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レポート

第47回定例セミナー報告:「Tableauを使った分析プロセスの効率化と効果的可視化表現」、「今どきの?ある金融機関の管理部門によるデータ分析関連の取り組み」

(事務局・遠藤秀則)

9月25日(水)開催の第47回定例セミナーは、アイティメディア株式会社の会場をお借りし、Tableau Japan株式会社 Mao様とカブドットコム証券株式会社 石川様にご講演頂いた。設備が充実した快適な会場には多くの方がお越しいただき、活発な質疑応答もあり、大盛況のうちに終了した。

講演1 「Tableauを使った分析プロセスの効率化と効果的可視化表現」
Tableau Japan株式会社
プロダクトコンサルタント
Mao Ying

なぜ分析にビジュアルを用いるのか、組織が持つデータの価値を最大化させるにはどうすべきか、Tableau Japan株式会社で製品コンサルタントをされているMaoさんが、具体例を盛り込みながら分かり易く説明してくださった。

分析にビジュアルを用いるのは見栄えがよいからではない。スクリーンいっぱいの数字の羅列のなかから、特定の数字の数を数えるクイズから講演が始まった。これは難しい。私も頑張って数えてみたが、途中、目で追っていた行がずれて、どこまで数えていたかわからなくなり、振り出しに戻る。これを何度か繰り返しているうちに時間切れとなってしまった。

次に同じスライドではあるが、数えるべき数字にのみ色付けされている数字の羅列がスクリーンに映し出され、先ほどと同様に数字を数えてみるよう指示があった。すると今度は簡単、ほんの数秒でお目当ての数字の数をカウントすることができた。これがビジュアルを用いる理由、視覚という処理を働かせて「前注意的」に認知できるからということらしい。「前注意的」とは無意識のうちに本能で素早く自動的に処理することで、入力情報の大まかな特性を迅速にピックアップし、より高次の認知の成立にとってベースとなる表現をつくる重要なはたらきをしている。これをうまく利用するために分析にビジュアルを活用しているのである。そのことを体感する例として、同一の集計表を利用して「赤字」、「利益が高い」、「足を引っ張っている」など異なった情報を読み取る演習があった。

ビジュアルの工夫がないと目的の情報を把握するには、数字を全部読み頭の中で整理しないと理解できない。しかし同一の集計表であってもそれぞれの観点でビジュアルを変えるだけで、前注意的に認知できる例を解説いただき、参加者は数字を頭の中で整理しなくても目的の情報を把握できる体験をした。ビジュアルは理解を深め、新しいインサイトを生み出す効果もあると講演が続いた。

後半は組織が持つデータの価値を最大化させる方策についてご説明いただいた。
見える化はビジュアルが進んでいるが、分析はそれほどビジュアル活用が進んでいない。データドリブン文化醸成を阻む構造的な問題点が「定型レポートでは対応できないデータの見方がしたい」時の例で示された。このような場合、基幹システムから必要となるデータを取り出し、前処理、変換などしてエクセルを用いて手動で資料作成することが多いのではないだろうか。しかしながらこのエクセル作業は分析ではなく、資料作成そのものが目的になってしまい、アドホックに得たインサイトは使い捨て、基幹システムの定型レポートにも反映されない。分析サイクルを回すのに莫大な人的・時間的コストがかかる割には何も残らない/変わらない。データが更新されても一からやり直す必要がある。データドリブン文化醸成にはこの悪循環を断ち切る必要があり、そのためのプラットフォーム導入が有効な手段となる。

Tableauを例とした説明があった。Tableau Server上の定型ダッシュボードでは対応できないデータの見方がしたい場合、Web編集やDesktopでアドホック分析をおこなう。その結果、周りにも共有したい内容であればTableau Serverにパブリッシュ、参照される頻度が高ければ定型ダッシュボードに昇格させる。データは自動更新されるので作り直しの必要もない。かつてのような資料作成が目的といった不毛な作業がなくなり、質問/仮説から必要な回答を得るまでのスピードは、かつてのエクセルの時の10~100倍に向上する。使い捨てではなく、ユーザーのアイデアが加わることで改善し続けるループに変わったのである。

講演を総括して、データの価値を最大化させるには、「見てすぐ判断でき次の行動に移れるようにする」、「定点観測と分析の両方が(行ったり来たりスムーズに)できるプラットフォームを導入する」ことが有効であるとMaoさんは締めくくった。

