データマネジメント2021レポート

データマネジメント2021レポート(事務局 谷本一樹・遠藤秀則)

 

2021年3月4日、JDMCの年次カンファレンス「データマネジメント2021」が開催されました。10回目の開催となる本年度は、昨年に続き新型コロナウィルス感染拡大防止の観点から会場開催を中止し、ライブ中継での実施となりました。その模様をレポートします。

 

日本データマネジメント・コンソーシアム 栗島会長の主催者挨拶は次の通り「今回は10回目を迎えるカンファレンスとなりました。これまで会員の皆様、ご参集の皆様のご支援、誠にありがとうございました。今回は「データの可視化が現実と仮想をつなぐ」というテーマで開催させていただくことになりました。現実と仮想、リアルとバーチャル、まさにこれをつなぐことがデジタルであると思います。ただ昨今の状況では本当にこれがデジタルなのか、というものまでデジタルと言われているのが残念でもあります。印鑑レス、オンライン手続き、オンラインミーティングなど、これらはIT化であってデジタル化ではない。まさにリアルの世界とバーチャルの世界をつないでいく、これこそがデジタルと言えると考えています。そしてこのリアルとバーチャルをつなぐものはデータであり、データを活用しリアルな世界から様々なデータを集め、そしてそれをバーチャルの世界でシミュレーションあるいは分析し、リアルな世界に戻していく。これをリアルタイムにシームレスに行うことがデジタル化と考えています。そして、その先には今回の大きなテーマであるデジタルツインというものが見えてきます。リアルな世界そこにあるモノや人が双子でバーチャルの世界にもいる。これを活用することでリアルな場での課題、あるいはビジネスモデルを変えていく。これがまさにデジタル化、デジタルトランスフォーメーションであると考えています。本日はこういった観点からデータ活用から様々なビジネスモデルの変革に繋がる新しい取り組みについて様々な形でご紹介させていただきたい。こういった機会を設けさせていただくことは、JDMCとしても光栄であり大変嬉しく思っております。 是非今日1日長い時間ではございますが有効に活用していただきたいと思います。今回も昨年に引き続きオンラインで開催させていただくことになりました。残念ながら場所の共有化はできませんが、できるだけ生の配信に心がけることにより、生の時間を皆様と共有させていただければと考えております。今日のこの会が大変有意義な会になりますことを祈念いたしまして私の挨拶にかえさせていただきます。」

 

データマネジメント大賞授賞式

主催者挨拶に続いて、データマネジメントにおいて、他の模範となる活動を実践している企業・機関などの中から優秀なものに対して授与している表彰制度「データマネジメント大賞」の授賞式が執り行われた。受賞企業・団体は次の通り。

 

 

 

 

 

 

受賞企業

賞名 受賞企業名
大賞 東京海上ホールディングス株式会社
特別賞 株式会社jig.jp
データ統合賞 第一生命保険株式会社
先端技術活用賞  中日本高速道路株式会社
アナリティクス賞 株式会社ユーフォリア
アナリティクス賞 株式会社wash-plus
アナリティクス賞 東日本電信電話株式会社

JDMCエンジニアの会 SBIホールディングス 鍋倉さんのバイオリン生演奏のもとに授与式は進行した。この賞を通じ、様々なデータや情報のマネジメントに関する社会的認知を高め、企業・機関などでデータマネジメントを実践する人や組織の活性化を促進し、日本企業・組織の競争力強化へ寄与するものと JDMC では考えている。

今回のデータマネジメント2021では「データの可視化が現実と仮想をつなぐ」というテーマを様々視点で49件のご講演をいただいた。その中から、筆者が参加したいくつかの講演を紹介させていただく。

 

8:30~9:20 令和2年個人情報保護法改正、その解説と実務への影響
        西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士 福岡 真之介 氏

 

例年早朝開始にもかかわらず好評を得ているアーリーバードセッションでは、データマネジメントやデータ利活用に関する、いまさら聞けない基礎知識を紹介している。

その中で最新の話題をテーマとしていたのが今回聴講した「個人情報の取り扱い」に関するセッションだ。講師は西村あさひ法律事務所の福岡弁護士。

専門家の知見あふれる解説を聞けるのも、JDMCカンファランスの特徴だ。

今回の講演では、令和2年6月12日に改正され施行日も近づく個人情報保護法の改正内容を中心に講演いただいた。講演のなかででてきたキーワードとして「容易照合性」というものがある。これはまさに、データマネジメントの基本となるマスターデータ管理を正確に運用していくことが必須であると感じた。

