テーマ5「DM実践勉強会」データの利活用概説(6)【最終回】失われた20年:日本企業を襲った破壊的イノベーションとデータ利活用

JDMCテーマ5「DM実践勉強会」リーダ 清水孝光


 
前回は、1960~1980年代の日本企業の海外雄飛を、財務データの利活用の視点から損益分岐点分析を主眼に記しました。今回は、なぜ、日本企業が1980年代の絶頂期をさらなる成長に結びつけられず落魄し、「失われた20年」を迎えてしまったのかを、破壊的イノベーションとデータ利活用の視点から確認することで、「データ利活用概説」の最終回とします。まず、これまでの内容を振り返ります。

 

■第1次大戦~1980年代「Japan as NO1」までデータ利活用の振り返り

本連載の眼目は、「データの利活用」は、コンピュータ誕生以前の遙か昔から行われていることを明確にし、軍事理論・経営戦略フレームワーク・マーケティング理論などから「データ利活用」の具体的なノウハウを紹介することです。

そのために、この連載では、統計学に基づいたデータ利活用として、第1次世界大戦の航空戦の分析から産み出されたランチェスター戦略から稿を起こした訳です。コンピュータなど無かった時代から、統計学的なデータ利活用を軍事利用する萌芽があったからです。勿論、データの利活用は、今から二千五百年も昔の『孫子の兵法』でも重視されていますが、話が壮大になりすぎるので、今回は、取り敢えず約百年前から始めています。

第二次世界大戦では、米軍が軍事戦略理論として、ランチェスター理論を成熟させて、米軍の勝利に多大な貢献をしました。米軍は、『強者の戦略』、すなわち、ランチェスターの第2法則によって兵力3倍以上で戦えば、圧勝できるという「3倍則」を原則に、数学者を動員してOR(作戦研究)を発展させ、兵站(ロジスティクス)は勿論、兵器体系等も網羅した国家総動員の軍事戦略によって、(日本人としての筆者にとっては非常に悔しいことに)日本軍に圧勝しました。

敗戦後、焦土と化した日本でしたが、私たちの先達は日本復興に立ち上がります。日本人は、外来文化・ノウハウを吸収し醸成して独自化するという、古来の伝統・文化で培われた驚くべき強みを発揮します。品質管理の分野では、PDCAサイクルをはじめとして、「QC七つ道具」等による巧みなデータ利活用を、「現場主導のカイゼン・サイクル」に昇華させます。そして、科学的手法の一つとして日本に紹介されたランチェスター理論は、日本企業の販売力強化に応用され海外企業の心胆を寒からしめることになります。

ランチェスター経営戦略では、市場参入時の「弱者の戦略」を経て、ある市場のトップ企業として「強者の戦略」が可能になるマーケットシェア26.1%を目指すなど、具体的な指標を提供し「シェア至上主義」を産み出します。海外雄飛した日本企業の基本戦略は、「アンゾフの成長ベクトル」の「新市場開発戦略」をベースに、「マーケティングの4P(製品Product、価格Price、チャネルPlace、販売促進活動Promotion)」のうち、価格政策ではシェア獲得の「ペネトレーション(普及)政策」を採用します。当時の日本企業がどれ程強かったのかを確認するために、損益分岐点分析(BEP)に触れたのが前回です。

■落魄する日本の「失われた20年」と「イノベーションのジレンマ」

1980年代絶好調だった、日本企業。日本に太刀打ちできない米国では、貿易摩擦が勃発するほど、世界に甚大な影響を与えた日本企業の隆盛は、右円グラフの1994年フォーチュン「グローバル500社」の国別企業売上高百分率でみるように、米国すら凌駕し、世界に「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の輝きを誇示しているように見えました。しかし、90年代に「失われた20年」の時代に、日本企業は踏み込んでしまいます。日本政府の失政以外にも、貿易摩擦回避のための海外生産拠点の充実・海外現地での雇用の促進などが、国内投資の鈍化を招くなど様々な原因があったことでしょう。

この時期に、苦悶する日本企業の前に強力な競合先が誕生します。韓国企業もその一つです。1990年代までの韓国企業は、日本のビジネスモデルの模倣を繰り返す、三流企業でしかありませんでした。ところが、1997年の韓国の通貨危機をIMFに救済されて以降の韓国は、強権による財閥再編などの構造改革に成功します。現代自動車、サムソン電子など再生した韓国の有力企業は、日本企業の海外市場を低価格攻勢により蚕食していきます。

特に、家電は悲惨でした。古い記事ですが、週間東洋経済2015/2/16の記事に「どうなる?パナ、シャープ、東芝のテレビ事業」の右のグラフに韓国企業に圧倒される様子が良く表れていると感じます。

https://toyokeizai.net/articles/-/60674

低価格攻勢によって、主要市場を蚕食された場合(これを「ロー・エンド型破壊」と呼びます)に犯す典型的失敗は、収益性の高い高級品市場に逃げ出して、競争回避をすることです。収益性の低い市場から撤退し、コストを削減し、一時的な収益確保するためには極めて合理的なやり方ではあります。そして、日本の家電メーカは、ブランド力を維持している、国内市場に「引き籠もり」ます。やがて逃げ場を失えば、企業の存続は不可になり、例えば、家電の名門ャープは、2016年に台湾企業の鴻海社に買収されてしまいます。

 

