマネジメントを前に進めることが大事だと考えています。
矢島正信(やじま まさのぶ)
2004年にセイコーエプソン入社。以来、さまざまな事業における基幹系システムの開発に携わる。2012年よりグローバル管理会計システム構築プロジェクトへ参画。それを機に、情報活用系のテーマも経験する。2014年度より同社のビッグデータ分析基盤の構築を担当。