JDMC 情報発信部会 株式会社ジール 小川淳一 / 株式会社日立ソリューションズ 倉田 公史
日本データマネジメント・コンソーシアム(JDMC)では、毎年、データマネジメントにおいて、他の模範となる活動を実践している企業・機関などの中から優秀なものに対してデータマネジメント賞を授与しています。データマネジメントは、データ活用を進めるにあたり欠かせない取り組みですが、その活動内容の性質上、多くの人から脚光を浴びるというより、縁の下の力持ちとして、デジタル化を支える活動になります。今回は、その縁の下のヒーローにスポットライトを当て、受賞に至るまでの過程や苦労話、そして、受賞してからどのような変化が起こったのかなど、受賞された団体の代表者をお招きし、語っていただきました。
※本記事は、データ活用に関する最新の取組みや業界動向をより多くのかたにお届けするために、JDMC ホームページと株式会社ジールが運営するメディア「BI online」に掲載しています。
受賞企業ご担当者 | |
2022 データマネジメント賞 大賞 | 農林水産省 畠山暖央氏 |
データガバナンス賞 | Zホールディングス株式会社 工藤真一氏 |
先端技術活用賞 | 一般社団法人リテールAI研究会 林拓人氏 |
アナリティクス賞 | エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社 斎藤悠介氏 |
聞き手は、座談会実行委員(JDMC情報発信部会・NEC齋藤(司会)、NEC廣田 、日本ティーマックスソフト多田 、ジール小川、表彰部会・NTTコムウェア土田) ※ データ統合賞 株式会社カインズは調整付かずご欠席
2022 データマネジメント賞 大賞
農林水産省共通申請サービス「eMAFF」などデータ駆動型農業への取り組み
情報発信部会:本日は、2022データマネジメント賞に受賞された企業、団体の方にお集まり頂き、取り組みの内容をご紹介頂くと共に、データマネジメント賞受賞後にどのような変化があったのかなどについて色々なお話をお伺い致します
農林水産省 畠山氏:私は、平成26年に農林水産省に入省、生産局総務課、畜産企画課などの部門を経た後、復興省に出向、2018年に農林水産省に戻り、それから一貫して農林水産省 共通申請サービスの取り組みを行っています。
農林水産省 共通申請サービスは、約3,000種類ある農林水産省の行政手続きに対応できるような汎用的な申請・審査基盤であり、この取り組みを始めて約3年目になりますが、現段階で3,000の手続きの中、既に2,700の手続きがオンライン化されている状況です。
この申請・審査画面を、1つ1つ民間の開発事業者様に作ってもらうと、実現が困難な規模の金額になってしまうので、農林水産省の職員が、ノーコードツールを活用して申請・審査画面を作る取り組みを行っています。
仮に、各手続の申請・審査画面を民間の開発事業者につくってもらうとすれば、担当職員が補助金や行政手続きの要綱・要領を確認、開発事業者様に要綱・要領の内容を説明し、半年ぐらいかけて、すりあわせをした上でようやく開発に着手できるという状況になり、さらには、ちょっとしたマイナーチェンジをする場合でも、再度、予算を確保し、基本設計、詳細設計段階からスタートし直すというようなことになります。
しかし、今回、ノーコードツールを活用し、職員自らが申請・審査画面を作成、編集するようにした結果、数多くの制度が一気にオンライン化できました。もう1つの特徴としては、地方自治体職員が行っておられる日常の業務について、開発の企画段階にて全8回、延べ22名の地方自治体職員の皆様と一緒にコミュニケーションを図り、ニーズを反映させてきた点にあります。
各自治体毎に少しずつ実務が違ったりしますが、それぞれの実務の内容をお伺いし、「こういうものであれば使えるか」というのを検討し、その内容を反映させて作ってきたという経緯があります。「行政手続き」というものをデータの観点から考えると、例えば、農地台帳や戸籍といった台帳系データに対して、「この農地の所有者をこの人からこの人に変えたい」「この人と結婚するから自分の戸籍の内容を変更したい」「新しく子供が産まれたので戸籍に新しいレコードを追加したい」というような内容を反映させる行為であると考えています。
