テーマ3「海外先進事例に学ぶ行政データマネジメント研究会」より

2014-05-01

『みんなで作る地図「オープンストリートマップ」と「オープンデータ」』

講師:東修作(Open Street Map Foundation Japan事務局長/
Open Knowledge Foundation Japan/合同会社Georepublic Japan)
日時:2013 年11 月6 日(水)18:30~21:00
場所:日本ユニシスエクセリューションズ(本社:新宿若松町)

 
 
Wheelmapの開発に関わったきっかけ
 
講師としてお招きした東修作(ひがし しゅうさく)氏は、地理空間情報系のソフトウェア開発企業(Georepublic Japan)に勤務するかたわら、個人でオープンストリートマップ(OpenStreetMap。以下、OSM)やオープンデータの普及活動に取り組んできた。

かねてより東氏はバリアフリーやユニバーサルデザインに関心を持っていたが、それはご自身の娘さんが車椅子の利用者であることに結びついている。何か力になれることはないかと動く中でオープンデータに触れ、OSMを知るに至ったという。

OSMを使ったWebアプリケーションには様々あるが、その一つに「車椅子マップ(Wheelmap)」というものがある。以下のサイトで見ることができる。
 

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◆車椅子利用者向けWheelmap
http://jp.wheelmap.org/
Wheelmapは、車椅子で通行可能かどうかの状況を、OSM上にわかりやすくマークで示した地図のことである。
 
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◆Wheelmapの画面(JR東京駅周辺)
 

東氏は、このWheelmap開発者であるドイツ・ベルリン在住のラウル・クラウトハウゼン氏に直接会い、刺激を受けたという。自ら障害を持つラウル氏は、ドイツのベルリンを起点にこのプロジェクトを始めた。東氏もラウル氏と交流を続けながら、Wheelmapの拡充に寄与している。

このWheelmapのベースのもとになっている地図OSMは、2004年に英国で始まったオープンソースプロジェクトだ。当時、英国では政府の作った地図データを自由に一般の人々が利用することはできなかったという。しかし、米国に目を向けるとすでに政府の作った地図データは一般の人々が自由に使えるという状況にあった。それを知ったスティーブ・コースト氏(当時、大学生)が「みんなで自由に使える地図を自分たちで作ろう」と呼びかけた。いわば「地図のWiki」という考え方がベースにあった。

ちなみに、Google社が提供するGoogle Mapsのサービス開始は2005年である。OSMのほうが1年先行して始まったことになる。現在、OSMの制作(マッピング)や利用を行う有志の参加者(登録ユーザー数)は世界で約135万人を数える。

この中には日本人の参加者、約3,700人(2013/9)が含まれている。その中の有志が集まって日本国内に2010年12月に設立されたのが、一般社団法人オープンストリートマップ・ファウンデーション・ジャパンだ。国内におけるOSMの普及に関わる支援を目的としている。事務局長は東氏が務め、2013年11月現在で35名が所属している。

 

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※最新情報 http://www.openstreetmap.org/stats/data_stats.html
OpenStreetMap stats report run at 2014-03-18 00:00:14 +0000
Number of users 1553421
Number of uploaded GPS points 3850779223
Number of nodes 2248040823
Number of ways 222191706
Number of relations 2438667
 
 
OSMのライセンス体系
 
OSMにおける「地理データ」のライセンスは「ODbL」である。ODbLは、Open Data Commons という組織が制定したもので、ライセンスには次の要件がある。

・表示(作者の名前を表示してね)
・継承(派生DBにも同じライセンスを適用してね)
・Keep Open(ずっとオープンで)

これらの条件に従う限り、営利・非営利問わず、自由に使ってよい、とい「許可証」がODbLである。ところでOSMは、「地図(絵柄)」「ソフトウェア」「OSM地理データベース(データ)」の要素で構成される。それぞれライセンスは、CC BY-SA等、GPL等、ODbL/DbCLに分かれている。それぞれ取り扱いは別物である。
ODbLは地図の絵柄ではなく、地理データベースに付されている。地図データベースに蓄えられる情報には、道路、地形、POI(Point Of Interest)、植生、電力線、禁煙/喫煙、車椅子利用可否などが含まれる。

 

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◆地図(絵柄)、ソフトウェア、データの関係

 
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◆OSMにおける地図(絵柄)、ソフトウェア、データのライセンシングはそれぞれ別物である

* ODbL : Open Data Commons Open Database License
http://opendatacommons.org/licenses/odbl/
* DbCL : Database Contents License
 
