お世話になっております。データドリブン経営研究会でリーダとして推進させて頂いているアビームコンサルティングの中村と申します。
本記事では今年度(FY24) のデータドリブン経営研究会のテーマである「分散型組織」について記載致します。
1.「分散型組織」テーマ設定に至った背景
昨年度、データドリブン経営研究会は企業がデータ利活用を推し進めていく上での各種テーマを定義し、アンケート収集やディスカッションを実施した結果、共通する課題を発見しました。それは「目的の明確化」と「変化への対応」です。
データマネジメント2024 データドリブン経営を目指す上での重要なポイントは「目的の明確化と変化への対応」より抜粋
通常、データマネジメント組織で実行役を担い、実行する上での戦略・ポリシーはCDO直下のデータガバナンス組織で策定・監督を担います。特にこのデータガバナンス組織が「目的の明確化」をし「変化への対応」をしていくことが重要だと考えていますが、機能していないことが昨今明らかになっています。
データマネジメント2024 データドリブン経営を目指す上での重要なポイントは「目的の明確化と変化への対応」より抜粋
上記記事の内容については、私自身の経験としても相違はなく、戦略・ポリシー策定と実行を“完全に”分ける形の組織が上手くいくケースは少なく、ビジネスや組織体制・文化に合わせて一部権限を分散させ、バランスさせていくことが必要と捉えています。
データマネジメント2024 データドリブン経営を目指す上での重要なポイントは「目的の明確化と変化への対応」より抜粋
実際のところ、中央集権型のデータガバナンス組織が機能せず、現場に即した運用体系にアレンジまたは実行側の組織が自主的に戦略・ポリシーも定義・運用している現場があります。
そして、これらの現状がある一方、業界標準としてどのように分散管理すればよいのか、日本ではあまりオープンな議論がなされないまま今日に至っているのは、業界全体の損失と捉えております。
以上の経緯から、データドリブン経営研究会は今年度のテーマとして「分散型組織」を設定し、皆様の現場で使えるインサイト・方法論を研究・還元していきたいと考えております。
2.「分散型組織」を考える上での論点
データドリブン経営研究会では参加者同士でディスカッション・検討を行い、その成果を取りまとめていく形で実施していきます。
その際、「分散型組織」を考える上での事前知識・論点について、本記事で下記3点提示します。勿論、ディスカッション・検討から得られた示唆から変わっていくものなので、あくまで現時点の情報ということをご了承ください。
・分散型組織の定義
・グローバルポリシーとローカルポリシー
・利害関係の不一致解消
2.1. 分散型組織の定義
「分散型組織」を語る上で外せないのが、Thoughtworks社のZhamak Dehghani氏が発案したData Meshです。Data Meshのプリンシプルの一つであるFederated computational governanceは、各実行組織でもポリシーを作れる考え方となります。
一方、分かりづらいことにDMBOK定義のデータガバナンス運用モデルにおいても、同じ用語を使ったFederated(連邦型)のアプローチがあります。こちらの基本形はあくまで実行側の運用が分散しているだけで、ポリシー策定は中央組織に権限が集中しています。
また一見、Data Mesh定義のデータガバナンス組織は、DMBOK定義のローカルデータガバナンス委員会に近いようにも思えますが、Data Mesh定義では実行側自身がポリシーを策定し自己管理できる考えであり、かつそれらのガバナンス機構を技術的に自動化することを明確に定義している点が異なります。
データドリブン経営研究会では、Data Mesh定義の組織モデルをベースとして議論を進めていきます。
2.2. グローバルポリシーとローカルポリシー
Zhamak Dehghani氏は書籍の中で、グローバルポリシー(中央組織で策定され全体に適用するポリシー)について下記の例を挙げています。また理想的にはグローバルポリシーは各組織の摩擦を抑えるために最小限にすべきとしています。
・プライバシー・コンプライアンス・セキュリティ
・ドメイン間で依存関係が発生するもの(標準化が必要なもの)
・データ所有権の決定プロセス