行政手続きの申請書に記載し、審査し、審査が完了するというような流れは、いわゆるトランザクションデータに相当すると考えており、トランザクションが動くたびにレコードが追加されたり、レコードのカラムの中身が更新されたりするといようなモデルが書けるのではないかと思っています。
非常に抽象的な言い方にはなりますが、汎用的な行政手続きを流せるようにした結果、汎用的な形のトランザクションデータが右から左にちゃんと流れるようにできたというのが現在の段階だと認識しており、この次の段階として、トランザクションデータをきちんとキャッチできるような台帳データを定義できるようにすることだと考えています。
通常のアプローチであれば、台帳データ、データモデルを定義し、その上でどういうトランザクションを走らせるのかという流れが定石だと思いますが、行政手続きが3,000種類もあることから、データ量が膨大で、かつ内容もバラエティに富んでいため、台帳テーブルやデータモデルを最初から定義するといったことができず、そうしたアプローチをとることができませんでした。
その結果、まずは、今、あるものをなんとかトランザクションが回るようにし、そのトランザクションが右から左に流れていくのを眺めつつ、「こういう台帳テーブルを定義しよう」とか、「こういうデータモデルを定義しよう」というように、先にトランザクションを回しつつ、後からデータモデルを構築するというアプローチができているのではないかと思います。
情報発信部会:まさに、今、流行りのDataOps的なアジャイル的な開発という形ですね。地方自治体毎の実務の違いを、コミュニケーションを取りながら乗り越えてきたというということで、非常に興味深いお話を伺いました。
次に、今回の取り組みの中で特に評価されたと思った点などあれば教えて頂けますでしょうか?
農林水産省 畠山氏:農林水産省は、本省に約5,000人、地方農政局に約15,000人いる組織になります。さらには、各地方農政局の職員が、県庁や市役所に新しい共通申請サービスの営業資料一式を持参し、説明しました。県庁側、市役所側の方も初めて見るシステムですから、「これはなんだろう?」から始まったと思っており、大変な営業活動となったと認識しています。役所の職員が、デジタル分野の、まったく新しいことを勉強して、申請・審査画面を作り、県庁や市役所や関係者にご説明しにいくというアクティビティが、きちんと組織としてまわったことについては、すごいことが起きたと思っております。 システムを作るということは、やろうと思えば誰でもできることであり、農林水産省内の現場、地方自治体の現場が連携して動けたことが、非常に稀有なことなのではないかと認識しています。
情報発信部会:農林水産省、各地方自治体を含めた広い中でシステムを作るだけではなく、それを広めて周知し、プロセスを作っていく、ということが非常にすばらしい取り組みであったかと思います。
グループ全体のデータ利活用とデータガバナンスの実現
Zホールディングス 工藤氏:Zホールディングスは、ヤフー、PayPay、LINE、アスクル、ZOZO、出前館といったネット系を中心とした企業を擁する企業グループの親会社でございます。
私は、このZホールディングスの中で、プライバシー保護、セキュリティ対策、それに関して社会、行政庁に対して説明責任を負い、かつ、私が管轄する組織部門に、各グループ会社等の組織と連携するスタッフが一堂に集まっています。
今回の取り組みのポイントは、大きく2つあり、 1つは「データカタログ」です。当社グループのサービスは「Yahoo! JAPAN」など、のユーザーの生活に根差したようなものが多く、自然と日々データが集まってきます。ただ、このデータの活用については、データを取得したサービス内に閉じてストックされ、利活用されることが多く、別のサービスや他の企業グループのサービスと相互にデータを利活用するということは、なかなか行われてきませんでした。
その一方で、昨今、企業におけるデータの利活用というものはAIの進化などに相まって、いかにユーザーに新しく、かつ便利なサービス、そして価値を提供できるか、これらがユーザーから支持を頂けるかどうかの生命線になってきています。そういった観点で見ると、従来の考え方ではやはり限界があり、取得したサービスに閉じないデータの利活用を促進させるということが、経営的に非常に重要でした。