 
OpenStreetMapの描き方
 
OSMを作成する(データを投入する)には、いくつかの方法がある。
 
・GPSロガーを持って歩き、その軌跡を地図上でなぞり、道路とする
・宇宙衛星が撮影した画像を下絵にして道路や建造物などをなぞり描きする
・利用を許可された地理データを一括して取り込む(インポート)

 
OSMに投入するデータに、著作権のある他の地理データを無断でコピーしてはいけない。たとえば、GoogleMapsのデータを使う、といったのはルール違反だ。他方でプローブデータを自ら進んで提供しOSMの活動参画に積極的な態度をとる企業もある。日本の道路データについては、2~3年前にYahoo Japan!からOSM Japanに提供がなされ、マップ上にそのデータがインポートされた。後述するYahoo! ロコはそれを用いている。こうした企業の動きの背景にあるのは、GoogleがGoogleMapsをある一定水準以上で利用するヘビーユーザーに対して課金をし始めたことが一因と言われる。

GPSロガーを使って実際に道を歩いて元データを収集するには、土地勘や実地のフィールドデータが重要だ。被災地などでは地図上に道があっても、人や車が通行できなくなっている箇所もある。記録には調査ノートや写真を用いる。後でログをトレースし、マウス操作でGPSデータの上から道をつないでいく。衛星画像をトレースする場合は、マウス操作で道路や建物をなぞる。描画するためのレンダラーは、ブラウザ上から誰でも簡単に利用できる。

 

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◆GPSロガー、トラッカー

 
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◆調査ノート

 

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◆ログをトレース

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◆衛星画像をトレース
 
 

地図の使い方

 
OSMを利用して様々なアプリケーションサービスを作ることができる。先述のWheelmapはその一例である。OSMでは、地理データ(データベース)と地図を表示するレンダラーは完全に分離している。そのため、同一のデータベースからいろいろな地図を作ることができるようになっている。

アプリケーションの特長は、目的に沿って何かを地図上に可視化するツールである点だ。それによって様々なアクションにつなげやすいことがポイントとなっている。
 
 
【世界で提供されるOSMを活用したアプリケーションの例】

▼Yahoo! ロコ
http://maps.loco.yahoo.co.jp/maps

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▼ジオキャッシング(宝探しゲーム)
http://www.geocaching.com/map/beta/

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▼Mapquest
http://open.mapquest.jp/

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▼海図
http://www.freietonne.de/seekarte/

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▼foursquare
https://foursquare.com/

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▼ハイキング&サイクリング
http://hikebikemap.de/

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▼歴史
http://www.histosm.org/

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▼原子力発電所
http://www.leretourdelautruche.com/map/nuke/

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▼ヒッチハイク
http://hitchwiki.org/maps/

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▼スキー場
http://openpistemap.org/

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▼駐車場
http://parking.openstreetmap.de/

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▼大学
http://map.umd.edu/map/

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人命救助や災害支援での利用

2010年に発生したハイチ大地震。その直後からは、OSMを利用した震災救援活動が、世界中の有志、ボランティアの草の根的な活動で展開された。その作業の方法はこうだ。まずは、OSMエディタで震災後の高解像度衛星写真を取得する。具体的には、Geoeye(日本スペースイメージング株式会社)、DigitalGlobe(本社:米コロラド州ロングモント)、陸域観測技術衛星だいちJAXA/ALOSの衛星写真を参照し、OSM地図を作成した。

衛星からの情報の他、現地在住者がインターネットにアップする情報などを基礎データにして、救援隊を後方支援するため、地滑り場所、建物倒壊の状況、避難キャンプの情報などが有志の手により地図上にプロットされた。地図の変化を追っていくと、OSM上に被災したエリアの状況が時々刻々と詳しく描かれていく様子がうかがえる。

 

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ハイチ2010.1.6 (地震発生前)

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2010.1.13 (地震発生日)

 

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2010.1.20 (地震発生7日後)
 
 
一方、2013年10月、伊豆半島の沖合にある伊豆大島を襲った台風26号、27号の時も、ハイチ地震と同様のクライシスマッピングサイトが、同様にOSMを利用して立ち上げられた。東氏もまた、ハイチ地震の支援に関わった経験を生かし、サイトの開設や運営などにボランティアとして関わった。

 

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参加することで見えてくるオープンデータの価値

OSMは誰でもタダで使えるが、それはどういうビジネスモデルによって成り立っているのか。あるいは、オープンデータ一般について、ビジネスは成り立つのか。この問いはよく耳にするものである。誰でも利用できるOSMのようなマップ、およびそれを使ったアプリケーションは誰かが手を動かして作っている。それは自発的な活動の結果であり、その活動に対して金銭的な対価を得られるとは限らない。

