日本データマネージメント・コンソーシアム

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【インタビュー】データマネジメントは競争力強化につながる武器だ

日本データマネジメント・コンソーシアム(JDMC)は様々なデータや情報のマネジメントに関する社会的認知を高め、企業や行政機関などがデータマネジメントを実践するための土壌を創ることを目的として、2011年に設立された団体である。

現在、6つのテーマに分かれて研究会を開催。テーマ2「データマネジメントの基礎と価値」研究会では、データの管理や活用に向けて全体像を把握するための教科書「データマネジメント概説書」および現場での具体的な事例を示した「データマネジメント・ケーススタディ ボトムアップ編」「データマネジメント・ケーススタディ トップダウン編」の3部作をリリースし、Amazonで販売されている(Kindle版)。概説書は300冊、ボトムアップ編は100冊強出ているという(トップダウン編は2016年5月25日にリリースされたばかり)。専門書としては非常に良い売れ行きだ。

この3部作の位置づけ、およびリリースするまでに至った苦労などについて、同研究会のメンバーである谷口直行氏(日本電気 ソフトウェアエンジニアリング本部 マネージャ)と森弘之氏(JEFシステムズ 製鐵所システムプロジェクト 基盤グループリーダー)に話を聞いた。

(聞き手・ライター中村仁美)

ボトムアップ編とトップダウン編。2種類のケーススタディの違い

───まずはお二人の普段のお仕事、および同研究会に参加したきっかけなどについて教えてください。

谷口氏(写真左) NECグループのSIおよびソフトウェア開発事業領域に対して、プロセス、ツール、メトリックス(管理指標)の標準化を推進しています。JDMCに参加するきっかけは、データマネジメントに関する情報収集です。NECグループの多くのSIプロジェクトがデータ移行プログラムをJavaやCで都度開発していました。この生産性を向上させるためにETLツールによる移行ソリューションを開発し、NECグループ内に普及・展開を進めていましたが、データ起因のトラブルが発生することがあり、データマネジメントの必要性を認識させられました。

森氏(写真右) JDMCに参加したのは4年前。当時私は開発企画部という全社の開発部門のサポートをする部署におり、ETLやMDMなどデータにまつわる部分を提案するなど、主にデータベース周りを担当していたんです。そんなとき、たまたま知り合いに誘われ、参加しました。昨年からは現在の肩書きの通り、これまで製鉄所ごとに保有していた基幹システムを刷新し、業務プロセスの統一化を図るという超巨大プロジェクトの基盤部分(アプリケーションロジック以外)を担当することになりました。
──今回、概説書に引き続きケーススタディ ボトムアップ編とトップダウン編を製作するきっかけはなんだったのでしょう。

森氏 その前に私たちの研究会の特徴をお話したいと思います。この研究会の最大の特徴は、研究会への参加率もそうですが、その後に開催される懇親会でも抜ける人がほぼいないんですよ。時には懇親会の方が、人数が多いぐらい。この懇親会がすごく重要な役割を果たしていて、ここで語られたことが今回の3部作の内容にかなり反映されたと思います。

──ケーススタディがトップダウン編とボトムアップ編の2種類ありますが、この違いについて教えてください。

森氏 ボトムアップ編はある大手製造業の調達業務で発生している様々な問題点を解決すべく、現場の方がデータマネジメントを活用して抜本的な解決を行うプロジェクトを立ち上げるまでの軌跡を、データマネジメント概説書に沿って具体的に解説。つまりどの部分に概説書のどの部分が当てはまるかがわかるという仕組みになっています(*下記参照)。

(*)ケーススタディ本の右上の囲み(写真下)で、
データマネジメント概説書(構成要素、要素、アクティビティ)との関係を示している。例)
① データマネジメント戦略と評価    : 構成要素(①~⑩)の中の一つ
6.戦略実践による評価と改善/強化: 要素
・データ資産価値向上の確認   : アクティビティmigiue

