【特別座談会 No.3】データ管理が変わればビジネスが変わる! 社内のデータをビジネスに活かすプロの知見&体験を共有。「MDM研究会」

MDM(マスター データ マネジメント)という言葉が知られるようになって久しいが、その本質や実践例を正確に知る人はまだまだ少ない。MDM研究会は、JDMC の中でマスターデータ管理に関心を持つ人々によって運営され、ベテランから初心者まで、またIT企業から事業会社まで多彩な顔ぶれが大きな特徴だ。そこで今回は、同研究会のメンバーにお集まりいただき、MDMに対する基本的な考え方や組織内での推進方法、また研究会の活動ぶりなどについて大いに語っていただいた。

出席者(五十音順)

神田 健司 氏 SAPジャパン株式会社 ソリューション統括本部 エンタープライズアーキテクト
田中 真紀子 氏 東京海上日動システムズ株式会社 システムイノベーション推進本部 デザイナー
轟木 美穂氏 富士通株式会社 IT戦略本部 グローバルビジネスシステム統括部 次世代グローバルガバナンス部
鳴海 健彦 氏 ビジネスエンジニアリング株式会社 ソリューション事業本部 デジタルサービス本部 データマネジメント部 シニアアーキテクト
水谷 哲 氏 JDMC特別会員/ダッソーシステムズ株式会社 シニア ソリューション コンサルタント 3DSソリューション事業本部
司会 (以下事務局)
齋藤 真平 氏 JDMC情報発信部会/日本電気株式会社 AI プラットフォーム事業部 マネージャー
倉田 公史 氏 (副司会):JDMC情報発信部会/株式会社日立ソリューションズ IT プラットフォーム事業部 デジタルシフト開発支援本部 主任技師


左から神田健司氏、鳴海健彦氏、倉田公史氏、田中真紀子氏、水谷哲氏、轟木美穂氏、齋藤真平氏

 

それぞれにデータ統合の重要性に着目してMDM研究会に参加

 

事務局:本日のテーマはMDM(マスターデータ管理)ですが、依然として世の中の人にとっては具体的にどういうものなのか、イメージが漠然としている印象があります。まだまだ一般的とは言い難いMDMですが、MDM研究会のメンバーの皆さんは、どのようなきっかけでMDMに関心を持つようになったのでしょう?

水谷:私はあるプロジェクトでマスタを設計していた時、データモデリングという手法を知りました。データモデリングは、素早くシンプルにデータを設計できるだけでなく、方法にもよりますがロジックも把握できるパワフルな手法です。しかし、その後、理屈と現実に大きなギャップがあることに気づきました。理屈では「顧客」といえば一つでよいはずが、現実のデータベースが数十もあった事とかなど……。このギャップを埋められるのがMDMです。企業のデータ利用に大きな利益をもたらすと気づいて、自分でもMDMに取り組むようになりました。

 

轟木:私はまったくMDMの知識がなかったのですが、会社で水谷さんに「MDM研究会というのがあるから参加してみない?」と声をかけていただいたのが最初でした。
大学時代は人工知能を研究していて、きれいに整えられたデータをもとにロジックを考えるというのが当たり前だったのですが、業務の現場ではデータ整理は後回しにされていることが多く、大変驚きました。「これはもったいないぞ」と思い、データを整えるMDMを進めるべくこれまで研究会に参加してきました。

 

神田:私は20年以上前に 株式会社データ総研に入社したのですが、この時に概念的に「マスターは1つであり、すべて統合されるべき」という考え方を徹底的に叩き込まれました。ちょうど当時はオープン化でホスト環境が分散化、あるいは買収した会社のシステムが加わり、マスターが増える傾向にありました。
そうしたマスタの分散を制御する手段として、のちにMDMが出てきたのです。現在はSAPで重要顧客向けにプリセールス活動の一環としてITロードマップやEA策定支援のためのエンタープライズアーキテクトを務めており、MDMに直接の関係はなくなりましたが、EAのテーマの中に「共通マスター」とか「グローバルマスター」が頻繁に出てきます。そうした経緯から、MDM研究会にもずっと参加してきました。

 

田中:私はMDMは初心者です。入社してから十数年、顧客管理システムの担当をしてきました。社内でマスターデータを整備するプロジェクトがあり、今年の4月にその担当部署に配属され、初めてMDMという言葉を聞きました。
これは勉強しなくてはと思ったところにMDM研究会を紹介され、参加させていただくことにしました。研究会では専門用語が飛び交う中、必死にメモを取りながら皆さんのお話を聞いているのがとても楽しいと感じています。

 

