日本データマネージメント・コンソーシアム

会員コラム

【Vol.83】ブリヂストン 森口昭さん、製造業における開発プロセスの効率化&最速化をデータマネジメントを通じて実現

JDMC会員による「リレーコラム」。メンバーの皆さんそれぞれの経験・知見・想いをリレー形式でつなげていきます。今回、バトンを受け取ったのは、株式会社ブリヂストンの森口昭さんです。

データサイエンティストとしてゴム材料開発現場のDX推進を担当 

初めまして。株式会社ブリヂストンの森口昭と申します。私はもともとIT会社に在籍していましたが、縁あってデータサイエンティストとして、メーカーであるブリヂストンに転職しました。現在は、ゴム材料開発現場のDX推進を担当しています。今回のコラムでは、当社の材料開発現場におけるデータ活用と、データマネジメントに関わる課題と取り組みについて、皆さまにご紹介していきたいと思います。 

「データ駆動型材料開発」でゴム材料開発における工程を大きく変革

タイヤという製品を構成する部材の中で、もっとも大きな割合を占めるのがゴムです。このタイヤ用に用いられるゴムの開発というのは、非常に複雑なプロセスから成り立っているのをご存じでしょうか。

というのも、ゴムに求められる性能はグリップ、低燃費性、耐摩耗性と多岐にわたっている上、これらは相互に相反する性質(背反性)も持っているからです。またゴムを構成する材料も、ポリマー、フィラー、加硫剤、老化防止剤とこれもまた多岐にわたります。さらに製造工程での混練、加硫といったプロセスの条件も、ゴムの性能に大きく関わってきます。「タイヤ製造」とひと口に言っても、ゴムを構成する材料とプロセスには膨大な数の組み合わせがあり、これらを背反性のある複数の性能に対して最適化していくことが求められるのです。

また、当社はサーキュラーエコノミーに貢献すべく、長期環境目標として「100%サステナブルマテリアル化」を掲げており、従来の性能要素だけでなく、再生資源利用の拡大、プロセスにおけるCO2排出量削減といった環境要素を、最適化の対象に加えた開発にシフトしています。

こうしたさまざまな要件に対し、DX担当者としては現在「Material Informatics」と呼ばれる、統計・機械学習を用いたデータ駆動型材料開発の普及・拡大を進めています。このデータ駆動型開発とは、従来の開発者の暗黙知(勘と経験)に基づくアプローチに加え、性能予測モデルによるデータ解析結果を用いて、材料とプロセスの最適化の方向を見出す開発方法です。この方法により、従来のアプローチよりも少ない工数で材料・プロセスを最適化。なおかつ従来を凌駕する性能向上が可能となり、現在は実際の開発現場での成果も出てきているところです。


組織全体で活用するデータ基盤とデータマネジメント体制の整備を目指す

上記の「データ駆動型材料開発=予測モデルを用いたアプローチ」を行う場合、どのような材料を用いたか、材料とプロセスの組合せがどのような性能になったのかといった、材料のメタ情報と材料・プロセス・性能がリンクしたデータが必要になってきます。これまでも、ゴム材料開発の中では多くのデータが生み出されてきましたが、こうした個々のデータを正しく紐づけていかないと、相互リンクが不明瞭なデータが多くなり、これがデータ駆動型開発拡大のボトルネックとなってしまいます。

そこで当社では、データ品質の確保のため、業務実態に沿った材料・プロセス・ゴム・性能データのID定義データモデリングを実施。それまで個人管理が多かったデータを、組織で蓄積・統合するデータ基盤・システムの整備を進めてきました。

その一方で、徐々にシステムの完成像が見えてくるにつれ、非常に気がかりな課題も出てきました。それは、「この構築した仕組みを、どうやって維持していくか」、つまり運用をどうするのかということです。昨今のDX推進の潮流から、システムやアプリケーションは次々に登場していますが、これらを統制なく導入していては、個別最適なシステムとデータ管理が乱立し、再び低品質なデータを生み出してしまうリスクが避けられません。

私がJDMCに参画させていただいた理由も、この課題の解決という目標が大きく、当社としてあるべきデータマネジメントを確立するべく、JDMCの発行しているデータマネジメント概説書も大いに活用させていただいています。

人材やデータに対する思考法など、データマネジメントの障壁に引き続き挑戦

データマネジメントの実行にあたっては、さまざまな障壁がありますが、特に解決に時間を要すると思われるのが人材の確保・育成です。

データマネジメントには、データの受益者であるユーザー部門の人間が主体性を持ち、一定のITリテラシーを保持した上で、IT部門と協調しながら問題に対処していかなくてはなりません。しかし、プログラミングや統計機械学習といったスキルがもてはやされる一方で、ITシステムやデータモデリングに関するスキルは、その必要性自体がなかなか認知され難いものです。

まずデータの価値が見えるようになって、初めてデータサイエンスの価値が認知され、その結果としてデータサイエンスの利用が進むことで、ようやくデータマネジメントの必要性が認知されることになります。データマネジメントの活動は、データ活用の推進と一体となって、粘り強く進めていかなければならないと考え、日々奮闘しているところです。

人材・スキルに関して、もう一点、特に元ITサイドの人間として、現場開発者の方々との思考法の差異も、うまく補っていかなければならないと感じています。日本の製造業は「現場、現物、現実」といった言葉に象徴されるように、目の前の課題を分解、具体化し、解決していく能力はきわめて高く、それが日本製品の高い性能と品質につながっていると、私は考えています。

一方で、データマネジメントおよびDXにおいては、課題を俯瞰、抽象化し、システム思考で問題に対処していくこと、つまり、従来とは正反対の思考法も求められてきます。この「具体」という強みとは矛盾する「抽象」の思考を、いかに巧みに取り入れられるかが、当社のデータマネジメントを成功させる要素の一つであると考え、現在も解決策を思案しているところです。

JDMCにはデータマネジメントの問題解決に、日々奮闘されている先駆者が大勢いらっしゃいますので、これから大いに勉強させていただきたいと思っています。よろしくお願いいたします。

森口昭(もりぐちあきら)

株式会社ブリヂストン
デジタルエンジニアリング部門
材料開発DX推進担当

2018年より現職。統計・機械学習を活用したデータ駆動型材料開発の普及とデータ基盤の構築に従事。前職は、IT企業の研究開発部門に所属し、スマートファクトリ領域における顧客提案活動、及び、顧客課題解決のためIoTセキュリティとDBスケーラビリティ、統計・機械学習におけるデータ活用技術の開発に携わる。

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