今回の改正により、規制されるデータは増えることになるという。一方で、利用促進のための緩和と、適正な利用に向けた条件・罰則強化の両方がもりこまれ、現行の課題を踏まえた改正が行われているようである。

例えば、「仮名加工情報」というものが定義されている。「仮名加工情報」は、他の情報と照合しなければ特定の個人を識別することができないように加工して得られる個人の情報である。第三者提供は原則禁止のため自社内利用に限定されるものの、目的変更の制限や漏洩等の報告などの規制が不要になる。利用目的の変更に制限がないため、AIの学習用途などで自由が利くなどのメリットがあるが、第三者提供できないなどビジネス要件を勘案して「仮名加工情報」として扱うか判断する必要がでてくる。

また、「個人関連情報」については、実際に発生した事例を勘案し、従来提供元では個人情報に該当しないが提供先において照合することで個人情報になるようなケースに対応するため改訂されるなど、法律も実案件に対応し変わってくるため、アンテナ高く情報収集が必要となる。

ただし法律/規則が把握できていても自社のデータ管理の状況を把握できてないと、個人情報ではないとしていたデータが、自社の他データとの照合で個人情報の扱いになることもありうる。本講演を通じて、データマネジメントやマスターデータ管理の重要性がますます高くなってきていると感じた。

 

 

9:30~10:40 ”デジタルツイン”で実現する産業デジタル変革
        ~その具体像からアーキテクチャ、得られる効果まで~
        AkerBP  CEO  Karl Johnny Hersvik 氏

 

昨年は突然のコロナ禍で開催できなかった「JDMCデータ・マネジメント賞授賞式」のあと、本年度の基調講演1として、北欧の石油企業のAkerBP社CEOのKarl Johnny Hersvik 氏が登壇された。過去のJDMCカンファランスでも海外優秀事例の紹介のため何度か海外の方を招聘しており、同時通訳での講演を行っているが、今回はリモートということで字幕付きでの講演となり、まるでテレビ番組の特集のような充実した内容だった。

今回のタイトルにある”デジタルツイン”について、いままで言葉では理解できていたものの、具体的な部分がぼんやりとした印象であった。しかし、今回の北海で運営する石油掘削プラットフォームの“デジタルツイン”を理解することで、”デジタルツイン”がデータの蓄積から得られる情報の可視化だけでなく、リアルタイムに情報を得るための仕掛けであること、またそれを実現するための仕掛けが、過去JDMCの中で語られてきた、散在しかつサイロ化しているデータを集め、マスター管理によるデータの紐づけを行い、利活用できるデータを供給するデータ基盤により実現していることを知り、従来のJDMCの活動で得られる知識の延長で実現できるものであることに気づかされた。

講演で語られた、「デジタルツインを実現することをゴールに定めたのでなく、多くの企業で抱えている、データを活用できないという課題の解決が始まりであった」ということからも、デジタルツインが目新しい技術ではなく、従来のデータ利活用の延長線にある成功例の一形態ではないかと考えた。何か特別なことをしたわけでなく、多くの企業で抱えている課題から、その解決結果として構築したデータ基盤により得られたのがデジタルツインであったということである。

もちろんその実現のためには、多大な苦労があったことはインタビュー内容からも明白である。しかし、石油ガス会社として明確なビジョンをもち、そのビジョンに合わない既存システムにこだわるのでなく、ビジョンを実現できるテクノロジーを持つシステム構築が得意な企業と組み、作上るという手段により解決されている。

デジタルツインにより、データ来歴を理解できることでデータの信頼性を意識しなくてよくなり、また自由にデータを利用できようになっているのは、JDMCが目指す理想ではないだろうか。

今回の講演で最も印象に残った言葉は「基本的な項目に時間をかけること」。例えとして、多少のピース数のパズルであれば完成形を知らなくても作っていけるが、複雑なパズルでは完成形の絵を意識し、把握しておくことが必要との話をいただいた。完成形から、大まかな位置づけを行い、細部を詰めていくという基本的な手順をきちんと行うことが成功につながる。このためにも「成果をすぐにもとめるものでない」とのこと。理解はしているが、これがやはり難しいところだと思う。

 

11:40~12:20  データドリブン経営への挑戦 ~勘と思い込みからの脱却~
                         トラスコ中山株式会社 取締役 数見 篤氏

 

