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JDMCコミュニティ「超初級データサイエンス研究会」レポート: 最終回 打ち手の発表と講評

(レポート・鈴木恭子)

 JDMCコミュニティ「超初級データサイエンス研究会(以下、サイエンスの会)」は2020年12月10日、ハンズオン研修の最終回を開催しました。これまで5回にわたり学んできたデータ分析の知識を活かし、研修生チームが考えた小売店舗における利益増加の「打ち手」を発表します。参加したのは3チームで、その中から審査員が最優秀チームを選びました。

これまでのハンズオン研修では、リサーチデザインに基づいてリアルデータを分析し、売上向上の施策を考えました。ハンズオン研修で利用したリアルデータは、九州地方を中心にスーパーセンターを展開する、トライアルカンパニーで収集したID-POS(一部)データを使用しました。また、商品マスタデータは、商品情報管理データベースなどを展開するeBASEから提供されたものを使用しました。

審査員には、トライアルカンパニーグループCIO(最高情報責任者)の西川晋二氏のほか、eBASEでCFO(最高財務責任者)を務める窪田勝康氏、ECマーケティング人材育成代表取締役の石田真琴氏、データビークル代表取締役最高製品責任者で、横浜市立大学大学院データ分析専攻准教授/青山学院大学経営学部特別招聘准教授の西内啓氏が名を連ねました。

今回の発表で審査員が注目したのは、「データ分析結果のエビデンスに基づいた施策を立案しているか」です。前回(前回の記事にリンク)は、分析の基本となる「アウトカム」と「解析単位」を決定し、「説明変数」を見つけるまでのプロセスを学びました。これら3つの関係性を正しく理解し、改善すべき原因(説明変数)を見つけて、アウトカムを最大化する具体的、かつ実現可能な施策(打ち手)を打てるかが大きなポイントです。

 

同一データから三者三様の施策が誕生

 発表は、3チームの代表が、5分程度でプレゼンする形式で行われました。

最初のチームは、週末にまとめ買いをする主婦層をターゲットに、1回の買い物金額をアップさせる施策を発表しました。顧客属性データとPOSデータを分析したところ、「週末の購買が多いこと」、「女性会員の購買が多いこと」、「クイックミール等の購買が多いこと」等が判明しました。さらに、外部調査の「週末は外食比率が高い」というデータを取り入れ、コロナ禍で外食を控える家族が多いことに着眼し、「週末はおうちレストラン」という打ち手を考えました。週末、外食に行くかわりに、普段は買わないような食材を買ってもらう施策です。具体的には生鮮売場近くに、レストラン気分を味わえるメニューの材料を並べて提案したり、料理の手間がかかないクイックミール(調理済み食品)を並べたりして、客単価の向上をねらいます。

 

2番目のチームは、50代以上の女性をターゲットに、ストックが可能な日常必需品を置き配するサービスを発表しました。顧客属性データと売上データを分析したところ、「高齢会員の購買が多いこと」、「女性会員の購買が多いこと」、「来店距離が近い会員の購買が多いこと」がわかりました。ですから、購入商品の置き配をすることで、遠方に住む女性にも重たくかさばる商品を気兼ねなく購入してもらうことで、売上げ向上をねらいます。

 

 3番目のチームは、男性客をターゲットにした「晩酌先取りタイムセール」を発表しました。朝6時から10時までに飲料や指定のお惣菜を購入したカード会員には、受け取り希望時間にできたてのお惣菜を用意するというサービスです。さらに、60歳以上のシニア会員には、希望時間に自宅まで配送もします。

このアイデアは、スーパーで特に何が売れているかを分析し、そのうえで「特に何が売れていないのか」という真逆の分析をしたことから産まれました。これにより、これまで来店の少ない層や来店客が少ない時間帯などが詳らかになります。そうした層や時間帯に何ができるのかを考え、「朝活をしている男性」をターゲットに、「今日の晩酌おつまみを買う」という“楽しみ”を取り入れたサービスを考えました。おつまみには商品マスタデータの分析から、乳成分を含んだ商品は売れやすいという変数を見つけ、チーズやバターを使った惣菜の提案などもしました。

 

最優秀チームの評価ポイントは「データの深掘り」

3チームの総評として審査員の西内氏は、「与えられたデータは同じですが、3チームでまったく異なる施策が出てきたのには驚きました。それぞれの着眼点も非常にユニークでした」と評価しました。データを提供したトライアルの西川氏も、「クイックミールキットや、置き配サービスは(トライアルでも)実際に導入したり、検討したりしています」と語り、ビジネス視点も取り込んだ施策であることを評価しました。

今回、最優秀に選ばれたのは、「晩酌先取りタイムセール」を発表した3番目のチームです。その理由について西内氏は、「データ分析と(施策の)目的がきちんとつながっていたこと。さらに、優先順位をつけて複合的にデータ分析をしていたことを評価しました」と講評しました。石田氏は、「商品マスタデータの成分表から『乳成分が多いお惣菜は売れる』とデータを深掘りして見つけ、施策に反映させた点を評価しました」とコメントしました。

最優秀チームのメンバーは、「直感的に考えれば、午前中に男性をスーパーに行かせるような施策は思いつきません。しかし、データ分析によって導き出された結果から課題を見つけ、どのような施策に結びつけるのかを考える訓練をしたことは、とても勉強になりました」とコメントしました。

研修を終えた受講者からも、「業務でもデータ分析をしていますが、グループで作業することで、自分では気がつかない視点からデータが見られるようになりました。この経験を実務でも活かしていきたいです」との声が聞かれました。

研修全般にわたり講師を務めたデータビークルの渡邊美里氏は、「自社が保有しているデータだけを分析しても、『まあ、そうだよね』という結果しか出てこないことは多いです。大切なのは、データを複合的に掛け合わせて分析し、そこから得られた結果をどのような施策に落とし込むかです。そのためには、(社会の事象などに)アンテナを張って情報を収集したり、外部データを積極的に取り入れた分析をしたりすること。今回の研修で、その糸口を掴んでもらったらうれしいです」と総括しました。

 

 

※JDMCコミュニティ「超初級データサイエンス研究会」について ;
私達と一緒にデータサイエンスの旅にでかけませんか。本研究会はプログラミング学習をデータサイエンスの本筋とせず、その基礎をビジネスサイドとデータマネジメントサイドから研究していきます。なお、プログラミングを割愛するために分析環境には、JDMC会員のデータビークル社から無償提供されるdataDiverとdataFerryを利用します。

※JDMCについて;
2011年4月に設立されたJDMCは、データの管理や利活用の仕組みづくりに必要なガイドラインの提供をはじめ、データ管理の具体的な実践方法などを通じて、データ駆動型ビジネスの土壌づくりを目指す団体です。参加企業はITベンダーをはじめ、金融・小売・流通・通信など幅広く、200社以上の企業・団体が参加しています(2020年12月時点)。

※鈴木恭子(すずききょうこ)
ITジャーナリスト。週刊誌記者などを経て、2001年IDGジャパンに入社しWindows Server World、Computerworldを担当。2013年6月にITジャーナリストとして独立した。主な専門分野はIoTとセキュリティ

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