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レポート

第48回JDMC定例セミナー報告:カシオの生産戦略におけるIoT、AI活用事例とトークセッション

(セミナー部会・脇本 康宣)

2019年10月18日開催の第48回定例セミナーは、日本テラデータ株式会社の赤坂本社にて開催した。前半は「カシオ生産戦略のおけるIoT・AI活用事例」を講演していただいた。後半は「ビジネス課題を解決するためのIoT・AIとはどうあるべきか」というテーマでIoT・AI研究会メンバーとカシオの登壇者でトークセッションを行った。定例セミナーにおいて、研究会と講演者とのトークセッションは定例セミナー初の取り組みであったが、研究会メンバーや参加者から多くの質問があり、活発に議論が交わされ、大盛況のうちに終了した。

 

●講演:「カシオの生産戦略におけるIoT・AI活用事例」
矢澤篤志 カシオ計算機株式会社 執行役員 生産本部長/JDMC理事
鈴木隆司 山形カシオ株式会社 アドバイザリーエンジニア 

カシオ計算機では、2000年を境に海外生産が増加し、現在は国内工場1拠点、海外工場4拠点となり海外への委託生産も進んだことから、技術の空洞化や品質低下が2010年頃から課題になってきた。加えて、生産要求が厳しくなってきたことから国内に回帰しながら内製体制を強化してきた。

カシオグループ国内唯一の製造拠点である山形カシオでは、国内工場で育んだ技術によってグループの生産を革新するという重要な役割を担っている。山形カシオでは2000年頃からデータを収集して予兆保全をしており、約20年かけてデータの利活用を推進し、製造自動化、IoT活用を実現してきた。現在は「保有技術のプラットフォーム化」により、データの一貫活用、リアルタイム情報活用、仮想設計 仮想検証、自動化、ビックデータ分析ができるようになったと矢澤氏は語った。その事例を鈴木氏より2つ紹介していただいた。

1つ目は生産設備の予兆保全の事例で、工場で大量生産を行うと設備が短命化してしまうことから、予兆保全が必要になる。予兆保全を実現するために骨伝導マイクとRaspberry Piを使い、振動波形データを処理するソフトを自社開発し監視をする仕組みをスモールスタートから始めて実現させた。

2つ目は、電子ピアノの打鍵検査で異音を検知する事例である。以前は熟練した検査員が行っていた検査を自動化するために、マイクで拾った波形データを加工してニューラルネットワークを用いて解析できるようにすることで99.6%の正答率が得られるようになった。

IoT・AIを活用するためには、技術チーム・現場との隣接・理論指導者という3つの要素があり、その掛け算が必要であるという。技術はブラックボックスにせず自分たちで作っていくこと。そして近くに現場がありすぐに実験し、現場からの信頼を築いていくこと。理論は良き指導者から学ぶ(大学に相談する)ことが必要ではないかと締めくくった。

今回の講演では、カシオの生産戦略からIoT・AIの具体的な活用事例まで一貫して紹介していただいたことにより、経営者とエンジニアの2つの視点から企業におけるIoT・AI活用事例について深く学び、多くのヒントを得ることができる貴重な機会であった。


●トークセッション:「ビジネス課題を解決するためのIoT・AIとはどうあるべきか」

金井啓一 日本テラデータ株式会社/JDMC理事/IoT・AI研究会リーダー
冨田尚宏 日本製鉄株式会社/IoT研究会メンバー
矢澤篤志 カシオ計算機株式会社 執行役員 生産本部長/JDMC理事
鈴木隆司 山形カシオ株式会社 アドバイザリーエンジニア

 

トークセッションでは、IoT・AI研究会の金井氏と冨田氏がモデレーターになり、カシオの矢澤氏、鈴木氏にも再度登壇していただいて、前半の講演内容を中心に、IoT・AI研究会のメンバーが用意した多数の質問およびセミナー参加者から時間が足りなくなるほど多くの質問が出て、大いに議論が交わされた。内容は、組織作り、人材育成、データの標準化、データの蓄積、オープンソースの利活用、データ分析手法、プロセス改善との関連、KPIの立て方など多岐にわたるものであった。本トークセッションを通じて参加者にとって興味がある内容を詳しく知り、多角的に理解を深めることができたのではないかと感じた。

*JDMC定例セミナーでは、今回のセミナーようにユーザ企業の取り組み事例やデータマネジメントに関する技術やソリューションを学ぶ場を提供しております。ご興味がある方はぜひ参加してください。

