日本データマネージメント・コンソーシアム

会員コラム

【Vol.1】 國正興一氏 「私のThe Summing Up――技術者の感動」

JDMC会員による「リレーコラム」がスタートしました!
メンバーの皆さんそれぞれの経験・知見・想いをリレー形式でつなげていきます。
トップバッターを務められるのは、ベルウエザー取締役社長の國正興一さんです。

「私のThe Summing Up――技術者の感動」

事務局から「JDMC会員でリレーコラムを始めますのでトップバッターをお願いします」との依頼があり、諸先輩を差し置いて大変僭越ながら筆を執ります。

さかのぼること約半世紀、技術者を志望して大学へ進学、当時、大学紛争のまっただ中で卒業が危ぶまれるも、菅直人氏と共に反ストライキ活動を行って学園は正常化。4年で卒業できました。3年後期から卒業までまともに勉強しなかったことは事実で、日立製作所の入社面接の時、中央研究所の主任研究員からそれを指摘されて赤面。入社して配属されたのは、神奈川県秦野市のメインフレーム製造の神奈川工場にある設計部で、「システム取り纏め設計」を担う部署でした。

この部署はいい加減というか、顧客の問題解決のため必要ならば何を作ってもよいという方針でした。私は入社当初は国鉄を、その後に技師、主任技師になってからは都銀および証券会社を担当し、部長になってからは日立のシステム事業の稼働・損益管理責任者も務めました。担当した技術分野としては、国鉄の座席予約システム性能評価、キャッシュメモリー性能評価、三和銀行第2次システムのオンライン処理方式、性能設計、HDLC通信方式、ネットワーク製品開発、OSI通信管理ソフト開発、パケット交換機を使った国際ネットワーク、G4 FAX開発などです。ハード、ソフトそしてシステムと、技術者として楽しく、幅広く設計開発に携わりました。

そんな経験を長年してきた私が思うに、技術者の冥利は、「驚きと喜びの感動」を得ることです。技術のすばらしさ、美しさ、エレガントさ、普遍性の強さを感じた時の驚き、新しい技術を編み出した時や自身が関与した技術が実用化された時の喜びです。

関与した技術の中でも特に印象深いのはパケット交換です。1973年にARPANETの論文を読んだ時にはまだ実験・研究段階だったので、自身の中で知見とはならず、頭の片隅に記憶しただけでした。翌1974年に三和の第2次システム処理方式、性能設計担当常駐SEとなった時、幾つかの解決困難な課題に直面しました。

その1つが、「東京、大阪の5台のメインフレーム間のデータ交換システム」でした。当時、いわゆるN:N通信は回線で相互接続するしか術はなく、回線だけで構築すると60回線ほど必要でコストがとんでもなく膨れ上がってしまい。「単純で美しく、エレガントな」方式はないものかと悩んでいたところ、入浴中にお湯で記憶が溶けたのか、ふとあの時の論文を思い出し、固定接続、論理回線、通信多重、第3層回復機能なしの機能範囲で簡単な“パケット交換機もどき”のソフトを開発すれば実現可能なことを発見しました。

「これでできる」と分かった時の喜びと、初めてパケット交換の価値が「こういうことだったのか」と身を持って理解できた時の驚きといったら――あの時の感動は忘れられません。その後1978年に日立は私設パケット交換機を出荷し、1980年より「DDX-P」が電電公社から提供され、システム取り纏め設計担当として約15のパケット交換利用システムに関わりました。インターネットではパケット交換機はルータに替わりましたが、パケット交換は健在です。この技術・方式は普遍的なもので、将来パケット交換に代わるデータ通信方式が発明されるとは思えません。

時を今に戻します。このような感動を最近で感じたのはIn-memory DBの技術です。2013年4月25日の第16回JDMC定例セミナーで登壇の機会をいただいた私は、In-memory DBの技術動向の中で、SAPのHANA、NECのInfoFrame DataBoosterを紹介しました。勉強のためSAPにお願いしてHANAの技術説明書を提供していただき、図の間違いを見つけるぐらい、必死に勉強して臨んだのです。

その時驚いたのが、NECのInfoFrame DataBoosterとHANAは、まったく同じアルゴリズム「カラム辞書」方式を採用していることです。この方式に出会ったのは2003年末で、当時の私は日立の情報機器、情報家電グループ担当CIOで、製品の製造番号(シリアル番号)ごとの部品情報および生涯管理をする、いわゆるトレーサビリティのシステム開発を検討していました。解決すべき重要な技術課題の1つが、「部分表(BOM)高速正/逆・展開エンジン開発」で、カラム辞書方式はまさにうってつけの技術だったのです。

このカラム辞書アルゴリズムはさらに、データ処理の汎用性が高く、構造化データを正規化不要でディスク・ベースのRDBに比べ1000倍以上高速に処理できます。まさに「単純で美しく、エレガントな」技術であり、近い将来到来する大容量メモリーサーバの時代には唯一無二の普遍的な技術になると確信しています。ぜひともエバンジェリストとしてこの技術を世に出したいと思い、2004年にベンチャー企業に転社しました。先の定例セミナーでこの技術を紹介する機会をいただけたこと、エバンジェリストとして深く感謝申し上げる次第です。

パケット交換方式に感動したあの時から、すでに40年が経ちました。通信とデータ処理の普遍的な基礎技術に関わり続けて、今も楽しく活動できているのは、技術者としてこの上なく幸運なことだと思います。

2013/5/20

國正興一(くにまさ・こういち)

1970年3月、東京工業大学電子物理学科卒業。同年4月、日立製作所入社。神奈川工場データ通信部の設計部門で日本国有鉄道、三和銀行、野村證券などを担当。その後情報事業本部海外オペレーション本部中国部長、PC事業部次長などを経て2001年12月、情報・通信プラットフォームグループビジネスプロセス改革本部長兼CIOに就任。2004年9月、ベンチャー企業のターボデータラボラトリーに転身し、2005年7月、同社取締役CEOに就任。2009年5月にベルウエザーを設立し現職。社団法人 日本の新しい社会情報基盤を考える会の代表理事、株式会社JTS技術顧問も務める。経営者でありながら、40年余の豊富な経験・実績を持つ技術者として、現在は企業改革(BPR)支援、ビッグデータシステム構築支援などを手がける。

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次回のコラムのバトンを受け取ったのは、渡辺浩太郎(楽天)さんです。お楽しみに!

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