一方トップダウン編は、複合プリンタ国内シェアトップ企業が、新規参入業者の脅威に対抗するため打ち立てた構造改革プロジェクトを、データマネジメントの知識が無い状態から「データマネジメント概説書」を駆使し、成功に導くまでを具体的に解説したものです。どちらも言っていることは同じですが、トップダウン編はトップから言われたお題をどうひもといていくか、ボトムアップ編は現場で困っていることをどう解決するかという視点で書いています。

谷口氏 私が感じたことを付け加えるならば、トップダウン編は全体について書かれていますが、ボトムアップ編はデータプランニングに特化しているということです。だから『データマネジメントって何?』が知りたい方は、トップダウン編から読むことをお勧めします。

森氏 そうだと思います。トップダウン編は素直に読めますが、ボトムアップ編はストーリーが試行錯誤して進んでいくので、表現が難解かもしれません。

──読者に違いはないのでしょうか。ボトムアップ編は担当者というのはわかりますが、トップダウン編はやはりトップに読んで欲しいと思って作ったとか。

森氏 3冊すべてについて私たちは担当者、もしくはミドル層を想定読者としました。トップダウン編といっても、トップダウンで降りてきた時に、どうしたらよいのかという視点で書いているからです。

ケーススタディの主人公は「あなた」

──ケーススタディの主人公が『あなた』としたのには理由があるのでしょうか。すごくユニークで面白いなと思いました。

谷口氏 自分自身のこととして捉えるようにという思いから、あなたという表現を採用しました。

森氏 最初は違ったんですよ。でも途中でそれに気づき、あなたを主語にして書き直したんです。賛否両論はありましたが、いずれのケーススタディも大手製造業の調達業務、プリンタメーカーというように、業界や業務を絞っているので、読者の中にはしっくりこない人もいるかもしれません。そういう中で、主語なしで淡々と文章が続くと、より自分とは遠い話になるのではないかと思い、主語をあなたにすることにしました。あともう一つ、こだわった点は、若干、物語的な書き方にしています。読者が物語の主人公となって、一緒に悩んでもらえればいいなという思いも込めました。もちろん、実際の場面でこの書籍に書かれていることをなぞれば、必ず、正解に至るわけではありません。道しるべになると思います。

──最初にリリースされた概説書は、ケーススタディとは全く異なるトーンで書かれていますね。データマネジメントとは何か、それを知るにはケーススタディから読んだ方がという話ありましたが、なぜ、こちらを最初にリリースすることにしたのでしょう。

森氏 まずは概説書作り、その次にケーススタディを作ることで、概説書が本当に使えるモノになっているか評価・検証したいと思ったからです。実は概説書とケーススタディと同時並行的に作りました。まずはおおまかな概説書をつくり、次にケーススタディを当てはめ、間違っていないか検証していきました。

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──当てはめていく中で、概説書とは違うことが出てきたりしなかったのでしょうか。

谷口氏 出版に向けて、実は整合性を取るのが大変だったんですよ。ケーススタディは、概説書を出版してから1年後に改訂したので、概説書の出版時に修正された事項の対応を含め、ドキュメント間のずれを直す必要がありました。査読実行委員会の方からもかなり指摘を受けて修正したので、かなり読みやすいモノができたと自負しています。

──日本ではデータマネジメントの認知度がそれほど高くないという点も問題ですよね。

森氏 データマネジメント概説書のデータマネジメント構成要素体系、データマネジメント構成要素詳細を診てもらえればわかると思うのですが、実は最小単位のアクティビティベースで見ると、どの企業もきっと手をつけていることがあるはずなんです。ただ、それをデータマネジメントと意識していないだけだと思います。

谷口氏 そこで私たち研究会では、データマネジメントとは何か、どんな困りごとを解決するものなのか、その重要性など、データマネジメントの肝について簡単にわかってもらえるようなリーフレットを作成しました。

森氏 親しみがわくような漫画調の図も入っているので、まずはこれを読んで欲しいと思います。当研究会のホームページからダウンロードできます。

こちらから(PDF)