当社グループでは、これを「データカタログ(どこに何のデータがあるのかのリスト管理) 」として開始しました。この「データカタログ」は社員であれば誰でも閲覧できるようになっており、そのデータを眺めてみるだけでも非常に興味深く、かつ新しいサービスのアイディアなどが湧いてくるような取り組みになっています。
もう1つの取り組みが、データのセキュリティ対策とプライバシー保護を中心とする「データガバナンス」になります。たくさんのユーザーデータを預かる企業ですので、当然、ユーザーに安全と信頼を提供できなければ、ユーザーから選択されるような企業にはなりません。
特に、昨今、プライバシーに関する考え方の高まりを受けて、適切なデータ保護とユーザーからの厳しい目線に耐えうる信頼ある仕組み、ユーザーへの十分な説明と同意の取得などが社会から要請されるようになってきたと思っています。そうした背景もあり、セキュリティやプライバシーのルールを作り、きちんと管理し、透明性を持って説明をしてきています。
しかし、現実的には、当社グループでは約200を越えるサービスがあります。この多くのサービスすべてが、「もれなく」、「くまなく」、「ルール通り」に動いているということを、限られたリソースで、かつスピード感を持って対応するということが求められます。この難しい課題を仕組みで管理を進めようということが、我々が行った「データガバナンス」になります。その「データガバナンス」の肝は、「スリーラインズ・オブ・ディフェンス(通称、スリーラインモデル) 」というコンセプトです。事業会社の中での横のガバナンスと、グループ内での会社間の縦のガバナンスの連携を組み合わせた、マトリクスのガバナンスモデルを採用しました。
一見すると難しいように見えますが、非常にシンプルなモデルであり、実際に説明すると理解されやすく、かつ浸透されやすい面があり、有効に機能していく感触が得られています。 このように、データを取り扱う企業グループとして、「データの効果的な活用」と「安全と信頼」この両面で効果のあるデータガバナンスを実践することができた結果が今回の受賞につながったと考えております。
情報発信部会:ヤフーをはじめとするZホールディングス様の競争力の源泉を司っていくためにガバナンスを1つ1つ新しく考えて取り入れているという形ですね。データ活用の利便性とガバナンスは相反するところもあり、実現するのは非常に難しいと思いますが、どのようにして社内にデータガバナンスを浸透させたのですか?
Zホールディングス 工藤氏:今でこそ、こうして胸は張って言えるような仕組みになってきましたが、このきっかけは、事業会社で実際に起こったインシデント始まっています。当社が今の形になったのは2021年3月1日であり、その際にヤフーを中心する旧ZホールディングスグループとLINEが経営統合するという大きなイベントがありました。
ところが、経営統合から2週間ぐらい経ったときに、LINEアプリにおいて一部のデータが海外保管されていたにも関わらず、ユーザーや官庁に対して十分な説明行われていなかったことが判明し、色々、報道・糾弾されたという問題が発生しました。これが、当社として経営統合後の最初の試練ということもあり、経営陣が真に捉え、通常の原因究明、対策のための体制を執るだけでなく、客観的な視点で問題解決を図るために外部の有識者で構成される特別委員会を設置しました。
この委員会が、約半年間に亘って深夜まで喧々諤々の議論が行われ、最終報告としてデータガバナンスに記載が及んだという経緯があります。当時は大変だったのですが、この問題が発生したことにより、共通認識必然的にZホールディングスとLINEの両陣営が共通の目標を持ち、一緒に取り組むことができ、データガバナンスの重要性に対して両社の共通認識が持てたことは、PMIの観点でも非常にポジティブに働いたと考えています。
これをきっかけとして、現在の仕組みを構築していくにあたり、「データガバナンスは当然」という認識にグループ全体がなり、結果としてうまく働いたと思っております。
マスタの共通化とテクノロジーの掛け合わせによるオープンイノベーションの実現
リテールAI研究会 林氏:私は、リテールAI研究会、及び今村商事という企業に所属しております。前職は食品卸売業で、システム・営業・経営とキャリアを積みました。消費財流通の泥臭い現場から経営まで体験をし、複数のプロジェクトマネジメントの実績をもって、現在はリテールAI研究会にてJ-MORAプロジェクトを推進しています。