またCIOコミュニティの中で影響力を持つMyles Suer氏はデータガバナンスには次の6つの異なる重点分野があり、その内のデータ品質、データウェアハウジング・ビジネス インテリジェンスはローカルポリシー(個別組織で策定されるポリシー)で実装できると記事の中でコメントしています。
・ポリシー・標準化・戦略
・データ品質(ローカルポリシーも実装可能)
・プライバシー・コンプライアンス・セキュリティ
・アーキテクチャと統合
・データウェアハウジング・ビジネスインテリジェンス(ローカルポリシーも実装可能)
・管理・運用サポート
また現時点で上記以外の私が思いつく観点ですと、『生産性向上のための最小限のプロセス規定』がグローバルポリシーとして考えられますが、適用可能かどうかは議論の余地はあると考えています。
上記の通り、現時点での有識者の観点は様々ですが、データドリブン経営研究会では、
・グローバルポリシーとローカルポリシーはどのようなものが考えられるのか
・ポリシーを分散運用するための仕組み(テクノロジー含む)は何が必要か
という点について、特に日本の文化的特性や日系エンタープライズ企業の傾向(例:ハイコンテキスト、集団主義的、労働者人口減、IT外注比率高)も考慮して議論していきたいと考えています。
2.3. 利害関係の不一致解消
企業全体を「プリンシパル(依頼人)」「エージェント(代理人)」として捉えるエージェンシー理論に基づいてデータ組織を捉えると、利害関係の不一致(目的の不一致と情報の非対称性)がデータの生成元と利用者間で発生しており、それをモニタリング・インセンティブによって解消するための機構がデータガバナンス組織ということになります。
一方、中央集権型のデータガバナンス組織が変化に対応できていない現状から、実行側に一部権限を寄せて変化に対応していく分散型組織に大きく変えていくには、これらの利害関係の不一致を中央組織の介在なしに一定解消できる構造・文化にすることが必要となると考えています。
利害関係の不一致を軽減させる取り組みとして、
・データを製品として捉える
・ビジョンを作り浸透させる
・生成元と利用者間の契約プロセスを自動化する
・生成元へフィードバックループを回せる仕組みを作る
・利用者側に合わせたデータに加工する製造コストを下げる
・データ品質を自動的に可視化する
等々考えられます。
しかし、利害関係の不一致は本質的には組織間の政治的課題に収斂されるため、軽減は可能ですが完全に事前防止することはできないと捉えています。その前提に立った場合、上記に記載したような全体的に施行するベース施策と、高いコストが必要な個別施策の2通りが必要と想定しています。
特に個別施策は実施コスト、ビジネス優先度、立ち上がり時~運用といった時間的スパン、MDM施策との整合等々、様々な観点で優先度を決めていく必要があると考えています。
データドリブン経営研究会では、利害関係の不一致解消に必要なベース施策・個別施策の考え方の基準や有効な実施順序等を議論して、取りまとめていきたいと考えています。
3. 最後に ~データドリブン経営研究会の魅力~
データドリブン経営研究会では多くの有識者にご参加頂いていますが、参加者にとって有用な場所としたいため、下記観点で運営しております。
・企業のビジネスにおけるデータ利活用で困っている方を1人でも多く救う
・経験の差は関係なくフラットに楽しく議論できる雰囲気作り
・リーダは原則1年間交代とする(今年度は例外)
初めて入られる方や初心者の方でも学びを得られる研究会運営を実施してきますので、お気軽にご参加ください(今年度の募集は5月上旬からとなります)。
また今年度より、活動強化の観点から登壇者・運営による製品・サービス紹介は本研究会では可としました。本研究会で製品・サービス紹介されたい方も、分散型組織のテーマで登壇機会を設けますので、ぜひご連絡頂ければと思います。
中村 大輔(なかむら だいすけ)
FY23-FY24 データドリブン経営研究会リーダー
アビームコンサルティング株式会社
デジタルテクノロジービジネスユニットDesign X Architect セクター
マネージャー
データマネジメント、データエンジニアリング、アジャイル開発の知見から幅広い顧客にコンサルティングサービスを提供している。SIer、通信会社を経て現職。
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FY24 データドリブン経営研究会