本コラムでは、JDMCの諸活動にご指導ご支援くださっている理事の方々の“思い”をお届けします。今回は、NTTデータ 執行役員 技術開発本部長の木谷 強さんからのメッセージです。
「競争優位をもたらす、攻めのデータマネジメント」
■はじめに
「グローバルレベルの情報システム最適化」や「データ活用と業務オペレーションとの連携」の加速は、業務や情報システムとデータマネジメントの関係が重要性を帯びてきていることを物語っている。
情報システムが完成し、その運用が始まると、外部環境の変化に合わせてサービスが追加・変更され、それに伴って情報システムが提供する機能の追加・変更が行われる。データの側面からみれば、新しい機能やサービスに合わせて新しいコードが追加され、データ定義が変更され、データを利用する現場でデータを別の意味で活用することも行われ始める。
つまり、情報システムのライフサイクルが進むとデータとその定義の曖昧性は高まっていく。それでも、個々の情報システムが独立にデータを所有し、それぞれの業務に閉じて利用されている状況であれば大きな問題は起こらなかった。
しかし昨今、情報システム間がデータでつながり、複数システムが保有するデータを組み合わせて分析を行うことが必須になってくると、複数の情報システム間でデータの定義が異なることに起因するビジネス上の問題が浮き彫りになる。
■データマネジメントの難しさ
データを正しく活用するためには、データの標準化、データ定義の見直しや再設計、業務に合わせたデータの加工などといったマスターデータマネジメントが必要になるが、連携する業務が多くデータが膨大になると、それは大変困難で地道な作業となる。
近年、システム運用コストの削減を目的として、あるいは企業のM&Aを背景に、情報システムの統合が盛んに行われているが、もっぱらIT基盤統合が先行しており、業務標準化やマスターデータ統合までを達成するまでには至っていないケースも多い。
グローバルでのデータマネジメントともなると難易度はさらに高まる。例えば製造業では部品コードが世界各国で異なり、一元的に管理できていなことも多い。各地域に横串を指すデータ分析を行い、活動状況をタイムリーに「見える化」する、いわゆるビジネスインテリジェンス機能の実現は容易でない。
加えて、法規制、商習慣や利用者の嗜好も地域・国で異なり、各種のプロセスや製品・サービスが各国で同一でないことから、それらすべてを統一することは現実的ではなく、グローバルで統一管理するレイヤと、各地域・国の個別管理のレイヤを分けるなどの工夫も必要となる。
また、企業内データに閉じず、ソーシャルデータやオープンデータのような世の中のビッグデータを掛け合わせた分析も求められている。例えば顧客管理システムとSNS分析を連携させ、ターゲット顧客に関するSNS分析を基に、顧客のフォローアップひいては販売キャンペーンにつなげていくようなソーシャルCRMも1つの流れであるが、決して易しいものではない。
■ベンダー企業における情報システム開発でのデータマネジメント
周知のように、日本のエンタープライズシステム開発には、ツールベンダーやシステムインテグレータが深く関わっている。以前のシステム開発の多くは、単一のシステムを対象とし、そのシステムが正しく動くことを第一の目的にしていた。そこでのデータは「情報システムを正しく動かすためのモデリング・設計」や「情報システムを正しく動かすための移行データ」として登場するにすぎなかった。
ベンダーは、ユーザーが業務運用を行うための基盤となる情報システム自体を生業としており、ユーザーがビジネスの中で生み出したデータとその管理に対しては一線を引いていた。
ところが前述のとおり、昨今、多くの企業の環境では、複数の情報システムがデータを介して連携することでビジネスのスピードを確保するようになってきており、情報システムを提供するだけでなく、ビジネスを駆動するデータを正しく活用できるところまで、ベンダーが踏み込んでいかないと価値を生み出せなくなってきている。
■ビジネスを共に創る
データマネジメント自体は、ツールを入れるとすぐに結果が得られるといった類いのITでは決してない。中長期的にビジネスへ寄与するためのデータマネジメント像を計画し、実際にデータマネジメントを担う人材を育成し、データの整備状況に合わせた最大限のデータ活用の仕組みを構築する――そうした、中長期的かつ多面的な活動に取り組むことではじめて成果を手に入れられるのである。
ベンダーは、システムを稼働させるためのデータマネジメントでなく、ユーザーのビジネス競争力を生み出すための「攻めのデータマネジメント」が実践できることを期待されている。そして、ユーザーのビジネス競争力をデータマネジメントによって生み出すことが、ベンダー自身のビジネス競争力を生み出すことにもなる。
ところが現状では、ユーザー組織のIT部門において、そしてベンダーの側でも、データマネジメントへの注目度は高くない。実際、ベンダーでもデータマネジメントの知識や手順をOJTで身につけているところが多く、体系的な教育は十分ではない。情報システムにおけるデータマネジメントの優先度は総じて低いままなのである。
しかし、データマネジメントの実践が経営に大きなインパクトを与えることは前述のとおりだ。いったん、データマネジメントをビジネスに組み込んでしまえば、その難易度ゆえ、競合他社はそう簡単に追いつくことはできない。すなわち、データマネジメントとは競争力を手に入れる鍵だと言えよう。
■最後に
JDMCは、データマネジメントの事例紹介や一般的な手順を公開することで、情報システム部門やベンダー企業の技術者のより一層のスキル向上を図っている。また、経営者に対しては、データマネジメントの目的が効率化だけでなく、業務改善やビッグデータとの掛け合わせによる新たな価値を生み出す手段としても有効であることを認識してもらうようアプローチしている。今後、これらの活動をさらに加速し、「攻めのデータマネジメント」を通じて、欧米と比較して少ないと言われる、日本での「攻めのIT投資」が増えることを期待したい。