鳴海:私がMDMと出会ったのは15年くらい前に、現在とは異なるSIerに在籍していた時です。ERPやCRMの導入に伴い、顧客マスターの統合などを、最初はアプリケーション統合のようなアプローチで行っていたのですが、ビジネスやアプリケーション、テクノロジーと比較して、変遷のサイクルが長いデータに着目することの価値に気づき始めました。
さらに現在では、収集、統合したデータを元にした分析を行う上で、マスターをどのように作っておくべきかといった課題にも取り組んでいます。

 

ビジネス企画や業務の視点からMDMに着目する人が急増中

 

事務局: MDM研究会に参加される方は、やはりデータを直接扱うエンジニアが多い印象がありますが、最近は技術者以外の会員も増えているそうですね。

轟木:年々、システムエンジニア以外の方の入会が増えています。今年入会された中には、「私はシステムのことはわかりません」という方が3人くらいいて、私も大変驚きました。具体的には、消費者購買の動向を見ているとか、金融系の契約情報を営業資産としてどう考えるかとか、業務の視点からMDMに関心を持つ方が多くなってきている印象です。

田中:それはユーザー企業側の人間としては、よくわかります。まさに私たちも、これからそこに取り組んでいかなくてはと考えています。そもそも金融系のデータは、すごく古いデータも最新のデジタルデータも混在している状態です。まずはそれをある程度整えることが優先課題で、それができて次の分析系に進めるという状況です。

水谷:保険の契約というのは、お金が払う人が即、顧客というわけではないんですね。一つの保険に色々な、しかも保険の種類それぞれに 「顧客」がいるので、その名寄せをきちんとできる仕組みがないと、あり人がいくつどんな保険に入っているかも把握できない。その一方で顧客が保険会社に電話をかけて何か相談しようにも、自分が入っている保険を契約の番号で伝えないと話にならない。そこでデータを一つに統合して、契約単位ではなく人単位で顧客を見られるようにしようという動きが、保険会社の中では起きています。

 

ビッグデータ時代を迎えてマスターデータの重要性がさらに拡大

 

事務局:「契約単位から個人単位へ」というお話が出ましたが、データに対する視点が変わることで、マスターの考え方そのものが変わっていくというようなことはあるのでしょうか。

水谷:マスターそのものは大きく変わりませんが、マスターの重要性がさらに増してくるというのはありますね。以前はたとえば保険の契約が複数あって、契約者に同じ名前が並んでいても、それが同一人物なのか気にする必要はありませんでした。その契約は、その契約で完結しているからです。
ところがビッグデータが出てきて、アップセルとかクロスセルを色々な企業で考え始めるようになりました。そうなると、このデータとあのデータが同一人物であるかどうか、同一人物なら、これまで何を買っているかの情報を取れるようにすべきなのに、システムの壁に阻まれて収集できないのは問題だ……という流れになってきています。

神田:生命保険会社や銀行、損害保険会社がいろいろな業務ができるようになって、商品や業態が多様化してきているのも、MDMにとっては追い風になっています。
これまで生命保険は個人を対象に長いライフサイクルでやってきましたが、損害保険はもっと短い契約ベースでした。それが個人も特定できるようになると、もっと息の長いお付き合いを考えられるようになります。データの名寄せができることで、ビジネスの幅が拡がっていくのです。
一方、企業のグローバル化という観点で見ると、海外の企業をM&Aなどで取得して、その会社が持っている海外の顧客にもアプローチできるようになれば、そこでもマスターデータ管理は成長戦略の重要なポイントの一つになっていきます。

 

「完璧なマスター統合」ではなく「業務に使える最適化」がMDMの本質

 

事務局:現在多くの企業では、複数のマスターが並立している中で、本音ではみんなマスターデータ統合をしたいのに、なかなか進まない一番の理由は何でしょう。

神田:システムが分割されているということは、それぞれに責任者がいるということです。
たとえば営業とか製造とか経理とか、各部門のデータに横串を通して一本化しようとする場合、これまでになかった組織体を作らねばなりません。これがMDMを推進するにあたって、もっともハードルが高い課題になります。つまり会社の中で、誰が言い出しっぺになるかというのがとても難しいのです。システムというより、やはり一番は組織の問題なんですね。

水谷:その第一ハードルを乗り越えたとしても、今度はデータの定義という難問が待ち構えています。たとえば一口に「社員マスター」と言ったとして、例えば、外部の業者が自社に常駐しているとして、彼らに自社ドメインのメールアドレスを付与したら、それは社員として扱うのか、入退室管理の時には社員扱いするのか、さらに役員は、OB会は……と、いくらでも議論ができてしまいます。あるいは、給与支払台帳とActive Directoryを統合しろと言われても困るわけです。そこにも、社員マスターとは別にデータベースができてしまうという頭の痛い要因が潜んでいます。

