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JDMC「データマネジメント2013」 ユーザーセッション レポート特集

2013 年3月13日、東京目黒雅叙園にて開催の「データマネジメント2013http://www.seminar-reg.jp/jdmc/dm2013/)」のユーザセッションからいくつかをご紹介します。

 

Contents


グローバル事業展開を支える
データマネジメントを含めたIT全体最適の取り組み

日本たばこ産業株式会社
IT部長
引地 久之 氏

ベンダーありきを脱し、ビジネスを支えるITのあるべき姿を追求

経営を取り巻く環境の大きな変化を受けて、経営変革に取り組み続ける日本たばこ産業(JT)。国内のたばこ事業が年々厳しさを増していることから、M&Aなどによるたばこ事業の海外展開を加速したJTは、同時に、たばこ以外の医薬・飲料加工食品事業を強化してビジネスの多角化も推し進めてきた。

そうした中で、2011年3月に発生した東日本大震災は、JTに深刻な課題を突きつけた。

「国内たばこ工場などの被災により、主力銘柄の生産力が軒並み低下し、海外ブランドにシェアを奪われるという窮地に立たされたのです」と引地氏は振り返る。

このとき喫緊の課題として浮かび上がったのが、バリューチェーンのグローバル化である。主力事業の危機を脱するべく、海外拠点も含めたインフラの最適化による、データの統合・標準化を目指すという大がかりなプロジェクトがスタートした。

このプロジェクトにおいてJTは、データを活用した戦略的ビジネスの推進を一貫して追求したという。

「海外拠点間の販売・生産・在庫などの情報をリアルタイムに連携させる、バリューチェーンの強化を図ることで、不測の事態が生じても代替生産などで対応が図ることが可能になります。さらに、データを可視化することで事業の客観評価が容易になり、為替変動や原材料価格の変動リスクなどに対する、適正な経営判断を支援することができます」(引地氏)。

プロジェクトではまず、EA(Enterprise Architecture)によるフレームワークを活用した全体最適シナリオを策定した。それを踏まえてデータセンターの仮想化を実行。その結果として、500台ものサーバが150台に削減され、インフラのシェイプアップを実現している。

「成功のポイントは、徹底して“ビジネスのためのIT”を追求したことです。初めから“ベンダーありき”ではなく、IT部門主導で改革に取り組んできました。その結果、やるべきことが明確になり、地に足の着いたプロジェクトを展開できました」と引地氏は述べる。

なお、人事情報が紐づけられて刷新されたグローバル共通基盤は、Microsoft Lyncを活用したシームレスなユニファイドコミュニケーション環境の導入に活かされた。これでワークスタイル変革にも弾みがついたという。

「今後は、ハイブリッドクラウド化も視野に入れたインフラの最適化をさらに加速していきます」と引地氏。グローバル・バリューチェーンの全体最適をより強力に推し進めて、経営基盤を確固たるものにしていく考えを示した。

(まとめ:橋本雄一)


マーケティングとITの融合によるデータ分析とその活用事例について

遠州鉄道株式会社
営業推進部
営業推進部長
宮田 洋 氏

ポイントカードの分析と効果的な販促施策により、収益拡大を実現

浜松市を中心とした静岡県西部地方を基盤にする遠州鉄道グループは、鉄道・バス・タクシーなどの交通事業、百貨店・スーパーなどの流通事業、さらに旅行・ホテル、住宅・不動産など幅広い事業を展開し、地域とともに成長を続ける。

その成長を支える“キラーツール”が、グループ横断的に利用できる共通ポイントカード「えんてつカード」である。「発行枚数は商圏人口の4割に相当する48万枚。実質カード稼働率は70%で、日々の生活において利用いただいています」と宮田氏は説明。年間取引ログは約3000万件に達する。

