日本データマネージメント・コンソーシアム

会員コラム

【Vol.129】株式会社D.Force・川上 明久さん データツール大増殖時代、取り残されないために「クラウドデータベース」をどう学ぶべきか

JDMC会員による「リレーコラム」。
メンバーの皆さんそれぞれの経験・知見・想いをリレー形式でつなげていきます。
今回、バトンを受け取ったのは、株式会社D.Force 川上 明久さん です。

 当社は事業会社のデータマネジメント内製化の伴走支援に特に力を入れています。内製化の成否を分ける大きな要素がスキルとノウハウの習得です。若手にとってはいかに早くスキルを習得できるかが課題になり、ベテランにとってはリスキリング、特にアンラーンして学び直す意識を持てるかがポイントになります。

データ活用の現場ではアジリティが求められるので、スキルの習得に長い期間をかけるわけにもいきません。このような状況で多くの支援を経験して得た知見の一部を、書籍『クラウドデータベース入門(日経BP)』にまとめました。私の8冊目の著書にして、初の入門書となります。

このコラムでは、書籍の内容を少し引用しながら、今データベースの学習に何が求められているか、筆者の視点をお伝えしたいと思います。現在ならではの視点の1つとして読んでいただければ幸いです。

●これまでの常識を捨て、学び直すことがベテランエンジニアに求められている

 
 先ほど触れたように、現在はかつてなく「高速学習」が求められています。ある調査(製品やサービス、基盤技術などデータに少しでも関わるかなり広い範囲です)では、データツールの種類は2000を超えるそうです。いずれ集約されるかもしれませんが、データツールは大増殖中だと言えるでしょう。

日々新たなツールや新機能が出てくる中で、トレンドや技術をすぐにキャッチアップし、データ活用に活かせるかが競争力や収益力に影響するようになり、アジリティを高める要求が強まっています。

多くのベテランエンジニアは、正直この変化について行けていません。彼らが若いころには考えられなかったスピードであり、そんなに早く物事を習得する習慣がないというのが一因です。そして、もう一つの要因は既存の知識がじゃまをしているからだと感じます。これまでの常識が通用しないようなサービスが登場して、データベース関連の業務自体が大きく変わってしまっているにもかかわらず、既存の知識を捨てられないのです。

せっかく習得したノウハウは、ずっと役に立つものであってほしいものです。しかし、クラウドとAIの影響で、下流業務になるほど自動化が進んで不要になるタスクが増えていきます。

エンジニアリングのスタイルも変わりつつあり、SREやプラットフォームエンジニアリングの影響を受けた「DBRE」というプラクティスが広まり始めています。役に立たなくなったノウハウは「アンラーン」して学び直さないといけません。

当社でデータベース関連のエンジニアリング業務を整理した結果、クラウドとAIを活用することでDB基盤・SQL開発工程は40%、運用工程は50%の生産性向上が見込めます。おそらく、今後もこの割合は上がり続けるでしょう。特にインデックス設計などは、生成AIを使ってかなりの程度自動化が期待できます。

長年培った専門性が、時として学び直しを妨げる最大の障壁となります。不要になったノウハウをアンラーンして、新たなエンジニアリングスタイルを習得するのが、ベテランエンジニアにとって最も高い壁なのです。

●仕組みを理解し、経験値を素早く稼いでレベルアップできるか

 一方、若手にとっての学習課題はだいぶ事情が異なります。最初からクラウドに接していると、内部のアーキテクチャが理解できていないがために、問題解決能力が身につかないまま、とりあえず構築作業はできるようになった、という状態のロースキルエンジニアが増えてきました。

 日本のIT業界には他業種からの人材流入が続いてITエンジニア人口が増えています。しかし、その多くがITSSレベル2~3に留まっているため、ITエンジニアの平均給与は低下してしまっている現実があります。若手にとっては、習得不要なタスクを除いて効率良く基礎学習を進めた上で、経験値を高速に稼いでレベルアップしていくことが重要です。

 では、クラウドでデータベースは何が変わって何が変わらないのか。いらなくなったスキルとこれからも価値を持つスキルはなんなのか。DBREというプラクティスとは?

 クラウドでのRDB、DWH、NoSQL、NewSQL、ベクトルDBなどを解説しつつ、これらの指針を提供するよう企画したのが冒頭に紹介した書籍です。ご興味のある方は手に取っていただけますと幸いです。

 当社はデータマネジメント内製化の伴走支援を通じて、生産性の高い内製組織づくりに貢献していきます。この取り組みがデータ活用の成功と、データマネジメントに関わるエンジニアの地位向上につながると考えています。

川上 明久(かわかみ・あきひさ)
株式会社 D.Force 代表取締役社長

データマネジメント業務の内製化、データベース全般の伴走型コンサルティングに多数の実績・経験を持つ。データベース関連の書籍やIT系メディア記事の執筆、セミナー・講演も多数手掛ける。データ活用の高度化、クラウド移行によるコスト削減などを通して、継続的に成果を上げる組織構築を支援している。
著書 『クラウドデータベース入門(日経BP)』
https://www.amazon.co.jp/dp/4296207350


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