質問に答えて「インサイトを引き出しやすい見せ方」のご紹介があった。
Tableau publicに世界中の分析者がパブリッシュした表現が集まっている。目的毎にその表現は変わってくるので、合っているものを探して参考にして欲しい。
https://public.tableau.com/profile/nanae.matsushima#!/vizhome/Tableau_325/sheet0

 

講演2「今どきの?ある金融機関の管理部門によるデータ分析関連の取り組み」
カブドットコム証券株式会社
システムリスク管理室長
石川 陽一

AIの利用は組織によらず活用される時代へ。カブドットコム証券株式会社で実際に利用されている二つのAI活用システムの紹介があった。一つ目が株券等貸借取引(ストック・レンディング)業務への活用。これまで貸出レートの決定はレンディング業務の担当者が過去の経験と各種市況情報を用いて総合的に判断し算出していた。このため、場合によっては銘柄ごとに時間を必要とする場合があった。人工知能を用いたシステムにより、優秀なレンディング・トレーダーの判断に近似した貸出レートを瞬時に自動生成でき、業務拡大と省力化を同時に実現した。二つ目のシステムが売買審査管理システムである。大量の虚偽発注により第三者の注文を誘引する相場操縦の形態である「見せ玉」の審査にAIを利用し、審査の高度化、効率化を図っている。今後はインサイダーの監視や疑わしい取引の検知などへも活用していくとともに、自社成功事例の証券業界全体への普及展開を進めている。

石川さんは、実際の業務にデータを活用するうえでPreparationが大切だと伝えてくれた。準備に8割かかるともいわれるが、そうであるならこの部分を大切にしたいし、この部分の変化にも対応したい。これまではガチDBを入力してきたがSNSのような「もやっと」した情報も扱うようになったこと、またこれまで他人にお願いしてきたpreparation作業を自らが実施できるようになったことである。

次に、働き方改革にデータを活用した自社事例の紹介があった。働き方改革は全社施策で人事から発せられたものであったが、この活動においても石川さんのチームではタイムトラッキングのツールを利用し、ログを取ってチームのコミュニケーションを図るなどデータを活用して施策を推進することとした。togglを利用して日々の業務を時間軸で把握、TableauやSplunkで可視化するなど、把握、コミュニケーション、対策検討にデータを役立てている。思っていたより勉強会の時間が少なかったことなどの気づきがあったそうである。

他にも「アクセス権の見える化」「ビジネスチャットのログへの活用」など石川さんが実施されたデータ活用事例を紹介いただいた。

ここまで、ツールを活用した可視化の有用性を強調していた石川さんだが、アナログも含めそれぞれが大事と語った。紙、ホワイトボード、付箋などのアナログツール、Togglとその可視化画面のようなすぐに利用できるツール、Tableauのように高度で示唆を持つ可視化ツール、AIとの接続等に威力を発揮するSplunkなど、それぞれに得意な活用視点があるからだ。

続いて会議におけるデータ活用のコツを紹介いただいた。
「会議で資料を使うと思うが、分析結果を先に出すのではなく、先にデータを見てから本質的な議論に進むほうがよいと感じている。膨大な時間をかけて資料を作っても、会議で見られる時間はほんの少し、分析結果からでは本質をとらえられない可能性もある。無理やりにでもデータ化することを心掛け、判断すべき場に準備しておくのが良いだろう。「何にどのくらい」というのを知ってから「どのようにやる」というのを考えるということである。」

実務にデータ活用を推進するうえでのポイントを、これまでの石川さんの経験を踏まえ次のようにまとめてくださった。
‐可視化すべきことは身の回りにたくさんある。わかっていることも見える化する
‐ベンダーやIT部門、部下任せにしない
‐自分でやってみて仕組みを理解し見えてきたことをもとに対話を深める
‐「見える化」の先に「さわれるか」「巻き込めるか」「踏み込んで意見を言えるか」
‐順番的にはASISデータを見て、次に目的を整理して、便利な「DX」のツール類を使って、「AI」に行き着けばよい

最近は、プロセスマイニングの見える化にも関心を持っていること、また、JDMCに来期「データDX研究会」を設立したいと考えていると、石川さんが最近感じられていることのご紹介で講演を締めくくった。