えんてつカードの事業を統括する遠州鉄道・営業推進部は、マーケティング・チームとIT戦略チームが一体となってカードの利用状況を分析している。それにあたっては「セグメントを設定してのアプローチ」「テストマーケティングの実施」「目標やノルマは禁止し、期待値に統一する」などの運用を徹底。社内資格制度を創設し、データベースを理解できる人材の育成にも積極的に取り組み、ITによるデータ活用をグループ内に浸透させることに努めている。

同グループの取り組みに触れた後、宮田氏は、えんてつカードを利用した様々な施策の成果について紹介した。

その1つが、新規オープンするガソリンスタンド(SS)への顧客アプローチである。宮田氏によれば、従来は遠鉄ストアに隣接する遠鉄SSでも利用率は15%程度にとどまっていたという。そこで、両方を利用するとポイント付与率がアップすることをチラシやメール、店内放送で告知。その結果、利用率は大幅に向上し77%に達したという。「顧客データを基にエリアやセグメントの詳細な分析を行ったことが、高い成果につながりました」と宮田氏は話す。

えんてつカードを前面に出したクロスセル・プロモーションも注目に値する。具体的には、グループが運営するストア、百貨店、電車・バス・タクシーなどの利用や目玉商品の購入により、ポイント付与率をアップするというもの。「その結果、2012年の実績で、3拠点利用者は前年比116%、4拠点利用者は同122%、5拠点以上利用者も同161%を達成。売上拡大に加え、新規顧客獲得にも大きく貢献しています」と宮田氏は力を込める。

また、宮田氏らは大量の購買データを解析し、関連性の強い購入商品の組み合わせを発見することで、最適な商品の提案、売り場の配置やレイアウトの改善に役立てるビッグデータ活用の試みにも着手し、継続的に取り組んでいる。

そのほか、ホテルレストランにおける顧客の固定化と新規顧客の獲得、タクシーでの「迎車」需要の掘り起こし、旅行会社における傾向分析と顧客固定化など、様々な施策にえんてつカードを活用し、いずれも期待以上の成果を上げているという。

「データを活用したマーケティングで重要なのは、顧客の属性や消費履歴などを分析し、セグメント設定をしっかり行うこと。さらに何を目的とし、どのような施策が有効かを関係者が綿密に練り上げることが大切です」と宮田氏。そのための手法として、宮田氏は同グループが実践する、マーケティング・チームとIT戦略チームが一体化した活動の有効性を強調した。

(まとめ:橋本雄一)


グローバル企業における情報の重要性とデータを巡るシステムアーキテクチャ

ノバルティス ファーマ株式会社
情報システム事業部 グローバル情報システム推進部
生産情報システムグループ グループマネージャー
馬場 正弥 氏

データの流れを見せて、ユーザーの理解を得ることで「グローカリゼーション」を推進

医薬品の開発、輸入、製造、販売を行うノバルティス ファーマは、全世界に12万4000名の従業員を擁し、140カ国以上で製品を販売するグローバル企業だ。世界各地の生産拠点を結ぶサプライチェーン体制を整え、分業化された製剤や包装といった各生産業務プロセスを巧みに連携している。国をまたがるプロセスを支えるITシステムについては、開発から運用までグローバルレベルでの標準化を推進している。全生産サイトで利用されるコアシステムを開発するのは、スイス・バーゼルの本社で、生産ラインの生成される情報を可視化するために、SAP製品を活用している。

「世界各地の生産サイトを統括する各ITヘッドは、グローバルで標準化されたアプリケーションアーキテクチャとの比較、他の生産サイトとのベンチマーキングを通じて、担当する生産サイトのアプリケーションの成熟度を評価し、ギャップ分析を行います。この活動を踏まえて、ITプロジェクトの長期計画やロードマップを策定しています」と馬場氏は説明した。

しかし、ITプロジェクトの完了後に期待したビジネス価値が得られない場合も、もちろんある。その際は、導入したITソリューションを利用するビジネスユーザーの観点でユーザービリティ評価を行い、問題点を洗い出すのだという。具体的には、情報をタイムリーに入手できているか/Officeツールなどを独自に使って標準プロセスにはないデータを新たに作成していないか/データを収集・変換・配信するテクノロジーが適切に機能しているか、といったことをユーザー視点から調査し、改善策を探るわけだ。