事務局:そうすると、実際のところマスターは永遠に統一できないと、諦めなくてはいけないというお話に聞こえますが……

水谷:できません。というのも、社会が変わる限り、データに対する認識は次々にいくつも現れてくるので、それを統合できないのは当たり前。むしろ業務に活用できるためには、どうバランスを取っていくかというのがMDMの本質なのです。「完全な統一」という絵に描いた餅を追い続けるのではなく、いかに実効性と妥当性を担保できる形でデータ利用のあり方を最適化していくかが重要であり、私たち実務家に与えられた社会的要請だといってもいいでしょう。
言い換えれば、本当はいくつもの異なったマスターがあちこちに存在するんだけど、用途に応じて、必要な範囲でデータを一つに扱える方法がないか? という方法論こそがMDMなのです。

事務局:なるほど、マスターが完全には統一できない前提で、なおかつそれをどう飼い慣らして使っていくかがMDM推進の真のポイントだというわけですね。

 

日本企業の統制のゆるやかさはMDM推進における両刃の剣

 

事務局:「完全なマスター統一はありえない」という非常に重要な示唆をいただきましたが、世の中の企業は、そのことに気づいているのでしょうか。それともまだ「唯一のゴールデンマスター」があると考えているのでしょうか。

神田:グローバル企業では、当社(SAP)も含めてかなりの割合で「ゴールデンマスター」を実現しています。これには、グローバル企業の場合、非常に強烈なガバナンスで統合・管理しているという背景があります。たとえば当社の場合、SAPジャパンでベンダーマスターを登録する場合、申請するとそれがプラハからドイツを経由して……とグローバルの承認ルートを回って、最終的にドイツの統一されているマスターにレコードが統合されて、ようやく私たちが日本でキャシュアウトできるという厳格な仕組みが構築されています。当社だけでなく、グローバルの大手企業の多くは、このようにマスターデータの統合を強力に推進・管理しています。
一方、日本企業は伝統的に各リージョンの文化や地域に適した改善を日々積み重ねていく文化が強いので、たとえグローバル進出していても、日本の本社からそこまで強烈な統制をかけない会社がほとんどです。これが日本企業のよさであり、同時に弱さでもあります。こうした文化や風土があるがゆえに、日本企業がグローバル展開する場合、マスターの統合に苦労する例が多いのです。MDMが普及しないというよりは、システム統合自体が難しいという課題なのですね。

事務局:鳴海さんのお客様はほとんどが国内の企業ですが、やはりマスターデータに対するガバナンスという点では、いま神田さんが言われたような状況なのでしょうか。

鳴海:私も、そうした日本企業ならではの風土は非常によくわかります。先ほども「契約」と「顧客」の関係が話題に出ましたが、私の担当しているCRMでも、たとえば製品を売った後のフィールドサービスが対象とする顧客が、製品の販売先となったお客様とイコールとは限らない。更には設置した場所がわからないと修理に行けないので、設置場所も管理したいとか、請求先は別の組織や担当だとか、この会社は全体で何台購入しているから値引きがいくらだとかといった話になると、「顧客」をどの単位で扱えばよいのかわからなくなります。しかも、その答えはそれぞれの会社の、その時々のビジネスモデルによって変わってくる。強固なガバナンスに従って物事を進めるよりも、場面ごとの柔軟性が求められる傾向が強いことが、日本におけるマスターデータ=データ統合に対する明快な解がない理由の一つだと思っています。

 

MDM単体でなく大きな情報戦略などに乗せて提案するのが成功のコツ

 

事務局:私たちがMDM推進のためのソリューションなどをビジネスとして提供していて難しいと感じることの一つに、お客様に提案するにしても、まず誰の話を聞けば良いのかというのがあります。そうしたプリセールス的な観点から、何か知恵をいただけますか。

神田:一番は、やはりプロジェクトに責任を持っていて、お金を出せる人になります。
これはMDMに限りませんが、そういうキーマンをベースに展開していくのが基本的な成功要因だと思います。特にMDMの場合は、各部署を一堂に集めて最初から連携していくというのは、まずありえません。率先して旗揚げする組織があって、そこが次第に周囲の組織を呼び込んでいくという形になる。IT側としては、業務の現場にそういう流れになるように仕向けていく工夫が大切だと思います。

事務局:お客様にアピールするにしても、正直なところ一般のソリューションと違ってMDMってすごく地味ですよね。なのでMDMだけを最初からテーマに売り込んでゆくのではなくて、たとえば機器の設置場所がバラバラなのをデータ上でまとめることによって、サポート要員の動きが最適化されますといった提案に盛り込む形で持っていかないと、MDM推進というお話にはならない気がしています。