しかし、こうしたマップやアプリケーションに対して小さくない需要があることは確かだ。

たとえば、車椅子の通れる道を知りたい。しかし、そのような情報を探しても世の中のどこにもない。であれば、自分で作ろう、という動機が生れ、同じように情報を求めている人達にその輪が広がっていく。人命救助や災害救援においても同じようなモチベーションが働いている。困った人に手を差し伸べる。ニーズがあるところでデータを役立てる。

このような活動に対する人々の関わり方は、多種多様だ。ITの知識や技術がバックグラウンドにあれば、サーバーやストレージのクラウドサービスを使った情報インフラを提供することができるだろう。OSSのCMS(コンテンツマネジメントシステム)をプラットフォームとして提供する人、その上で地図をレンダリングする人もいるだろう。技術に詳しくなくても、各種地理情報データベースをプロット(データを入力)する、現場の情報をSNSで発信する、使えるデータがどこにあるか教える、といった役割も欠かせない。寄付、という形で金銭的な支援を行う人、各種データおよびそこへリンクするAPIやWebサービスを無償で提供する企業、公的機関も存在する。

東氏は「オープンデータは何に役立つか、という議論がある。それを知りたいのであれば、(OSMのような)オープンデータを(無料で)利用する、というだけでなく、どのような形であれ、参加することが近道だ。そこから知見やアイディアが生まれる」と述べる。

オープンデータの取り組みは、その場ですぐに経済的な対価を得るための活動ではない。すぐにはビジネスにはならないかもしれないが、巡り巡って「暮らしやすい世の中」が作られる可能性がある。

 

事実に基づく意思決定を

オープンデータによる地域の可視化が、国・自治体の政策や議論の透明化につながることも大きな目的とされている。これは政府による汚職が大きい途上国で特に重要な役割を担う。バイアスのかかった大本営発表ではなく、淡々としたデータに裏付けられた事実(ファクト)に基づく、民主的かつ合理的な意思決定に寄与することになるからだ。

地図情報を、コミュニティによる自主的な活動ではなく、仮に行政機関など自治体が主導し、自治体単位で作るとどうなるか。たとえば、バリアフリーマップを地域別に作るとする。恐らく、それぞれの自治体が、サービスインフラ、プラットフォーム、人材などをそれぞれ集めるとなると、相当な予算や人手がかかるだろう。財政基盤の弱い、あるいは人口減少や高齢化に悩む自治体にとっては容易なことではない。また、せっかく大枚をはたいて作ったアウトプットもまた、地域間で互換性の低いものに終わる可能性がある。

データをPDFで保存したり、Excelで保存したり、形式一つとっても足並みがなかなか揃わない。自治体固有の習慣もある。作成、公開するデータの構造や品質、粒度(たとえば年齢構成の幅などの単位:リファレンスデータ)にもバラツキが生れるだろう。共用化、標準化した方が、トータルで見るとムダが小さいはずだ。そうした観点を持ちつつ、うまくオープンデータをビジネスと共存させることができないか、と東氏は模索している。

あらためて、オープンデータを活用したボランティアベースの活動には永続性があるのか、一過性のムーブメントに過ぎないのではないのか、という懸念があるのは否定できない。ただ、その問いに対して、東氏は逆にこう尋ねる。「2004年に始まったOSMの活動がなぜ、いまなお、続いているのでしょう」。

自発的に誕生したコミュニティの活動がいつまで続くか。それは誰にもわからない。とはいえ、それがなぜ続くのか、を理解するには、東氏が指摘するように、活動に自ら参加することがカギになるだろう。
東氏は、「あなたも世界を変えられます。オープンデータの取り組みを楽しんでください」と述べて講演を締めくくった。
 
 
【脚注】

※)GPL(General Public License)
http://e-words.jp/w/GPL.htmlより転載
FSF(Free Software Foundation)の理念に基づいて明文化されたソフトウェアライセンス体系。主にGNUプロジェクトで開発されたソフトウェアや、その派生物などに適用されている。ソースコードの公開を原則とし、使用者に対してソースコードを含めた再配布や改変の自由を認めている。また、再配布や改変の自由を妨げる行為を禁じている。

※)CC(クリエティブ・コモンズ)について(Wikipediaより)

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これらのうち、「改変禁止」と「継承」は同時に採用できない。またすべてを採用しないことはできず、2.0以降のバージョンでは「表示」を採用することが必須条件となる。従って、実際にあり得る組み合わせは次の6通りで、コピーライト(法律で定められている全ての権利の保持)からパブリックドメイン(すべての権利の放棄)の間に位置する、強さの異なる6つのライセンスを用意している。
 