「グローバルレベルで標準化された新しいソリューションを各生産サイトに導入する場面では、現場のビジネスユーザーから既存業務の変更に対する否定的な反応を受けるケースがあります。現場の理解と賛同を得るために、各サイトのプロジェクトマネージャーは、DOA(Data Oriented Approach)の手法を活用しています」と馬場氏。その際に重要視されているのが、各業務プロセスで利用されるシステム画面や帳票から入力されたデータが、どのような条件によって、次に誰が受け取り、それが、いかなるビジネス上のベネフィットを生むのか、などデータの流れや開発意図を可視化していくこと。業務改革の理由がわかれば現場の理解を得やすくなるというわけだ。また、その過程で拾い上げた現場視点の気づきやアイデアは、本社側のコアシステム開発へフィードバックされていく。馬場氏によれば、ローカルサイトで培ってきたベストプラクティスは、他の生産サイトへと水平展開され、シナジー効果を生んでいるという。

「各地の生産サイトおよびスイス本社が互いに情報を共有・活用しています。この情報サイクルをしっかり回していくことが、標準化されたITソリューションの利用を促し、期待されるビジネス価値を生み出す『グローカリゼーション』の要諦です」と馬場氏は強調した。

(まとめ:柏崎吉一/エクリュ)


NoSQL DBによる単品(移動平均原価)管理システムの構築

株式会社スコア(オリンピック)
開発部 マネージャー
福本 尚利 氏

売上情報を迅速に把握し、顧客ニーズを捉えたタイムリーな仕入や在庫管理を実現

関東圏を中心に全国約70のホームセンター/スーパーマーケット店舗を構えるオリンピック。同社の情報システムにおける戦略策定や開発・運用管理を担うのが、福本氏の所属するスコアである。

“脱・ホスト”を掲げた2011年1月以降の基幹システム刷新プロジェクトの一環で、店舗別の単品在庫管理システムの新規開発に携わった福本氏だが、当時、オリンピック側からは以下のような難しいテーマを与えられていたという。

同社はそれまで、粗利計算は「売価還元法」に基づいて算出していたが、週次での正確な実績を把握するため、期中における仕入の都度、平均単価を再計算する「移動平均法」の導入を検討していた。ただし、移動平均法は再計算が数多く発生するため、総平均法に比べて、データベースのパフォーマンスが劣化する危惧があった。福本氏は次のように説明した。

「項目に計算式を埋め込めるExcelを使えば、移動平均単価は、月初在庫残高と当月売上、当月仕入といった項目間の計算からすぐに算出できます。一方、一般的なデータベースでは、再計算のために中間テーブルを別途用意しなければなりません。テーブルを作成し、集計するためのバッチ処理に長い時間がかかります。もちろん、取扱商品は1店舗で約30万アイテムあり、Excelでの代用は不可能です。この問題を解決することが非常に困難に思えました」

そんな中、福本氏らがビーコンITから提案されたのが、NoSQLでありながら超高速アクセス、トランザクション機構を備え、非常に高速な処理を特徴とするDBMS「ARTMAN」だ。同DBMSを使うと、項目間の演算は、Excelの埋め込み関数のように、その都度、参照関数によって瞬時にメモリー上で実行され、結果が別の項目に出力される。したがって、多数の実体テーブルを生成する一般的なDBMSに比べて、保持するデータ量が圧倒的に少ない。データ量の削減についてはほかにも、各レコードがハードディスクを無駄なく使える完全可変長形式であることも寄与している。また、テーブル間の結合(JOIN)処理の不使用によるSQLの短縮化、埋め込み関数によるロジック側コーディング量の削減などによって、移動平均法を用いた店舗別単品管理システムを、実質2カ月間、3名で開発できたという。