J-MORAとは、「次世代の商品統合データベース」とご理解ください。データベースですので、大量なデータを保有する機能をもちますが、“貯めること”が目的ではありません。むしろ“使うこと”を目的としています。この中には、オープンソース、AI・機械学習、自然言語などの最新のテクノロジーを有しており、今までの商品マスタに対する概念を変え、業務の課題やあるべき姿を実現させる、課題解決型のソリューションなのです。
このJ-MORAには、現在34社47名が参加しており、各種の施策に取り組んでいます。この商品マスターを集める、纏めるという部分については、他の企業様や団体様などでも取り組みが進められていますが、他と大きく違うところが二点あります。
一点目は、集まって頂いた現場の皆さんやプロジェクトの参加メンバーが、それぞれの施策に基づいて小さな成功事例から積み上げることにチャレンジしていることです。例えば、消費財流通における課題感というのは、欠品、在庫問題、フードロスなどの問題が結構多くあります。この問題について、大きなところから解決をしていくということも大事なのですが、私たちが考えているのは、現場の課題を一つ一つ最新のシステムを使いながら解決させていくこと、さらにその成功事例やプロセスを他の企業様にオープンな形で共有していく取り組みを行っていることです。
二点目は、このJ-MORAが基本的に無料という点です。リテールAI研究会に所属をしていれば、プロジェクトへの参加やJ-MORAの利活用は無料となります。また、他企業とのコラボもマッチングも可能で、パッションをもった人材でしたらどなたでも参加して頂けます。
現在、34社の企業様が参加していますが、参入障壁を取り外すことで参加しやすいようにしており、さらにプロジェクトも丁寧にリードしていますので、DX入門のような位置付けで進めています。J-MORAプロジェクトでは、いつでも新しい仲間を募集していますのでお気軽にお声がけください。リテールAI研究会までご連絡を頂ければ、ご説明に伺います。
情報発信部会:新しい仕組みを作るだけではなく、それを使う側へのサポートも十分行われているということで、大変面白そうな取り組みですね。34社47名という大所帯で、複数の会社が集まり情報を共有して取り組むということは、大変なご苦労があったかと思いますが、その辺りのお話をお聞かせください。
一般社団法人リテールAI研究会 林氏:現在、47名のメンバーが集まっていますが、人材を結集させ、オーナーシップをもって活動して頂くことが、一番苦労しています。このような外部プロジェクトや新しいソリューションというのは、まず経営陣が理解してくれないことが多くあります。「参加するためにはリソースがかかる」、「何年でどのようなメリットが出るのか」「参加する上でのリスクは何か?」などの戦術論のような話になりがちです。
参加して頂くメンバーも、その障壁を越える為のモチベーションが低く、言葉を選ばずに言うと、社内説得のプロセス自体が”面倒くさく”なります。自分がやりたいことや自分で課題を見つけてそれに対して手を打っていくというマインドになりません。そのため、最先端のソリューションを使うことに固執することなく、それぞれ参加していただいている皆さんの課題感というのを十分に時間をかけて吸い上げてディスカッションを行い、自分事になっていくことを目標に進めてきています。他のプロジェクトも含めて、現場と経営のギャップなどにすごく苦労することがあるかと思いますので、何かの参考になればと思っています。
情報発信部会:やはりディスカッションというところが、非常に重要だということがわかりました。我々、JDMCでも様々な研究会がありますのでご説明頂いた部分も参考にさせて頂ければと思います。
全社的なデータドリブンマネジメント活動を推進
エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社 斎藤氏:2020年に大きな組織再編があり、R&D組織のデータ分析・分析基盤の開発部隊と情報システム部門にいたデータ分析系のツールを展開しているチームが合併し、社内に向けて全社のデータ利活用を加速化させていくためデジタル改革推進部の組織ができました。新組織の機能としては大きく分けて三つを提供しております。一つ目がデータマネジメント、二つ目がデータ基盤、そして三つ目がデータ分析・人材育成となっています。