 

 

<参加者アンケート>

・他社の事例を聞けたり、ディスカッションが非常に面白かったです。

・弊社はメーカーの情報子会社的位置づけだが、その点を活かして カシオ様のように柔軟な取組(顧客視点での協業)が必要と思った。

・具体的内容を実施責任者と実行責任者の方から直接伺えて貴重な機会となりました。

・IoT・AI活用事例をベースとしたお話を聞くことができ、とても参考になりました。

・いつもとは異なるパネルディスカッション形式で活発な意見も多く楽しむことができました。 エンジニア自ら水の中に一日中浸かり、ひたすら学習データを作成するという気の遠くなりそうなアナログな作業を行い、試行錯誤ののち、デジタルなものを生み出すという工程に大変感銘いたしました。

・矢澤様のお話は、イノベーションを起こすリーダーの在り方、組織づくりについてとても参考になり、特にサービス業と少し違う製造業の職人気質がそのベースにあることがよく理解できた。 鈴木さんのお話からは、Logoseaの例もそうだが、IoTもAIも手段であり、何を生み出したいか、どんな品質を求めるかなどの明確なテーマに対する研究やモノづくりに対するもモチベーションが大事だということを学んだ、

・私の中で、AI技術や機械学習の分野は、まだどういったものか定まっていない状態です。今回、カシオさんの生産現場への導入事例を聞けたことで、ひとつの活用方法を知り、それが容易にどこにでも横展開できないものだということも理解できました。私が従事しているのはアフターマーケットの分野でありますが、生産現場とはまた違った、別のアプローチも必要と感じています。このたびのセミナーはひとつの指針となるようで、非常に有意義でした。

・後半にインタビュー形式を盛り込んだのが良かった。いつもは簡単な質疑応答だが、 今回は具体的な生の声が聴けて、諸々の背景、意図等が理解でき満足。次回もこのスタイルで継続頂きたい。

・今回2回目の参加でしたがいつも興味のでるセミナーを開催頂き誠にありがとうございます。 カシオ殿のベンダーに頼ることなく自分たちでAI導入を進めていく内容が大変に参考になりました。 とりわけ大学の先生をアドバイザーにするとよいというアドバイスが大変に有益でした。

・IoT、AIをビジネスに活用する、カシオ様の技術力と応用力の高さを理解することができました。

・IoT・AIの実践例を、Webなどによる公開情報ではない、生の声を聴くことができ、とても勉強になりました。

・今回は「経営層の矢澤様と現場の推進リーダーである鈴木様のお二人からお話をお伺いする」という非常に贅沢な企画だったと思います。双方の立場からの貴重な御意見を色々と聞くことができ、非常に勉強になりました。

・AIを業務に活用し運用までできている事例はなかなか聞けないので大変参考になりました。 特にデータの発生部門が分析し自分たちの業務改善につなげているのが素晴らしいと思います。 機会がありましたらもっと詳しくお話しを伺いたいと思います。

・ロゴシーズの開発ストーリーが面白かった。ネットで集めている事例では、到底知りえない、現場の生の声を聞かせていただき、大変参考になりました。 AI・IoTのプロジェクトを推進していく上で、技術面、組織面で課題となること、そして、その解決策をご説明いただき、大変ためになりました。

・研究でもpocでもない、実業に生かしたIotデータの活用、AIの応用が非常に参考になりました。 また、質疑応答であった、「データガバナンス」は、データが生まれるところで活用する場合において、 考える必要もないという示唆も有益でした。

・IoTの導入や活用方法に関して実際の現場の取り組み状況や課題への対応策について大変参考になりました。

・製品開発におけるデータ分析(AI)の知見を、業務変革に活用することができた事例として貴重だと思いました。

・データを用いた経営課題の解決の状況が、実例によりよく解説されていました。またにJDMCに相応しい内容でした。質疑応答も活発に行われ、参加者の満足度が高かったのではないかと思います。

・AI活用の生の話を色々聞けて、大変貴重で為になる会でした。

・製造業における地道な取り組みが良くつたわって来た。

・ビジネス面、IT面の両面に対して非常に具体的に示唆に富むお話しを伺えました。 大学との協業などもよく聞く「産学連携」の具体的な事例として興味深く拝聴しました。

・リアルなお話、参考になりました ありがとうございました

・この様な事例シェア、質問形式大変良いと思います。

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