なお、APサーバーおよびDBサーバーの運用には、比較的安価なIAサーバーを利用している。取引明細は1カ月仕入500万件、売上1000万件だが、処理レスポンスは快適で、1カ月間で使用するデータベース領域は約19.5GBに留まっていると福本氏は説明した。

「データベースのチューニングを行うことで、『約70店舗全店の約4000アイテムの加工食品を、指定された売上期間で集計して、在庫回転日数順に表示する」というランキング表示も、わずか10秒ほどで実行できるようになりました」と福本氏。顧客ニーズを捉えたタイムリーな仕入、売上と在庫のバランスを見ながらの店舗間移動などの迅速な意思決定を支援する新システムが、オリンピックの競争力向上に貢献していることがうかがえた。

(まとめ:柏崎吉一/エクリュ)


最注目のキーワード

 「データサイエンス」の現状・課題・事例

iAnalysis合同会社
代表・最高解析責任者
倉橋 一成 氏

ゴールを定めて仮説検証を繰り返すことで、データ分析の成果を得る

iAnalysisはデータ分析のコンサルティング、データマイニングによる経営改善などをサポートするデータサイエンティスト集団である。同社の代表であり、最高解析責任者も務める倉橋氏は、「データサイエンスとは、データから現状を分析し、仮説の発見・検証、さらにビジネスの最適化や予測モデルの構築につなげていく価値創出の取り組みを指します。1年ほど前から、検索キーワードに用いられる頻度が急増し、注目を集めています」と述べ、知見・経験から導き出された、データサイエンスに取り組む際のポイントを紹介した。

まず考えなければならないのが「効果的な分析プロジェクトの進め方」である。「最も大切なのはデータ分析をして何をしたいのか、ゴールを決めること。その上で企画、目的設定、仮説作りなどに取り組むべきです」(倉橋氏)。

データがあるからとりあえず分析してみるというスタンスでは、分析結果への解釈が曖昧になり、十分な成果につながらないと倉橋氏は指摘。iAnalysisでは分析プロセスにおいて、データの可視化やモデルの作成などを行い、効果を検証している。そのサイクルを繰り返すことで、ゴールに向けてデータ分析の精度を高めていくというアプローチだ。

倉橋氏は、以前に手がけた顧客Webサイト訪問者の性別予測の取り組みについて説明した。その顧客の目的は、ユーザー属性をもとに、ターゲットに対してより精度の高い広告を掲出することであり、iAnalysisは複数の手法を検証した後、検索履歴から推定する手法を採用した。「その結果、実際のユーザー属性との整合率が95%に達し、レコメンドや出稿の精度向上につながっています」(倉橋氏)。

分析を効率的に行うためには、きちんと目的に合った分析ツールやシステムを選定することが前提となる、と倉橋氏は指摘。その一例として、分散処理フレームワークの「Hadoop」や、「SPSS」「SAS」「R」といった実績の豊富な統計解析ツールなどが有効であると述べた。

データサイエンスの取り組みでは、人材の育成・確保も重要なテーマとなるのは言うまでもない。データサイエンティストにはエンジニアリングや数理統計のスキルに加えてビジネスのスキルが求められるが、それらを兼ね備えた人材はまだ少ないのが現状だ。

「社内で人材を育成する場合は、データを抽出し各種ソフトで加工・集計を行うスキルを有した『エンジニア』、次に、業務知識を踏まえ仮説を形成し統計分析を担当する『アナリスト』、そして、機械学習や統計学により高度なモデリングを実行できる『プロフェッショナル』へと段階を踏んで育成していくことが大切です」と倉橋氏。

こうした取り組みを支援すべく、現在、同社はデータサイエンティストに求められる要件スキルの標準化や企業内の人材育成などを推進するデータサイエンティスト協会(仮称)の設立準備を進めている。