神田:おっしゃる通りです。MDMだけを目的にして売り込んでゆくのは、かなり難しいと思います。もし可能であれば、グローバルでの情報システム改革のような大きな話の中に、データのグローバル統合が必須ですみたいに提案を盛り込んで、イニシアチブを確立していくのが良いと思います。経営側はどれだけ効果があるかわからないものに、最初から大きな投資はしてくれません。データマネジメントやガバナンスと同じで、小さく産んで大きく育てていかないとIT投資が続かないし、それを認めてもらうためにも大きなストーリーを作って、その中で必要性を訴求していくことが大事ですね。

 

MDMは業務改善のような長い目で取り組み周囲を巻き込むのが成功の道

 

事務局:業種や業務によってMDMを始めるタイミングも異なると思いますが、その辺についてはどうですか。

轟木:現在、当社でもMDMを推進していますが、なかなかすぐ成果が出るものではないと感じています。ようやく形が見えてきて少し効果が出そうだと思ったら、企画時と全く同じ課題に直面したり。部内では「同じところをグルグル回っている気がする」なんて言い合っています。最近は、どう始めるかも大事ですが、それ以上に実際にやってみて、何回もそのサイクルを回していかないとゴールにたどり着けないと思っています。
MDMというのは、いわゆるシステム構築プロジェクトとはかなり違って、最初考えた企画を一度回してみて、その結果を受けてすぐに2回目が始まるという改善活動に近い印象があります。長いスパンの活動の先に「成功」があるのではないでしょうか。

水谷:現場のオペレーションで働いている人には、何の役に立つかを訴求するのが非常に大事です。その上の中間管理職ならばKPI。それぞれにアピールしていかないと理解が拡がっていかないとアドバイスしています。

 

初心者もベテランもお互いに学び合えるMDM研究会にぜひご参加を!

 

事務局:では最後に、MDM に関心を持っておられる皆さんに、MDM研究会からのアピールや参加の呼びかけなどをお願いします。

轟木:研究会メンバーの方々は強い想いや責任感がある方が多い印象です。さすが業務後にMDMのために集まってくる人は違います。そういう方々のお話を聞くと、ならば自分も見習ってみようとか、何かしらの気づきを毎回いただくことができます。まったく初心者の方でも、その業界の事はわからなくて当然というスタンスで、親切に説明していただけるので、ぜひ一度参加してみてください。※写真右は研究会の様子

神田:やはり皆さんの実体験に基づいた生のアドバイスや声が聞けるのが、最大の魅力だと思います。またユーザー企業や事業会社がMDMで困っていることをヒアリングして、解決の提案を作ろうといった取り組みも過去に実際に試みたこともあります。ITベンダーやコンサル、SIerも大勢いるので、事業会社にとっては大いに利用価値があるし、私たちも事業会社が何を悩んでいるかを学べる場でもあります。そういう面でも大いに活用していただけるとありがたいですね。

田中:私は本当にまだ初心者で、毎回参加して情報をもらうだけなのですが、やはりさまざまな業種の方から、MDMやデータベースのお話を聞けるのが非常に新鮮です。また運用で苦労されている方が話してくださる経験談も大いに参考になるし、自分もいつかはそういう話を皆さんにできる側になりたいと思っています。とにかく初心者の方にはお勧めの研究会です。

鳴海:サプライヤーやベンダー、そして私のようなSIerもいるので、毎月研究会に出るたび、いろいろな立場の方の経験や考え方を聞ける楽しみがあります。またある程度の年齢になると、誰かに教えてもらって学ぶというのは置かれた立場や環境にもよりますが、一般的には難しくなります。MDM研究会であれば、外部のプロフェッショナルや異なる視点の方からお話を聞けるのが、本当にためになるし、楽しいですね。

水谷:参加者の皆様には、ぜひ2度来て欲しいと思っています。1度目はいわゆる初心者として、知らない話を聞いて面白いと思って、役に立つ知識をもらって帰る。やがて自分のプロジェクトが忙しくなって出席できなくなるけれど、ひと区切りついたら2度目はみんなに語る側の一人として帰って来てもらえるとすごく嬉しいですね。そういう、初心者として学べるし、ベテランとしての体験を次に語ることもできる。そのどちらもあるからこそ、楽しくてためになる研究会だと思っています。

事務局:今日は貴重なお話をどうもありがとうございました。MDMに関心のあるかたはもとより、社内のデータを活用するのに苦労されているかたが参加されても、得られるものがありそうですね。