一つ目のデータマネジメントですが、例えば、サービスを一意に表すコードについて複数の組織が作っていたものを統一していくためのマスターコード整備、それを管理するためのマスターデータマネジメント導入、数百のシステムの中でどこにどのようなデータがあるのかというデータマップ作成、セキュリティのデータ収集、活用に対してのルール整備を行っています。
二つ目はデータ基盤ですが、分析を行う環境、データを蓄積・加工する環境、移り変わる技術に対応できるよう基本的にオープンソースを中心に内製開発を行っております。クラウド環境とオンプレ環境共に、比較的センシティブなデータを扱っているため、クラウドだけでなくオンプレも合わせて開発をしております。
三つ目がデータ分析と人材育成ですが、トップから経営層、そしてボトムまでのデータを共通言語にしていきたいという思いがあり、それを実現するために、データレイクに貯めて、データモデルを作り、目的に応じてデータマートを提供していくことを行っています。
また、現場の課題設定から一緒に入って行くデータ分析支援を年間100件程度行っています。さらには、全社のデータ活用人材の育成についても行っており、昨年ベースだと2,000人を超える社員にデータの活用について学んで頂くような取り組みも行っています。
今後については、先ほども共通言語、我々の中ではシングル・ソース・オブ・トゥルース(SSOT)という言い方をしておりますが、このSSOTを高品質で提供し、使ってもらえる状態を保っていきたいと考えています。またこの組織が全社のスタッフ組織に位置づけられておりますので、組織横断、バリューチェーン横断、サービス横断で使えるようなデータとして提供して、さらにそれが業務、意思決定に組み込まれるところまでサポートしていくことを続けていきたいと思っています。
また、我々だけが分析の支援を行っていても全社的にスケールしていきません。Zホールディングス様でもお話があったデータのカタログについても現在取り組んでいます。どこに、どのようなデータがあるかを社員にわかるようにし、そのデータを使える人材を増やし、一層充実して各組織の人たちがデータを用いて業務に使う意思決定を行うところを目指して取り組んでいます。
情報発信部会:データマネジメント、プラットフォーム、分析という三本をバランスよく、人材育成も含めて回していくことによって、全社的な広がりをみせているということですね。特に、そういった中で苦労したところや、突破するための工夫や裏話的なものがあれば、参考までに教えてください。
エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ 斎藤氏:先ほど組織合併のお話をさせて頂きましたが、それ以前からデータの活用は少しずつ進んでおり、その中でも進んでいたのがBIツールの普及でした。
データマネジメントの観点では、SSOTとしてデータマネジメントを行い、それを提供し、社内の共通言語にしていくことをやらなければいけないのですが、各社員が自分でシステムからダウンロードしてきたデータをBIツールに食わせて、それをダッシュボードにするということが全社で起きていたため、その部分のギャップを埋める必要がありました。
今さらSSOTにしたいと言っても、現場からすると既にExcelで回っているからという話になってしまいます。現場にメリットを提示し、相手の実現したいビジネス課題のところに踏み込んで解決していくことをしないと、我々がデータで実現したいこと(SSOT)を理解して頂けないところがありました。そのギャップを埋めるために、コンサル部隊を立ち上げ、最初の課題設定やKPI設計から現場の課題にしっかり入り込み、必要なデータを一緒に作り、さらにSSOTとして横展開していく取り組みを、地道に重ねてやってきています。
情報発信部会:現場のニーズをしっかりヒアリングしながらうまくいかないところを紐解いて、少しずつ地道に進めていく、これはどこでも共通的な所かもしれないですが、そこをしっかり実践していかないと、取り組みとしてはうまく回らないということを改めて感じました。
受賞したことによって変わったこと