概説書は最新のITトレンドも踏まえ、改訂版を出す予定

──今年度の活動について教えてください。

谷口氏 まずは概説書の改訂。現在の概説書は2011年時点の情報を元に記述しているので、例えばIoT、AIなどの最新トレンドは当然取り込めていません。そこで今年はこのような最新のITトレンドも踏まえつつ、内容自体をブラッシュアップし、メジャーバージョンアップをしたいと思っています。2017年度中に完了し、公開することを予定しています。次にデータマネジメント勉強会の開催です。新規会員が入ってきたので、みんなのスキルを合わせるために、今年は4回連続で概説書を題材にした勉強会とグループディスカッションの実施を予定しています。概説書バージョンアップの企画・検討を行うまでに実施する予定です。勉強会では過去の概説書のキーワードをピックアップして、概説書の中に書いていないことや、DMBOKのここから引用しているとか、わかりやすく解説する予定です。普通なら有償でも不思議ではない勉強会なので、今年度のメンバーはすごくお得だと思いますよ。

──4回も勉強会が開催されるんですね。

谷口氏 初回は概念について解説します。ここが一番重要です。それから、データマネジメントの構成要素の10個のプロセスを3回に分けて説明します。先ほども言ったように、説明するだけではなく、その後、必ず、各メンバーが持ち寄ったデータマネジメントや業務の課題に対してグループディスカッションを行います。課題をメンバーでシェアし、そこで議論した内容を持ち帰ってもらうことを積極的に行っています。あとはデータマネジメントの普及・啓発活動ということで、データマネジメント活用研究を行っているJUASなどの他団体との交流会、地方公共団体へのヒアリングなどを実施する予定です。JUASとの連携については、すでに4月末から先方のリーダーと討議を始めています。

──先ほど概説書はすでに300部出たということですが、読者の方からの声は届いていますか。

森氏 Amazonのレビューが書かれていればよいのですが、まだ読者からの声は届いていません。

──読者の方からの声が集まれば、内容に反映されていくことはあるのでしょうか。

谷口氏 例えばJDMCのカンファレンスに登録時のアンケートで、現状のデータマネジメント関連の課題についてうかがいました。このような貴重なご意見は、今後のバージョンアップのテーマとして参考にさせていただきます。

森氏 あるJDMC会員は、読めば読むほど味わいがあって、書き手の気持ちが伝わってくるとおっしゃってくれました。みなさんも手にとって読んでみると、わかると思います。

谷口氏 昆布やスルメと同じで、噛めば噛むほど味わい深いんです。

データマネジメントに取り組むのなら、今がいい時期

──最後に読者の方へのメッセージを。

森氏 私たちがリリースしたデータマネジメント3部作では、日本流を意識しています。日本の社長は生え抜きが多いので、データマネジメントを導入しなくてもなんとなく会社の数字がわかっているので、なんとかなってしまうんです。しかしデータマネジメントを導入すれば、その判断をより精度高くすることができます。私たちが手掛けたデータマネジメント3部作も、そういう日本流を意識して内容を記しています。私たちの本でデータマネジメントのエッセンスをくみ取ってもらい、ぜひ、会社の競争力強化につなげてほしいですね。

谷口氏 データマネジメントを武器にしてもいい時期が来ていると思います。少しでも関心があるなら、まずはケーススタディ トップダウン編を読むところから初めていただきたいと思います。

※3部作シリーズ詳細
https://japan-dmc.org/?page_id=6153


ビッグデータというキーワードより、データ活用が注目されている。だが、活用して効果を出すには、その素材であるデータが本当に適切な状態で維持、管理されているのかを確認することが重要になる。つまりデータマネジメントに取り組むことだ。データをヒト、モノ、カネに続く第4の経営資源にするための第一歩を、「データマネジメント・ケーススタディ トップダウン編」を読むことで踏み出してみてはいかがだろう。(なかむら・ひとみ)

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