日本データマネージメント・コンソーシアム

会員コラム

【Vol.136】KDDI株式会社・三宅 祥徳さん データマネジメントに吹く「追い風」 AIエージェントが「データの民主化」のカギになる理由

JDMC会員による「リレーコラム」。
メンバーの皆さんそれぞれの経験・知見・想いをリレー形式でつなげていきます。
今回、バトンを受け取ったのは、KDDI株式会社・三宅 祥徳さんです。

はじめまして。KDDI株式会社の三宅と申します。コラム執筆の機会をいただきありがとうございます。

KDDIは通信を核に、個人・法人のお客様に多様なサービスを提供しています。事業の性質上、データを扱うことは日常そのものですが、だからこそ「データをどう扱うか(=データマネジメント)」は、常に経営課題の中心にあります。

データマネジメント自体は新しいテーマではありません。むしろ歴史は長く、10年以上前から重要性は右肩上がりで語られてきました。

一方で今、私が強く感じているのは、AIエージェントの登場によって、この領域に近年まれに見る追い風が吹いているということです。本稿では、その追い風の正体と、データマネジメントを推進する立場として見えてきた好機、そして目的として見据えたいデータドリブン経営について、私見を交えて整理します。

●データマネジメントが再評価されている理由:AIエージェントという利用者の登場

皆さまの現場でも、AIを業務に入れる話が具体化するほど、データの意味と使い方が課題になっていないでしょうか。

近年は生成AIの普及を背景に、企業内でもデータの整備が競争力に直結するという認識が一段と強まっていると感じます。とりわけAIが目的を理解し、計画し、ツールを使って実行する、いわゆるAIエージェントとして現場に入り始めたことが、この流れを加速させています。

AIエージェントは、ただのチャットボットとは異なり、社員の業務そのものを代行する可能性を現実的なものとして示してきました。AIエージェントの期待が高まってくると、それを支える「品質・定義・アクセス制御・可用性」といった土台の価値が、急速に再評価されます。それこそまさにデータマネジメントが扱ってきたテーマであり、今振り返るとAIのために整備してきたものなのだと錯覚するほどです。

●「データの民主化」が直面してきた、暗黙知の壁

先ほどデータマネジメントの歴史は長いとお話しした通り、データ活用を広げる取り組みはこれまでも進められてきました。いわゆる「データの民主化」と呼ばれる動きです。実務で言えば、データ分析の専門家が持つ暗黙知を、他の社員が使える形式知に変えていく活動です。例を挙げると、

・データの所在、意味、注意点をドキュメント化し、データカタログなどで展開する
・KPI定義を揃え、ダッシュボードを整備する

などが中心でした。この取り組みによって、指標定義(ARPU(1ユーザあたり売上)、販売台数、解約率など)の解釈が部署で違うといった問題を防ぐことができるでしょう。しかし、ここには構造的な難しさがあります。

専門家は、自分の知識そのものを強みとして認識しているため、必ずしも「周りに共有したい」と思っているとは限りません。形式知化は善意や使命感だけでは回りにくく、忙しさの中では後回しになりがちです。さらに、短期の成果として可視化しづらく、評価や称賛に結びつきにくい面もあります。

結果として「民主化を掲げたが、専門家が持つビジネスメタデータの収集が進まない」「結局、問い合わせは専門家に集中する」という光景は、多くの組織で見られてきたのではないでしょうか。

●形式知化が自分の武器になる──AIエージェントが変えたインセンティブ

ところがAIエージェントの登場が、この状況を変え始めています。暗黙知を形式知にすることが、他者のためだけでなく、専門家自身の生産性と分析高度化につながる未来が、急に明確になってきました。

例えば、専門家がビジネス用語集やメタデータ、分析ノウハウを整備したとします。これらは従来「他者のための整備」で終わりがちでした。しかし、形式知が増えるほど、AIエージェントが肩代わりできる作業が増え、専門家はより高度な設計・検証・意思決定支援に集中できる。つまり形式知化は、知識の手放しではなく、自身の生産性向上の武器になっていくのです。

このインセンティブの反転こそが、私が感じている「近年まれに見る追い風」の正体です。データマネジメントの推進役として、ここまで現場の理解を得やすい状況は初めてだと感じています。

●データマネジメントは手段であって、目的ではない

一方で、ここは自戒を込めて強調したい点があります。データマネジメントは、重要であっても目的ではありません。整備そのものがゴールになった瞬間に、活動は形骸化します。私がデータマネジメントによって実現したいことの一つは、いわゆる「データドリブン経営」です。そして、その中には次の2つの要素が含まれると考えています。

①エビデンスドリブン(Evidence-driven)
あらゆる意思決定を、いわゆる勘と経験と度胸(KKD)ではなく、エビデンス(根拠)に基づいて行うことです。客観的事実を示すデータは、エビデンスそのものになり得ます。統計学や機械学習といったデータサイエンスは注目度も高いですが、データをエビデンスにするための手段の一つに過ぎません。さらに、参照したデータや前提、推論プロセスが追跡でき、再現可能な形で提示されるなら、生成AIの出力さえもエビデンスを探索するための仮説として有効です。ただし最終的には、一次情報に立ち返って判断することが重要です。

②オートマティックドリブン(Automatic-driven)
あらゆる定常業務を自動化することです。単なるETLや帳票作成の自動化に限らず、将来的には簡単な意思決定を含む業務の自動化を目指します。人の手作業が増えるほど、解釈のぶれや集計条件の違いといった再現性の低下が起こりやすくなります。同じ定義・手順で回せる状態を作ることは、効率化だけでなく、意思決定の品質を安定させる意味でも重要です。毎日繰り返すような面倒な庶務から解放された従業員は、例えば、法人営業ならお客様とリアルで相対する時間を増やすなど、より付加価値の高い業務にシフトすることができるでしょう。

●暗黙知を「未来の資産」に変える好機を逃さないように

データマネジメントは長いテーマですが、AIエージェントの登場によって、いま改めて攻めの投資としての意味合いが増しています。そして何より、暗黙知を形式知にすることが、専門家にとってもメリットになる未来が見えたことで、前に進める条件が整ってきました。

この追い風を単なるブームで終わらせず、エビデンスドリブン×オートマティックドリブンという形で、経営と現場の価値に接続していきたいと考えています。

最後までお読みいただきありがとうございました。JDMC会員の皆さまと、会社や業界の垣根を越えて知見を共有し、AIエージェント時代のデータマネジメントを共に磨いていければ幸いです。

三宅 祥徳(みやけ よしのり)
KDDI株式会社 経営戦略本部 Data&AIセンター グループリーダー

2014年KDDI入社。現場のデータサイエンティストとして通信領域の分析から、ピープルアナリティクス、ヘルスケア事業まで幅広く担当。経営戦略に関わる全社プロジェクトのPMを経て、2021年よりデータマネジメントに軸足を移し、標準化(ガイドライン)、可視化(データカタログ)、教育(学習コンテンツ)、文化づくり(分析コミュニティ)の4点から全社のデータ活用基盤を整備。現在はデータ・AI戦略策定とデータドリブン経営の推進に従事。

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