情報発信部会:それでは、賞を受賞したことによって、周りで変化があったことや、それをモチベーションに次の取り組みを始めているなど、なにかありましたら教えてください。
農林水産省 畠山氏:農林水産省内では、省内報があるのですが、その省内報に今回のことを取り上げてもらいました。何より嬉しかったのが、一生懸命、手を動かして頑張った制度の担当者、対県庁、対市役所などで一緒に活動して下さった農政局職員の頑張りについて触れる機会があったことが何より嬉しかったです。システムそのものについて云々言われますが、組織的に動けて良かったということが関係者の中で認識ができ、次のステップに進む有効な準備になったのではないか思っています。
Zホールディングス 工藤氏:受賞させて頂いて大変嬉しく思っております。社内のイントラネットが、新しくリニューアルするタイミングでしたので、コンテンツが揃っていない中で、この受賞の話が掲載されることで、非常に賑やか、かつポジティブなメッセージを発信することができてよかったと思っています。
こういう表彰については、企業でのアクセルとブレーキの部門があるとすると、アクセルの部門については、新しい売上が上がった、営業が頑張ったなど褒められやすい内容が多いのですが、このブレーキの部門というのは、なかなか褒められにくく、特に外から褒められにくいという中での今回の受賞ということで、普段、なかなか陽の目を見ない部門の人間たちは、すごく盛り上がったと思っています。
情報発信部会:もともと、データマネジメントをやっている部門は、比較的地味な部門の方が多く、そういった方にスポットライトを当てるという目的がまさに達成されたということで良かったと思います。
リテールAI研究会 林氏:プロジェクトを推進する上で、表彰状を頂く機会というのは、普通はないと思っていまして、今回、このような機会に恵まれたことに純粋な喜びもあります。先ほど、ポイントは人材結集とお話しさせて頂きましたが、まさにこの受賞は結集した47名のプロジェクトメンバーが獲ったものです。受賞により、プロジェクトメンバーのやってこられたことが正しかったと対外的に評価を頂けました。それぞれの企業への報告もされるでしょう。社内の理解を得ること、賛同者を増やす為にも、今回の受賞はとてもよい機会になっていると思っています。私自身も、登壇等、さらに発信を続け、J-MORAを拡げていく拍車になります。
情報発信部会:そういったモチベーションに素直に変えて頂けると、本望かなと思います。
エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ 斎藤氏:すでに出たような話ばかりになりますが、3点、外向けと内向けと自分たちにとって良かった面があります。弊社は、データ活用ソリューションも販売しております。そのため、このような団体で賞を頂けることは、弊社の取り組み自体が評価されて、弊社のソリューションや提案にも繋がることことかと思います。内向けについては、我々は社内のデータ活用ということで、色々な社内システムからデータを取ってこなければならないのですが、すぐにデータを貰えるかというと「目的は何?」、「稼働がかかるんだけど?」という話にどうしてもなりがちです。データレイクの考え方ですと、目的が先か、集めるのが先かという、これはニワタマになってしまいますが、我々からすると、どんどんデータを集めていきたいと考えています。
この賞を頂いて何が良かったかというと、経営幹部や上の方に、「我々は、こういう賞を取れた組織なんだ」「君たちの組織は、それくらいの実績を持っているんだな」ということをインプットすることにより、トップからの理解や促進力のある応援をしてもらえるようになりました。この結果、我々の営みに対してのブレーキがかかるようなことがあっても、トップ層が応援をしてくれるので、凄く進めやすくなったということがあります。最後に、やはりこういうところで賞をいただけることは有難いということで、自分たちのモチベーションにも繋がっております。また、Slackを社内で使っているのですが、Happyマークが大量に届いたり、ほかの組織からもチャットですごく応援マークが付いたりするなど大変盛り上がりました。
情報発信部会:JDMCとしても本当に授与した甲斐があったと言うことですね。
受賞された皆様でのディスカッション
情報発信部会:それでは、これまでの話をお聞きして、皆様方の間で質問してみたいことはありますか?