二つの講演を受講して、Maoさんの講演は参加者が体感できる演習を通して、石川さんの講演は自らのチームのデータを示していただいたことにより、参加者は身近に感じ、理解が促進し自分の職場にも取り入れてみようと行動したくなる意義深い講演と感じた。また、お二人の講演で共通に紹介された現場のシチュエーション「会議におけるデータ活用」には改めて認識させられることも多かった。「資料作りを目的としない」、「データとして集めておく」、「先ずデータを見せる」、「定型とアドホック分析のフローを負担なしで回す環境づくり」等々。私も実践せねばと会場を後にしました。

登壇いただきましたTableau Japan株式会社 Mao様、カブドットコム証券株式会社 石川様、会場を提供いただきましたアイティメディア株式会社様ありがとうございました。

 

<参加者感想>
・ちょうど、Tableauを活用した検討を開始していたので、非常に勉強になりました。
・データ分析ツールの最新情報とユーザのデータ分析に対する取り組み状況を理解することができました。
・2つの講演とも、非常に興味深く拝聴させていただきました。
・データ分析により、インサイトを得るという考え、それが認知的・本能的な面からの有用性があるという説明が非常に興味深かった。実際のデータを見せていただきながらだったので、わかりやすかった。データ分析からインサイトを得るにもコツがあり、訓練が必要なのではと思いました。その辺のコツも是非聞いてみたいです。
・講演2:非常に多岐にわたって取り組まれていて驚きました。特に人事の働き方改革での活用については、データ分析することにより非常に納得性が上がり、今後の改善活動への動機づけも強くなり、素晴らしいと思いました。まず、データを取るときに、どのようなデータを取るかを適切に決めるところが重要だと感じたのですが、その取るべきデータを決めるのに、どのように決めたのか教えていただきたいです。
・ともに面白く拝聴させて貰いました。
・講演1:質疑応答に対して、全て実際の画面操作によるデモで回答されていたのは素晴らしい!
・講演2:データ分析から働き方改革まで、幅広い構成であっという間に時間がすぎました。
・Tableauの見せ方、利用方法について、やはりTableau社ならではの良い講演で、積極的に取り入れたいという思いが浮かびました。ありがとうございます。
・PowerBIとTableauの比較が聞けてよかったです。
・講演2は大変参考になった。 一方でデータ活用ができているところというのは、基礎体力が相当ものをいうということも分かった。(アナログツールの使いこなし、データに即した目的志向の意思決定、など) 足元では一足飛びにAIだとか浮ついたことを言っている気がして、耳が痛い。
・現在BIツールの選定を行っており、導入だけではなく今後どのように社内に広げていく等の視点が非常に参考になりました。
・Tableauの使い方も含めた非常に実践的な内容で参考になりました。 カブドットコムさんの組織的な枠組みからデータ活用の様々な仕組みに関して非常に参考になりました。
・分かりやすくご説明いただきありがとうございます。もう少しユースケースなど伺ってみたいと思いました。
・分かりやすくご説明いただきありがとうございます。実際に使われている方の生のご意見は貴重です。いくつか試してみたいなと思えるものもございました。
・講演者の分かりやすい説明で、知りたかったことが理解できたので、有意義でした。
・Tableauに関する理解が深まりました。デモも見せて頂く事で、ビジュアル分析に関する腹落ちができました。ビジュアル化でいうと、弊社では現在は「見えるか」に留まっており「分析」として活用できていないという事に気づかされました。
・Tableau、power BIの比較がクリアになった
・石川さんの話は盛りだくさん、共感できて面白かったです。来期JDMC研究会に参加したいと思いました。 個人アカウントでもソフト入手できるならチャレンジしたい
・BIとしての機能だけでなく、データ接続・クレンジング機能を持つ製品についてもご教示下さり、大変勉強になりました。当方、データガバナンスに問題有と認識しているので、本日のご講演内容を参考にさせていただきます。
・非常に分かりやすかったです。
・恥ずかしながらtableauの地図機能について知識がなかったので、大変勉強になりました。
・石井様の講演は実務に則されていて分かりやすかったですが、実際あそこまで分析をされているとは驚きました。
・短い時間でしたが新たな知見を得る事が出来ました。
・Tableauについて詳しく知ることができてよかったです。
・自社内では使いきれていないあらゆるツールのお話を実際の活用事例に伴って、お話が伺え大変ためになりました。
・実例交えた悩みや頑張り方を聞け非常に勉強になりました。
・分かりやすく使い方(製品説明)まで丁寧なので、職場導入への提案がしやすい。

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