最後に倉橋氏は企業内に分析文化を根付かせることの重要性について言及。そのためには組織編成から再考する必要があるという。「各部門内にデータ分析グループを置くのは好ましくありません。なぜなら、スキルやノウハウを全社で共有できないからです。異なる種類のデータを扱っていても、方法論やモデルの構築には共通する部分も多い。組織横断的なポジションに分析グループを配置し、効率よく分析を進められる体制を整備すべきです」と同氏は述べ、講演を締めくくった。

◎iAnalysis http://ianalysis.jp/

(まとめ:橋本雄一)


リクルートグループにおけるビッグデータへの取り組み

株式会社リクルートテクノロジーズ
ITソリューション部 ビッグデータグループ
グループマネジャー
菊地原 拓 氏

 
“三位一体”の協働でデータ活用を推進し、もたらされた4つのメリット
リクルートグループの事業運営をITの面からサポートするリクルートテクノロジーズは、ビッグデータ活用を積極的に推進し、マーケティングの改善やWebベースで提供する各種サービスの向上をサポートしている。今期だけで主要13事業に対し、176件のデータ利活用に取り組んでいるという。講演では、その中から注目すべき4つのメリットを紹介した。

1つ目は「KPI(重要業績評価指標)などの未来予測」への活用である。Webサイトへの広告出稿にあたり、投資に対して最大のKPIを達成する手法の算出に役立てている。その計算に利用されるキーテクノロジーの1つが、ロケットの軌道推定などに使われる状態空間モデルだ。

「これを使って過去の集客データから統計モデルを構築し、将来の集客予測を実施。一定コストでアクションの最大化をもたらす広告配分を算出しました。ある事業では期待通りの効果を上げつつ、コストを数億円削減し、集客予算の最適化を実現しています」と菊地原氏は強調する。

2つ目は「レコメンドの最適化」だ。講演では求人情報サイト「リクナビ」の事例が紹介された。具体的にはサイト訪問者の行動履歴をもとに、会員に向けて、お勧め企業一覧をレコメンドしたところ、7日間で合計1万8000件ものエントリーがあり、そのうち検索結果で表示された複数の企業に対し、同時にエントリーする一括エントリーが1万3410件も得られたという。

昨年4月からは登録者の属性に近いユーザーの行動をレコメンドする機能も追加した。「自分に近い属性の人が、どのような会社にエントリーしているかといった動向を把握できるようにしたことが応募件数の増加につながりました」(菊地原氏)。

3つ目は「レポート機能の強化」である。講演では、じゃらんリサーチセンターが中心となって取り組み、観光に関する定期刊行物「とーりまかし」に掲載された分析結果が紹介された。これは、夏に札幌エリアで1泊した人と連泊した人の行動を、宿泊履歴と携帯電話の位置情報から分析するというもの。「ユーザーごとの日中の周遊状況を可視化したことで、1泊した人と連泊した人の行動範囲の違いが明確になりました」と話す菊地原氏。じゃらんでは、これをもとに、日程に合わせた魅力的な観光施設の案内や新たな旅行プランの企画などに役立てる計画だという。

4つ目は「リアルタイム性の向上」。その事例として紹介されたのが、地域密着型の求人掲示板「みんなの求人板」(略称:みん求)の取り組みである。みん求は、アクセス元のIPアドレスから市区町村を判定し、居住地域の求人情報を提示する。

それに加え、バックヤードでは高速データ処理を特徴とするオープンソースの分散データベース「HBase」やその構築基盤フレームワークである「Hadoop」を活用。閲覧履歴をリアルタイムに処理し、スコア化している。スコアは閲覧履歴に応じて、リアルタイムに変化する。ユーザーがコンテンツを閲覧すればするほど、レコメンドの幅と深みが広がっていく仕組みだ。「ニーズにマッチした求人情報を、よりスピーディに提供することが可能です」と菊地原氏は語る。