表示(CC BY)
表示-改変禁止(CC BY-ND)
表示-継承(CC BY-SA)
表示-非営利(CC BY-NC)
表示-非営利-改変禁止(CC BY-NC-ND)
表示-非営利-継承(CC BY-NC-SA)

 

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ライセンスのスペクトラム。一番左がコピーライト(法律で定められている全ての権利の保持)。一番右がパブリックドメイン(すべての権利の放棄)。クリエイティブ・コモンズは、この両者の間で、6段階の強さの異なるライセンスを用意している。左側ほど権利主張の範囲が大きく、利用時の制限も大きくなる。右側ほど権利主張の範囲が狭く、利用の制限も小さい。

※)Open Knowledge Foundation (OKF)
OKFは「政府保有データをはじめとする多様なデータの生成・公開・利用を支援する。データの活用を通じて人の行動やシステムの挙動が、より洗練され事実に基づいたものとなり、経済、人々の生活、民主主義、学術研究などの質が向上した社会を実現する」ことを目的としているグローバルなコミュニティだ。東氏は、OSMのライセンスをCC BY-SAからODbLに切り替えたことが縁となり、OKFの活動を知ったという。現在、Open Knowledge Foundation Japan(OKFJ)の事務局長を務めている。OKFJでの活動は、オープンデータの認知と普及、著作権やライセンスまわりの整理、コミュニティ活動との連携、オープンデータを社会的課題の解決に活用することなどだという。

欧米を中心に世界的にオープンデータが注目、推進される中で、日本でも、2012年7月4日、政府のIT戦略本部は「電子行政オープンデータ戦略」を発表し、経産省を中心に新産業創出や地域の活性化のために注目されている。福井県鯖江市、千葉県千葉市など自治体でもこの動きが出始めている。

なお、G8が参加しまとめたオープンデータ憲章に基づく活動の成果を2014年6月に各国は示す必要がある。
 

※)オープンデータ憲章
(外務省HPより抜粋 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/page23_000044.html )

世界は,データや情報を駆使した技術や社会メディアにより促進された国際的な動きの加速を目の当たりにしている。これは,より説明可能で,効率的且つ責任のある実効的な政府やビジネスを構築し,そして経済成長を促す大きな可能性をもたらす。

オープンデータは,この世界的な動きの中心に位置する。 データへのアクセスは,人や組織が生活を改善し,国内及び国家間の情報の流れを改善するための視点やイノベーションを進化させていく。政府及びビジネスは,幅広い範囲のデータを収集するものの,人々が利用しやすい形で必ずしも共有していない。

これは,失われた機会である。 人々は,情報やサービスを,利便性をもって,電子的に入手できることを期待しており,政府情報もその一つ。また,オープンデータは,自国の天然資源がどのように使われ,採取産業の収益が使用され,土地がどのように取引され,また利用されているかといった認識を向上させる。これらは,説明責任や良きガバナンスを促進させ,人々の議論を促進し,汚職への闘いを支援する。また,G8の開発援助における透明性のあるデータは,説明責任の点から不可欠である。

政府のデータへのアクセスを提供することは,個人,メディア,市民社会及びビジネス界に,保健,教育,安全,環境保護やガバナンスといった公共サービスを,より良く行わせるための機会を与えることになる。オープンデータは,以下によってこれらを行うことができる。

公金の使途の開示により,更なる効率的な使用を動機付ける

人々がサービスやその水準についての詳細な情報の入手を可能にする

無料の政府データは,人々がより快適な現代生活を送るための手段や製品を作るために活用することが出来,ひいては,民間部門での改革のための触媒となり,新規の市場,ビジネス及び雇用を創出することを支援する。我々は,オープンデータが,イノベーションと繁栄を可能にし,また,市民のニーズに合致した,強固かつ相互に繋がった社会を構築していくための大きな可能性をもった未開発の資源であることに合意する。

そのため,我々は,以下の原則に合意する。
 
・原則としてのオープンデータ
・質と量
・すべての者が利用できる
・改善したガバナンスのためのデータの公表
・イノベーションのためのデータの公表
 
我々は,それぞれの国内の政治的・法的枠組みの中で取り組みつつ,技術的なベストプラクティスや国内行動計画に設定された時間軸に従って,これらの原則を履行していく。G8各国は,年末までに,この原則を履行するための活動計画を策定し,2014年の次回会合で,進ちょく評価を行う。

以上

(まとめ/構成・合同会社エクリュ 柏崎吉一)

 



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