JDMC会員による「リレーコラム」。
メンバーの皆さんそれぞれの経験・知見・想いをリレー形式でつなげていきます。
今回、バトンを受け取ったのは、株式会社マンダム・西宮 宏志さんです。
皆さま、はじめまして。2023年9月にJDMCに参画しました、株式会社マンダムの西宮と申します。入会早々、このような発信の機会をいただきありがとうございます。
マンダムは、ギャツビーやルシード、ビフェスタなどのブランドを中心とした化粧品を製造販売し、日本、およびアジアを中心とした海外各国へと展開している会社です。
「BE ANYTHING, BE EVERYTHING.(意味:なりたい自分に、全部なろう。)」というコーポレートスローガンを掲げ、「自分らしく生きること」や「ありたい自分」を実現していくことへのサポートを行い、実現できる社会を持続的に創りあげていくことを目指しています。
私は製造業のSEを経て、約4年前にマンダムに中途入社し、現在はITイノベーション推進部で部門のマネジメントを担当しています。
当部門の役割は、事業会社の情報システム部門に求められる業務全般とIT戦略の立案、推進です。IT戦略の取り組みテーマとしてデータ活用を掲げており、全社的なデータマネジメントの仕組み構築やデータ活用施策を進めています。
取り組み内容としては、デジタル技術による価値創造の源泉であるデータの重要性の啓蒙活動を行いつつ、データ活用を効果的に推進するために、以下のような施策に取り組んでいます。
・マンダムとしてのデータ活用の基本方針の制定と周知
・データ活用の課題分析と保有データの利活用状況や管理状態の把握
・データガバナンス/データマネジメントの実施スコープの決定と実践
・全社のデータハブとして機能するデータ基盤システム構築
・データ基盤システムの利活用推進策とビジネス成果創出の伴走支援
今回のコラム寄稿にあたり、「私がお役立ちできることは何か」を考えましたが、私としてはデータマネジメントのベストプラクティスや金言などは持ち合わせていないため、当社のデータマネジメント体制構築の概略をご紹介させていただくことにしました。少しでもご参考にしていただけることがあれば幸いです。
1. データサイロ化の課題とデータ活用推進チーム立ち上げ
当社がデータ活用推進の戦略テーマの検討を開始した当時は、社内の各部門でデータがサイロ化してデータの所在が可視化されておらず、現場は手の届く範囲のデータのみを活用して業務を回している状況でした。他部門が保有するデータを使用する業務もありましたが、データの受け渡しに提供側と受領側の双方に手間がかかり、データ活用の阻害要因になっていました。 この状況を打開するため、IT戦略においてデータ活用の方針を掲げた上で、IT部門の各セクションから、さまざまな専門領域を持つメンバーを集めた「部内プロジェクト」としてデータ活用推進チームを立ち上げました。
2. データ活用推進チームの取り組み
データ活用推進チームの立ち上げ後は、以下の施策を実施しました。
①データガバナンスポリシー制定によるデータ活用方針の明確化
データのサイロ化を解消し、全社的なデータ活用を推進することに対して、賛同が得られたとしても、実際に社内を変革するのは長期戦になると覚悟する必要がありました。そのため、活動の軸がブレないようにすることが重要と考え、最初に取り組みの大方針にあたる「データガバナンスポリシー」を制定しました。
②データ活用の実態調査、データ棚卸し、データマネジメント啓蒙活動
データガバナンスポリシー制定と並行する形で、社内のデータ活用の実態調査とデータの棚卸しを実施しました。この作業は現場の負荷が高いため、実施部門にとって唐突な依頼にならないよう、丁寧に事前説明を行ったり、全社的な委員会組織の活動に組み入れるなど、関係部門の巻き込み方に配慮しました。
そして、調査結果に基づいてデータ活用推進チームが社内の各部門と直接コミュニケーションすることで、データ活用推進チームの存在認知とデータマネジメント活動に関する理解を促し、社内の協力体制の整備を進めました。
中途入社して日が浅い時期の実施であったため、全社を巻き込む活動に若干の不安を感じていましたが、マンダムには全社的な取り組みに対して協力的な雰囲気があり、おかげでこのフェーズは順調に進めることができたと思います。
③データ基盤の構築
データ活用推進チーム発足後、社内のDWH再構築案件が発生したため、これをデータ統合の最初のターゲットに定めて、データ基盤の構築に着手しました。このDWHで保有しているデータは、自社のビジネスにとって非常に重要であり、かつ膨大な量であったため、取り組み初期にこのデータを統合できたことは、大きなプラス要素となりました。
また、このDWHの構造やデータモデルがブラックボックス化しており、データ活用の阻害要因になっていたことの反省から、データ基盤システムの構築に関しては、データ活用推進メンバーが開発工程に主体的に参画してスキル習得に励み、内製力を向上をすることで、自律的なデータ活用の基礎固めを行いました。
④データ活用の拡大
データ活用基盤の構築とDWHからのデータ統合により、社内の多くの部門で活用が見込まれる、価値あるデータが得られました。
そこで、活用見込みのある部門にPR活動を行いながら、セルフサービス型BIツールの利用環境の解放とトレーニングを提供するとともに、各部門からはデータ棚卸しで目をつけていたデータをデータ基盤に統合してもらうことで、Win-Winの関係を作り、社内でデータ活用の輪を広げる活動を継続中です。
3. データ活用人材と組織の成長
DMBOKには、データマネジメントに関するさまざまな役割と人材像が定義されていますが、最初から必要な役割を担えるメンバーを全員アサインするのは難しい場合が多いのではないでしょうか。
データマネジメントを組織に定着させるためには、まずは社内のリソースでミニマムに開始して、周囲に理解を促しつつ、採用や社内育成、アウトソース活用のバランスを取りながら拡大して、求められる役割を埋めていくアプローチが重要だと考えます。
当社もデータ活用推進チーム発足当初は、データマネジメントの役割を担える人材はいませんでしたが、取り組みを進める中で、データ活用に知見を持つ人材の採用を行い、その人材のリーダーシップにより社内メンバーを育成することで、徐々に求められる役割を充足しています。
人材育成で特に印象的だったのは、事業部門出身でSE経験のないメンバーが、SQLによるDWHの管理スキルを習得したり、社内でBIツールの講師役を務めるといった活躍をしてくれていることです。
近年、労働人口減少やジョブ型雇用、人的資本経営の拡がりにより、人材の成長と活躍機会の提供が経営課題になっている中、データマネジメント推進がその実践の場の一つとして機能しています。データマネジメントは全社にまたがる裾野の広さがあり、関与する人も多いため、このような副次的な効果が得られていることを最後に付け加えさせていただきました。
以上が、マンダムのデータマネジメント体制構築の概略になります。ご紹介した内容以外にもさまざまな成功と挫折があり、常に試行錯誤しながら手探りで進めている状況です。JDMCでの活動を通して、皆さまと意見交換させていただき、データマネジメントへの理解を深めていきたいと考えておりますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
西宮 宏志(にしみや ひろし)
株式会社マンダム
ITイノベーション推進部
部長
大学卒業後、製造業の社内SEとして基幹システム導入・運用、内製開発、ITインフラ構築やセキュリティ対策など、事業会社のIT関連業務を幅広く経験するとともに、ITを基軸として海外赴任や経営企画部門における経営管理を兼務。2019年12月より現職、セキュリティ管理やデータ活用戦略策定を担当した後、現在のポジションで部門マネジメントに従事している。