そして、ビッグデータの活用には、体制面の整備も欠かせない。同社では数理統計などを用いる高度な分岐スキルを活かし具体的な解決案を提案する「コンサル型データアナリスト」、データ分析・活用のツールに関し深い知識・スキルを持つ「エンジニア型データアナリスト」の育成を推進。そこにマーケッターを加えた“三位一体”の取り組みでビッグデータ活用を推し進めている。

講演の最後に菊池原氏は来場者に向けて、「ビッグデータの活用で大切なことは、ビジネス目的を明確にすること。その上で技術は道具ととらえ“三位一体”の協働で、目的達成の方法論を考えることです」と、経験を踏まえたアドバイスを贈った。

(まとめ:橋本雄一)


最適地生産の実現に向けたHonda流データマネジメントの実践

本田技研工業株式会社
IT本部 本部長代行参事
有吉 和幸 氏

グローバル経営資源共有の仕組みを支えるデータマネジメント基盤

二輪車・四輪車、および、耕うん機など汎用製品の製造・販売事業を展開する本田技研工業。いずれも海外での生産・販売比率が非常に高く、特に二輪事業は生産・販売台数とも海外比率がほぼ99%に達している。

昨年の東日本大震災やタイの洪水は、ホンダのようなグローバルメーカーにとって、サプライチェーンの寸断による経営リスクをまさに浮き彫りにするものであった。危機的状況を受けて同社が取り組んだのが、「『最適地生産』による、新たなグローバルオペレーションの確立」(有吉氏)で、その過程では、基盤たるデータマネジメントがあらためて追求された。

有吉氏らが最初に取り組んだのが、“情報流”の見える化である。グローバルレベルで最適地生産を実現していくプロセスでは、物流・商流・金流がいきおい複雑になる。部品サプライヤー、部品製造、完成車組み立て、製品販売の場所がそれぞれ異なる地域に分散することがままあるからだ。「複雑な物流・商流・金流を支えるには、モノとカネの流れを支える情報流の見える化が欠かせません」と有吉氏はその必要性を訴えた。

しかし、その取り組みの中で、ホンダは新たな課題に直面する。それが「質の高いデータがない」という問題だ。例えば、四輪車の最適地生産による効果検証を行うには、その製造コストや部品コストの把握・比較が必須だ。しかし、拠点によってバラバラの製品/取引先コードを利用していたり、Excelファイルによる人的な集計作業を行っていたりするケースがあり、コスト構造を詳細に把握するのが困難だった。「次工程で必要なデータを人的作業によって対応しなければならず、シームレスな情報流の実現を阻む“壁”が存在したのです」(有吉氏)。

そこでホンダは、グローバルデータマネジメントを定義するフレームワークとして「DAMA DMBOK1」を採用。このフレームワークの下、グローバル対応のガバナンス確立目指し、併せてシステム構造改革とアーキテクチャの標準化も推し進めていった。そして、基盤となるデータセンターは日米に集約し、オープンシステムをベースに、自前データセンターと外部クラウドサービスを適材適所で使い分ける「Honda Hybrid Cloud」の計画が打ち出された。

一連の仕組みが実現されれば、コストを最適化しつつ、よりスピーディに高品質な製品を製造・供給できるような体制が整うことになる。「災害などでサプライチェーンに問題が発生した場合は、代替となる最適な供給地や生産地をただちに割り出せるようにすることで、事業リスクの極小化に大きく貢献できます」と有吉氏は期待を込める。データマネジメントに基づくグローバル最適オペレーションが、ホンダの多様な事業で真価を発揮するのはいよいよこれからのようだ。

(まとめ:橋本雄一)


ビッグデータがもたらす自動車会社のビジネス変革

日産自動車株式会社
ITインフラサービス部部長
兼ISアーキテクチャ部部長
木附 敏 氏

EVのProbeデータを活用した新サービスを次世代ビジネスの柱に

日産自動車の電気自動車(EV)「リーフ」の世界販売台数が2013年2月末時点で5万台を越えた。そのうち、オーナーの同意を得た車両については、車両に設置された各種センサーから発信される各種データが24時間、同社の運営するカーウイングスセンターに続々と流れ込んでくるという。データの種類には、位置・高度情報、総走行距離、総トリップ回数、最長走行距離、急速および普通充電利用回数、総充電量などがある。