Zホールディングス 工藤氏:皆様の発表を聞いていて、本当に示唆に富む素晴らしい内容だと思っておりました。中でも、大賞を受賞された農林水産省様の農業DXで、2030年というかなり先のことも考えてブレークダウンし、一年後の未来をきちんと計画していくというのは無駄がなく、民間企業としても見習うべきところだと思っており、本当に素晴らしいと思います。ただ、一方で、現実には、すごいご苦労があったのではないかと思っています。このような壮大な農業DXをプランニングする時に、どのぐらいの人数で、どのようなやり方で、どのように進められたのかというところを言える範囲で結構ですので、ヒントをいただければと思います。
農林水産省 畠山氏:最初は6人ぐらいでスタートして、DX室になり、デジタル戦略グループ、そしてだんだん組織が大きくなっていきました。途中で、民間の人材採用サイトも活用させていただきながら、少しずつ規模を大きくしてきました。農林水産省としての危機感はどこからきているのかといいますと、今、農業者の平均年齢が67歳ぐらいになっています。ある意味、その国の礎となっている産業の平均年齢が67歳という相当年齢のところまできています。
「このまま続けられるのだろうか」というのが、一つの大きな危機感となっています。今後、農地を借りて規模を拡大していく担い手が、これからの主要なプレーヤーなっていきますが、例えば、「担保に入れる土地がないが、どう経営規模を拡大するためのお金を借りたらいいか?」「事業性評価貸付、動産担保貸付とかにも手を広げないといけないのでは?」という時に、「金融機関の方々と一緒にコミュニケーションを取っていますが、どのようなデータがあれば安心してお金を貸せますか?」というような話し合いをしています。将来的には、各農業者さんに、自分の判断で、自己に関する情報を、自分でマネージし、自分が信頼できる相手に自分の情報を開示する。しかも、それがきちんとトラストが担保されたデータを開示できるようにする。それを踏まえて、金融機関側も安心して与信ができるということが実現できると良いと考えています。
もう一つ宣伝させて頂くと、現在、「eMAFF ID」というものをやっていますが、「eMAFF ID」は、農林水産省共通申請サービスにログインするためのIDに閉じているわけではありません。今後、民間のウェブサービスに「eMAFF IDでログイン」というボタンを設置して頂けるようにしたいと考えています。そうすることにより、農業者が新しいアグリテック系のWebサービスを見つけて、「試してみよう」「やってみたい」と思った時に、「eMAFF ID」でログインし、ご本人の意思に基づいて自分の農地の一覧をサイトの提供者に提供するということができれば、いちいち「農地の一覧を教えてください」というようなことはしなくて済むようになり、農家さんがいろんなアグリテック企業が作ってきた民間サービスを使って発展していくことができます。
例えば、自分の農地の東側と西側で違うトラクターメーカーのトラクターで耕してきたとします。違うメーカーのクラウドにデータが格納されていたとしても、身元確認、本人確認済みのIDで、両方のwebサービスにログインすることにより、相互にデータ連携もさらにしやすくなります。ある意味、本人が意思決定をする形で、官のサービスから民のサービスへ、民のサービスから官のサービスへ、そして、民のサービスから民のサービスへというように、自分でデータを持ち運びできる、自分で自分に関するデータを制御できるという時代になると良いと考えておりますし、そのようにしていかないと日本のアグリテック企業もなかなか成長の余地がなく、苦しくなってしまうのではないかと思っています。ですので、まずそこあたりも取り組んでいく必要があると思っています。
情報発信部会:かなり壮大な計画ですね。先ほど仰った貸付なども、その一つのサービスとして派生で出来るというような世界をイメージされているのかなと思いました。
農林水産省 畠山氏:リテールAI研究会の林さんにお伺いしたいと思っています。
農家は、これまでだと出荷しておしまいというのが多かったのですが、これからは、自分の屋号で、農家自身で、商品台帳を用意し、何らかのバーコードを貼り付けて流通していくという世界が来るのではないかと思っています。そうすると、農家が出荷したものが小売店で売られて、場合によっては輸出までされ、POSレジデータを買ってくれば、出荷した米や畜産物が、どの地域のスーパーや店でいくらぐらいで売れるか、こんな形で輸出に回されたかなどの情報が伝わりますし、さらには、私がスーパーに行って、野菜を買おうとした時に、何らかのバーコードをスキャンすると、「これは○○村の○○でとれた野菜です、ちなみに、この野菜を入荷してくれている近所の居酒屋さんは、○○と○○と○○にあります」私が作った野菜が美味しかったら、「実は○○の飲食店に入れてるから、ちょっと今度行ってみて」というような世界観ができないかなとも思っています。