本講演は、公益社団法人企業情報化協会(通称:IT協会)が主催する、「2020年度IT賞」の受賞理由となった取組みを事例として紹介いただいた。その取組みも数施策というものでなく、「日本のモノづくりにお役に立ちたい」という考えのもと、ビジネスに直結する様々な取組みをされている。

トラスコ中山は、「日本最大の道具箱」として、35万点のプロツールを格納し物流を行っている。このなかで、購買先の仕入先とお客様である小売業を繋ぐために、デジタルと経営を緊密にして、データを駆使して経営資源を磨く施策を行っている。

施策では、よくある効率化のための「在庫を減らす」といった目的でなく、在庫を持つ意味として「どれだけ自分たちの在庫から出荷できたか」という「在庫ヒット率」を大切にされているというお話があった。これも「日本のモノづくりにお役に立ちたい」という思いからとのことであるが、この「在庫ヒット率」に基づき、在庫強化の取組みを実施しているという。

これに関連する施策の1つが「MROストッカー」だ。よく利用されるプロツールを、あらかじめお客様の現場に設置された棚に取揃えておき、利用した分だけ料金を請求するという仕掛けである。この棚の取揃えに何を配置するかがポイントとなるが、過去の蓄積データを活用し、予測精度をあげることで、物のオンデマンドを実現されている。

また、AI活用では最適な価格と納期を数秒で回答するAI見積「即答名人」を開発。蓄積されていた過去見積を活かし、見積回答を数秒(過去は数時間かかっていた)で返答する仕掛けを構築。見積回答の自動化で、社員の作業時間を削減、受注率も向上する。

その他施策も紹介されたが、ポイントとなるのは様々な施策を行う際、やっている施策が会社のKPIに繋がっていることをきちんと可視化することが重要であるとのこと。

このため組織として、みんなでやっていくことが大切であり、横と縦のつながりのなかで各部署にキーマンを配置し、かつ体制構築だけでなく定期的にミーティングを開催してコミュニケ―ケーションを確保することが大切であるとのお話があった、

コミュニケーション確保のためにも、各人のマインドセットの見直しが必要で、その施策として、1回/年で360度のメンバから評価をうけているとのこと。何のために仕事をしているか考え、「チャレンジャーたれ」という言葉で、講演を締めくくっていただいた。

 

13:20~14:10  拡大・深化するデジタル時代の中で、
「データ分析」から競争優位を勝ち取る方法
          合同会社タッチコア  代表  小西 一有 氏

 

基調講演2として、ITと経営がご専門の小西様より、競争優位を勝ち取るためのデータを活かすコツについて事例を交えてご講演いただいた。

データは21世紀の石油であり、経営資源である。この言葉が示す通り、データはとても貴重だが取得して保有するだけでは価値がない。資産とは異なるのである。もし高い精度でデータを分析・解析できたとしても、それだけでビジネス上の結果や競争優位が得られるわけでもないのだが、残念なことに、このことを誤解または認識せず、非常にたくさんの企業がデータを生かせていない現実がある。

では何が求められるか。答えはビジネスに結果を残すことを強く意識し、様々な場面で取得するデータを駆使して、見合ったプロセスを実直に実行することである。事例やエピソードを紹介しながら、データマネジメントを包含したビジネス・プロセス全体で競争優位を創出する方法について考えてみたい。

あなたの仕事の目的を考えてもらいたい。職種は様々だと思うが、目的といったらビジネスの成長に貢献することであると信じている。だとすると、あなたの仕事はビジネスの成長に結び付いているだろうか。IMB国際競争力ランキング2020によると、日本の競争力総合順位は34位と過去最低。その要因は何か紐解くために個別のランキングを見てみると、「ビジネスの効率性」は55位と過去最低、「企業の俊敏性」は63位と世界最下位、「起業家精神」も最下位、「大企業の効率性」と「国の文化の開放性」は62位とブービーであることを示している。