これらのデータに基づいて同社では、各車両のオーナーおよびドライバーに、様々な情報をインターネット経由で提供している。例えば、乗車前はリモートからでも把握可能な充電状況や目的地までの到達可否案内、運転中にはナビに充電スポットの最新情報が、交通情報とあわせてリアルタイムにプッシュ配信される。

「リーフの車両走行状態やCAN(Controller Area Network)データのような車両制御状況などのProbeデータは、自動車会社ならではのビッグデータです。これらのデータを、Probe情報収集基盤を通じて収集・統合・分析し、お客様に役立つ情報へ加工して提供する。ドライブシーンにおけるさまざまな不安を解消することが、Probeデータに注目した大きな理由の一つです」と木附氏は説明する。

Probeデータ以外にも、ビッグデータと呼べるものがある。製造現場などで生成される生産データや技術情報といったデータ、販売情報や顧客の声(VoC:Voice of Customer)、入庫履歴などの顧客マネジメント情報といった、事業運営の過程で必然的に集まるデータ、さらに昨今はSNSなどインターネット上でのメッセージ、ショッピング情報といったライフサイクルログがある。

「構造化、非構造化データを問わず、社内のデータは飛躍的に増大しています。それらを最大限に生かして次なるビジネス成長の柱にしたい。我々情報システム部門は、ビッグデータのプロバイダーとして、社外のビジネスパートナーとの協業や新たなビジネス展開も視野に入れて動き始めています」(木附氏)。

すでに米国では、リーフの走行履歴がQC(急速充電器)の最適な設置場所の基礎データとして活用されている。また、保険会社のシステムと連携した、走行距離データに基づく保険商品/サービスの提案や開発、自動車に搭載されたバッテリーを家庭用蓄電池に再利用するHEMS(Home Energy Management System)の基礎データとしてもビッグデータが注目されている、と木附氏は新たなビジネスの拡がりを紹介した。

(まとめ:柏崎吉一/エクリュ)


主要管理コード統一による日立グループ連結経営の高度化

株式会社日立製作所
IT統括本部 IT戦略本部
本部長
芝 正孝 氏
 

~連結経営に必要不可欠なコード統一施策の知見を、今後の融合ビジネス拡大に活かす~

 「弊社の過去の経営改革活動の中にも、推進者の異動などが理由で短期で推進が停滞してしまったものがありました。今回ご紹介するグループ全体でのコード統一活動を核とする“情報共有プロジェクト”は、日立グループの連結経営強化の施策として2005年から取り組みを開始し息の長い活動になりました」と芝氏は振り返る。

日立グループでは、当初約40に括られる事業部門が独自のITガバナンス体制を構築していた。しかし、日立グループ連結経営の推進に向けたコーポレート・ガバナンス(企業統治)の新たな仕組みの構築の必要性に迫られたため、まず、日立グループITガバナンスモデルを定め、これに従い標準化活動を推進してきた。すなわち、共通ITインフラ、財務や人事などのバックオフィスシステム、個々の事業に特化した業務システムの3つのプラットフォーム層と、規則や基準を定めるITマネジメント層に区分し、標準化活動を推進してきた。

 日立グループは多様な事業を包含するため、個々の事業部門はその事業に特化した業務システムを持っている。このため、「各社毎で企業マスタを持っており、資材類別コードや取引先コード等もそれぞれ違っていたため、連結経営を推進する目的でコーポレート側でデータを集約するときに困難を極めました」と芝氏。

そこで、2006年より連結経営のための共通管理コードを定め、その展開を図った。これによりデータ集計作業の合理化・高速化が可能となり、結果として情報の鮮度・精度が保たれ、管理コスト削減にも寄与した。