一方で、新市場開拓の要になる先端技術製品については、どうだったでしょうか?例えば、日本の携帯電話は、世界最先端の機能・サービスを誇り、NHKの番組「COOL JAPAN~発掘!かっこいいニッポン~」の2010年2月2日放送で「携帯電話」が取り上げられる程でした。日本企業の独壇場だった、日本の携帯市場に2007年にiPhoneが上陸してから潮目が変わります。日本の通信会社のビジネスモデルは、iモードのようにインターネットサービスを回線契約に縛った 顧客の囲い込みによる収益確保でした。ところがiPhoneなどのスマートフォンは、PC同様のオープンなインターネットを提供する新機軸を打ち出すことで(これを「新市場型破壊」と呼びます)、日本の端末業界の勢力図を大きく塗り替え、日本メーカを圧倒することになります。

 

つまり、日本の「失われた20年」とは、グローバル市場の「ローエンド型破壊」にさらされて国内市場に逃避したあげくに、「新市場型の破壊」の追い討ちをかけられた「泣きっ面に蜂」の時代だったようです。何故そんな事態に陥ったのかというと、「イノベーションのジレンマ」の泰斗のクリステンセン教授は、著作でこう記しています。

「つきつめれば、どんな企業もやるべきことをやれば、自らの破壊を招くことになる。これがイノベーションのジレンマである。だがこれはイノベーションへの解の始まりでもある。」(『イノベーションへの解』第2章)

 

本記事の文脈では、「やるべきこと」とは「合理的なデータ利活用」のことです。ところが、この「合理的」というのが曲者で、正確には「ある前提条件下で合理的」なので、前提条件が変わって、「旧合理=現非合理」を続けてしまえば、自滅を招くのは当たり前のことになります。

敷衍すると、「データ利活用」を筆者は、2種類に大別しています。

第一は、正確に前提条件が認識できている場合のデータの利活用です。経営戦略・マーケティング理論・蓄積された業務ノウハウ等に基づいたデータの利活用で「やるべきことをやる」ことです。

第二は、前提条件の変化を察知し、正しく認識するためのデータの利活用。これが、「イノベーションへの解の始まり」となるデータの利活用です。後者のデータ利活用は本当に難しい。例え、見えていても、見たくないモノゴトを直視する必要があるからです。

 

■「DM実践勉強会」の今年のテーマ:「イノベーションのための現場主導の組織力強化戦略」

筆者が主催するJDMCテーマ5「DM実践勉強会」は、今年度で5周年を迎えました。4年間は、イノベーションのトップダウンアプローチ・位置取り戦略でのデータマネージメント(=「やるべきことをやる」ためのデータマネージメント)を主眼にしてきましたが、今年のテーマは、「イノベーションのための現場主導の組織力強化戦略」で、業務効率化に加えて、「イノベーションへの解の始まり」となるデータマネージメントにも力点を置きたいと思います。以下、このテーマにした理由を簡単に紹介します。

 

まず、イノベーション・改革とは何かですが、歴史作家の塩野七生の「ローマから日本が見える」からイノベーションの定義を確認しましょう。塩野七生が畢生の大作「ローマ人の物語」の執筆途中に記したエッセーが「ローマから日本が見える」です。「第七章 創造的天才 カエサル」で、塩野は、「真の改革にとは再構築である」として次のように綴っています。

 

「では、カエサルが終身独裁官に就任することで行おうとした改革とはなんであったか。

ともすれば改革とは古い殻を脱ぎ捨てて、新しい制度を起こすことだと思われがちです。

しかし、真の改革とは結局のところ、リストラクチャリング、つまり再構築をすることであり、カエサルが行おうとしたのも、それに他なりませんでした。

 どんな民族であろうと、どんな組織であろうと、自分たちの体質にまったくないものを外部から持ってきて移植してもうまくいくはずはない。たとえ一時は劇的な成功を収めたとしても、土壌に合わない改革では定着はまずもってむずかしい。

 したがって、改革とはまず自分たちが持っている資質や特質の、どれを生かし、どれを捨てて組み合わせていくかという再構築の形を取るしかないのです。」(「ローマから日本が見える」塩野七生著 より)

そして、日本企業にとって、生かすべき資質や特質は、「現場力の強さ」だと、筆者は考えています。そのため、「現場主導の組織力強化戦略」を今年の主テーマに取り上げました。日本の強みについては、勉強会の講義の産業アーキテクチャー論の解説時に触れていきます。また、ボトムアップのデータマネージメントに、日本の「モノ造りノウハウ」を応用していることも「現場力」を取り上げた理由の一つです。

右図が、「現場主導の組織力強化戦略」の全体サイクルになります。組織力強化戦略をマンダラ・チャートにデータ流カイゼン・マップとして落とし込み、カイゼン・サイクルを回していきます。

 

「データの利活用概説」は、今回で最終回とします。次回以降は、データマネージメント概説、イノベーション概説等の記事を、勉強会の公開記事としてアップしていきます。

以上

 

※JDMCテーマ5 『DM実践勉強会』リーダ 清水孝光
清水技術士・診断士事務所代表
技術士(情報工学部門 専門とする事項:データベースシステムの設計と構築)
中小企業診断士、ITコーディネータ

 

健康経営エキスパートアドバイザー
日本エニアグラム学会認定ファシリテーター
ヨガ・インストラクター(YogaWorks RYT200)
ピラティス・インストラクター(BASI MAT)