では次に国際競争力ランキングを下げている要因の一つ俊敏性を改善するには何をしたら良いか考えてみたい。プロセスは単純で三つしかない。予兆を捉える正しく意思決定し迅速に実行することである。ここで考えてもらいたいがDATA analysis をやっている人たちの半分は予兆を捉えていないのではないだろうか。出ちゃった結果を一生懸命分析している。それも大事な仕事だが、そればっかり実施していると予兆をとらえられなくなる。今から何が起きるのかを考えないといけない。そんな仕事が我々に突き付けられている命題ではないだろうか。 正しい意思決定とは何だろう。ビジネスサクセスに導く意思決定という意味ではなくKKDによらない意思決定のことを示す。適切な人が関与し役割と機能に応じて組織全体の人間に決定機会が与えられ、その決定が入手可能な最良のデータと解析に基づいていることである。 データを見せることが大切である一例を紹介する。私が某製造企業の経営会議で実践している例である。役員会開始前に社内のローデータを役員全員でみることにした。役員会に提示されるデータはサマリばかりで、恣意的にねじ曲がっている可能性もあるが、ローデータは嘘をつかないし、現場で何が起きているのかを感覚的に理解することにも役立つ。経営トップがデータ収集解析に興味を持ち、意思決定のKKDを止めようとするかもという期待もある。結果データドリブンマネジメント実現に繋げていきたいと思ってこの活動をやっている。迅速な実行に関し社内で一番足を引っ張っているのはIT部門である。用件を聞く前から拒否反応を示す。ITはコストセンタであり、QCDを守ることが成功とされてきたからやむを得ないことだ。しかし、デジタル変革の時代にはIT部門に求められるマインドセットにも変革が必要でありそれは、選択とスピードとスケール(スケーラブル)である。ここにフォーカスしてビジネスの成長を一緒に考えて欲しいのである。

「自社しか保有しないデータには偏りがある。同じ業界の各社でデータを持ち寄り共有しませんか。Operation and Management の産業では検討されていたこともあるが、OAMだけでなくマーケティングデータなど、幅広く検討可能なのではないだろうかと考えている。手を上げてくれる企業・業界があれば、私たちが日本の産業力強化のために調整役はやりたいと思っている。」という小西さんからの提案で講演が終了した。

 

15:10〜15:50  地方自治体におけるデータ利活用
        その基盤整備、現状と課題について

三鷹市 企画部情報推進課 
林 誠也 氏

 

我々はいずれかの自治体に居住し生活しているが、自分の住む自治体のデータ利活用がどの程度進んでいるのか知っているだろうか。本講演では日頃接することのない自治体のデータ活用での課題や苦労を知ることで、「データマネージメントで社会に貢献する」活動での自治体と企業の違いを知り、データ利用に関する別視点での気づきを得ることができた。

まず、各自治体では2016年12月14日に施行された官民データ活用推進基本法により、官民データ活用推進計画の策定および利活用に向けた取り組みが努力義務となり、取組みを加速させる必要でてきている。このためにも企業と同様に、「データ基盤の整備」が喫緊の課題として認識されている。

三鷹市でも市民サービスの向上、地域課題の発見や解決といった視点から、データ活用を強化・拡充しているが、データ利用では以下のような課題がある。

1.データとアプリの密関係の解消

アイディアをアプリとして実現できる時代が到来しているが、いままで特定のツールを前提としてデータ準備やシステム構築しており、自由自在なデータ取得が難しい

2.個人情報保護

目的内利用の難しさ。情報取得の際「市民生活向上のため利用」としてデータに基づいた施策を行っても、必ずしも全ての市民の生活向上に寄与しない場合や、市民が望む結果に向けての情報とならないこともあり、利用の整備が必要になる

3.情報セキュリティポリシー

利用に際して承認等の手続きがあり、データ活用が進まない

このような課題があるなかで三鷹市ではデータ利活用により、例えば、大学があるため20歳前後の若い世代の転入があることや、また高齢者が大学病院のある場所へ市内間の移転をされているなどの人流傾向の把握や、待機児童把握などを実現している。また、自治体クラウドにおけるデータ利活用基盤の検討が開始されており、講演者によると三鷹市は、現在6段階中の第3段階の状況とのことである。

官民を問わず社会情勢の変化に応じた変化に追随できる情報システムとして、データ活用基盤が必要と考え、それに向けた推進をされている。その情報システムでは、

・庁内利用中心から、庁外利用中心への転換

・データオーナーである住民への利益還元を最優先とする

を考慮したものにする必要があるという、自治体ならではの思いをお聞かせいただいた。

企業においても、社内利用中心ではなく社外にも活用できる仕掛けや、その際のデータオーナーの利益優先など、意識する視点と思われる。

以上、筆者が参加したセッションの模様である。

本イベントは、2年連続のオンライン開催となった。双方向のコミュニケーションやライブ感を伝えるなど、様々な工夫にはトライしたが、リアル開催の大きなメリットである「会場を回遊しての偶然の出会い」、「展示パネルを囲んでの熱い議論」などは実現できない。やはりリアルな会場開催が可能となることを願いたい。

来年は会場で皆様にお会いできることを楽しみに、レポートを終了させていただきます。

 

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