「この経営改革活動を推進するにあたっては、副社長を委員長とする社長直下の委員会組織を設け、コード統合だけではなく経営プロセスそのものを変える、という強い意気込みをグループ全社に示しました」(芝氏)。

委員会活動の一環として、情報共有を実現するためのルール作りや、輸出管理、セキュリティ、内部統制、個人情報保護、教育、初期名寄せ作業の支援など、普段見落とされがちな事項についてもチームを作り、確実に実施した。

この結果、勘定科目コード統一による連結決算日程の短縮、企業コードや資材類別コードの統一による資材調達コストの削減、従業員コードを活用したグローバル人財管理などが可能となった。

「今後、日立がグローバルに社会イノベーション事業を展開し、お客様に価値あるソリューションを提供していくにあたっては、複数の事業部門、社外パートナーと協力した融合事業を推進することになります。今回ご紹介した「情報共有プロジェクト」の知見を活かし、今後の経営に貢献していきたいと思います」と芝氏は締めくくった。

(まとめ:柏崎吉一/エクリュ)


グローバル経営のための情報系システムとそのデータマネジメントの実践

カシオ計算機株式会社
業務開発部
情報戦略グループ
河野 浩 氏

世界主要拠点のデータを迅速に可視化するプロジェクト

1990年代後半、時計や電卓など豊富なプロダクトラインを持つカシオ計算機では、勘定科目や製品などのコード、会計や取引の基準、商物流などのプロセス、データ構造が事業部門ごとでバラバラだったため、次のような課題を抱えていた。

「在庫過多、意思決定の遅れ、直感に頼ったマネジメント。IT部門では維持運用に追われて上流まで手が回りませんでした」(河野氏)。そこで、在庫半減、月次会計5日以内をスローガンに、1999年4月、ERPのビッグバン導入を実施。各拠点に同一のERPパッケージを導入し、拠点間のデータ通信をEAIで標準化した。併せて、拠点間データ連携に不可欠な製品/部品コードも統一を図った。

基幹システム(ERP)の標準化は2006年頃にほぼ完成した一方、河野氏によれば、社内の情報活用が思うほど進まなかったという。

「複数のERP(データベース)が各拠点に散在していたため、従来はグループ会社のデータをExcelファイルで抜き出してもらったり、マージしたりする作業が発生し、意思決定のスピードや品質が低下していました」と河野氏。ERPと同様、情報系システムについても標準化が必要だったと説明した。

そこで2009年秋、同社は、より主体的な情報活用促進のため、グループ標準の情報活用基盤「CubiX」プロジェクトを構想し、システム構築の検討を開始した。CubiXは、最下層から順にERP、その複製DB、DWH、OLAP、BIという5層構造からなる。CubiXにより、マネジメント層は、各社の業務データを多次元分析し得られた結果を格納したキューブを用いて締め処理後時間をおかずにビジネス状況を確認できるようになった。監査作業もデータに基づいて行えるようになった。

また、戦略スタッフの仕事が資料の集計・作成から企画・立案へとシフトすることで、仕事の付加価値向上も図られている。加えて、メタデータの標準化により、勘定科目と管理軸を統一し、マネジメント層に向けて意思決定や分析に必要な評価指標を提供できるようになった。

ただし、海外売上比率のさらなる伸長を目指すカシオにおいては、24時間いつでも、より精緻にグローバル経営を可視化したいというニーズがこれまで以上に高まっている。システム運用にもノンストップ化が必要であるため、現状日本の要員だけで行っている運用の体制もグローバル化していかなければならない。河野氏は、「バッチ処理のリアルタイム化、メタデータのさらなる標準化による経営指標の見える化と共有化といった課題を一つずつ解決したい」と今後の挑戦にかける意気込みを窺わせた。

(まとめ:柏崎吉一/エクリュ)

◎関連記事
IT Leaders 特別企画「データマネジメント2013」
http://it.impressbm.co.jp/e/2013/04/30/4895
 

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