リテールAI研究会 林氏:「畠山さん、その話を一緒にやりませんか?」商品データは、無限の可能性をもっており、その生産者の作っている、かぼちゃ、人参・玉ねぎであったり、また加工品であったり、すべてのものがコード化することが理論上、可能です。J-MORAでは、他のシステムとのAPI連携も可能です。ですので、加工食品メーカー様や、小売業とのデータとの需要想像もいろいろ考えられるでしょう。
今のプロジェクトに位置情報のベンダーが入っていますが、彼らのソリューションも組み込むことにより、スーパーケットに届いた商品を追いかけていくと、それはどの生産者で…、という、今、畠山さんが仰ったことができるようになります。そのベネフィットが、凄く強烈であり、その商品に対してとても強いストーリーが生まれます。「これだけ愛情を育ててきたそのかぼちゃです!」「これだけ愛情育ってきた加工品があるんです!」ということを消費者にアピールすることもできますし、安心、安全も担保することができる。
そのようなデータのつながり、データ連携の実現を目指しており、それを実現するためには、地道な小さな成功事例の積み上げも大事ですが、畠山さんのような大きなところと組んだりしながら進めてくことは、非常にポジティブだと思います。 いいアドバイスを頂き、ありがとうございます。
農林水産省 畠山氏:実は、食品加工業者の方々にも適用できるのではないかと思っています。例えば、食品を輸出した際に、外国のスーパーで、外国の方が日本の商品を取ったときに、「これってどうやって調理したらいいんだろうか?」「これってどうやって食べたら美味しいんだろうか?」など分からないことがあります。また、自然災害が発生したり、感染症対策で国内に避難所ができた場合、避難所の中には、当然、日本の方もいらっしゃいますし、外国の方もいらっしゃいます。
その中で、いきなり日本語しか書いていないものを渡されて、「これって何のアレルギーが入っているのかよくわからない」「どうやって何分茹でたらいいのかわからない?」となり、混乱して周りの日本人スタッフに助けてもらう事例も伺っています。もちろん農産品の活用にも役に立ちますし、ある意味、食品を輸出するなどの国外の人々にもより優しくすることができるという新しいフロンティアもあるのではないか思っています。今、この時点で「ぜひ一緒にやりましょう!」と言える立場にないんですけども、後ほど連絡先を交換させていただければと思っています。
リテールAI研究会 林氏:ありがとうございます。きっと面白いことが起きると思います。
情報発信部会:最後にNTTコミュニケーション斎藤さん、何か質問等ございますでしょうか?
エヌ・ティ・コミュニケーションズ 斎藤氏:Zホールディングスさんのスリーラインモデルを我々もすごく重要視しており、非常にいい話だなと思って聞いていました。なかなかセンシティブなところだと思うので、お答えできる範囲で結構なのですが、リスク評価統制とリスク評価統制活動の監視、また監視というように分かれていて、二番目のリスク、評価統制活動の監視のところが、実は結構肝なんじゃないかなと私は思っています。実際に、これをプロセスとして回すにあたって、何か苦労された点などはございますでしょうか?
Zホールディングス 工藤氏:まさにご指摘の通りです。このスリーラインモデルというのは、第一線が現場部門でまずはチェックしましょう、第二線がそのルールを作ります。第三線は内部監査になりますので、第一線、第二線が「きちんと回っているよね」というような役割分担になっています。そのため、ご指摘のように、実はこの第二線がとても重要です。当社グループですとホールディングスがあり、その下に事業会社がたくさんぶら下がっている体制ですので、その事業会社ごとにスリーラインを作れるというのは簡単でした。
しかし、その場合、第二線がバラバラだとすると全然統括が取れないということになるので、その一個上のZホールディングスにて、ある程度、議論を扇動する形で第二線同士の結束を強める。それを、縦のガバナンスと我々は呼んでいまして、事業会社ごとの横と縦を組み合わせてやっていくというように考えました。この第二線のところ、特にZホールディングスのところにいろんな知恵を結集して、今もまだ喧々諤々といろいろやっているというのが現状でございます。
情報発信部会:大変楽しいお話でしたが、時間になってしまいましたので、そろそろ終了させていただきます。それでは、JDMCにおけるデータマネジメントのあり方というところも、ますますの発展を考えていますので、皆様の一層のご協力、ご発展お祈りしております。有難うございました。
<関連サイト>
2022年データマネジメント賞報道発表