JDMC運営委員/伊阪コンサルティング事務所 代表 伊阪哲雄氏
最近の領土問題は深刻だ。尖閣列島問題についての日本政府の対処には、一貫したガバナンスが存在するとは国民には映りにくい。ガバナンスの実施では大局観に従う戦略・戦術の立案が前提であり、さらに強い意志を持ち慎重かつ積極的な行動が必須である。具体的にはどのような対処が想定可能だろうか? 必要なのは、精緻に積み上げられた戦略と定量的な分析と緻密に準備されたロジスティック(兵站)を前提とした戦術である。同時に、国際社会へのアピールも合わせて極めて大切であり、その実行においても戦略・戦術が鍵となる。
翻って、データ・ガバナンスを考えてみよう。国内の一部の先進企業を除きデータ・ガバナンスに対しての姿勢も、領土問題に関する日本政府と類似の傾向があるのではないか?
米国でのデータ・ガバナンスに関する歴史を振り返ってみよう。1990年後半にデータ・ウェアハウスが普及しその効果が確認された結果、データ統合の機運が高まり、2000年頃より多くの先進企業においてその必要性が理解されていった。そこではETL/EAIツールの延長線上に、CDI(Customer Data Integration:顧客データ統合)の必要性が強調された。しかし、データ統合の対象は顧客系の他に、製品系(PIM:Product Information Management:製品情報管理)、営業系、マーケティング系、財務・経理系など多様に存在するため、総称してMDMの概念規定に統合化され、導入が一気に加速した。
MDMの導入に際しては当然、複数部門間で横断的な管理が欠かせないため、データ・オーナーシップの管理が不可避の課題として浮上する。その結果、データ・オーナーシップの取り合いや擦り付け合いが発生し、同時に各データベース間のデータ齟齬の問題が多発し、データ品質管理が深刻な問題となって表面化することとなった。特にデータ鮮度の管理は極めて厄介な問題であったし、現在においても部分的な解はあるが、全社規模での最適解の合意は非常に難しい。
上述の経緯から、データ・ガバナンスの必要性が極めて重要な課題として認識されるようになり、各社で導入戦略・戦術が真剣に検討されていった。試行錯誤を繰り返してその方法論は一応使用にたえる状態まで成熟し、多くの企業でMDMの導入効果が実証されることとなった。基本は、手段・ツールから入るのではなく、インフラの整備からの着手であり、加えて、業務部門との合意形成と効率・効果に関する社内的なアピールも欠かせない。
データ・ガバナンスの実施状況について、JDMCが2012年1月~2月に行ったアンケート調査(母数259件/複数回答)では、「実施していない」とした回答がトップで(回答数86社)、以下、「プロジェクト(システム)ごとに実施しているが、 管理・統制はできていない」(同84社)、「プロジェクト(システム)ごとに実施し、管理・統制している」(同42社)、「全社規模で実施し管理・統制している」(同26社)の順となった。要するに、1割の企業ではしっかりなされているが、残りの8割以上は不十分な状態ということだ。なお「部門間を超えたマスターデータ管理を担える適切な人材がいない」は、全体の56%となる146社が回答している。
欧米先進企業により示唆に富んだデータ・ガバナンスとMDMの事例が広く公開され、諸課題と解決策が明示されているにもかかわらず、データ・ガバナンスの国内での導入は未だに極めて限定的で、お寒い状態と言わざるをえない。もし読者のスケジュールの都合がつくのであれば、筆者が毎年参加している「MDM & データ・ガバナンス・サミット」(毎秋ニューヨークで開催。今秋の会期は10月14日~16日)への参加をお薦めしたい。本サミットでも一昨年辺りから、データ・ガバナンスの話題が中核的になりつつあり、先進事例から得られるすぐれた知見は、自社におけるデータ・ガバナンスおよびMDMの効果的な導入・活用につながるものだからだ。
2012/9/20
─ 伊阪哲雄氏プロフィール ──────────────────────
データマネジメントを専門とするITコンサルタント。1970年、大手コンピュータメーカーに入社して以来、一貫してデータモデリング/設計やデータクレンジング、データ統合、マスターデータ管理、データ・ガバナンス組織、人材育成に関わる支援を行ってきた。特に通信業界、医薬業界や、金融業界のデータマネジメントに詳しい。米国など海外の事情にも通じ、例えば米MDM Instituteが主催するカンファレンスには毎年欠かさず参加している。
e-mail: isaka@isaka.com