【Vol.88】AGC株式会社 岡谷憲二さん、データサイエンティスト育成のポイント、大切なのは「目利き力」と「課題を見抜く力」

JDMC会員による「リレーコラム」。
メンバーの皆さんそれぞれの経験・知見・想いをリレー形式でつなげていきます。
今回、バトンを受け取ったのは、AGC株式会社 岡谷憲二さんです。

皆さま、JDMCでは大変お世話になっております。AGC株式会社の岡谷と申します。このような貴重な機会をいただき、大変感謝しております。

まずは、弊社のデータ利活用の取り組みについて紹介させてください。

弊社AGCグループは、長期経営戦略「2030年のありたい姿」の実現を確実にするための戦略の一つとして「DXの加速による競争力の強化」を掲げ、グローバルに取り組んでいます。

デジタル技術を活用することで、業務の効率化、コスト削減にとどまらず、素材メーカーとしての競争基盤の強化や、社会やお客様に新たな価値を提供するためのイノベーションを通して、経済的価値のみならず社会的価値の創出を追求しています。

これらの取り組みを支えるために、データサイエンティスト育成プログラム「Data Science Plus」を始めとする施策を進め、業務知識に加え、高度なデジタルスキルを有する「二刀流人財」の育成に努めています。

二刀流へのこだわりと、理論と事実のバランス感覚が成長のカギ

「二刀流」と言えば、メジャーリーグで活躍しているエンゼルスの大谷翔平選手が真っ先に思い浮かぶ人は多いでしょう。さらに遡ると、ベーブ・ルースをイメージされる方もおられると思います。

大谷翔平とベーブ・ルースともに偉大な結果を残していますが、両者には大きな違いがあると言われています。ベーブ・ルースは強打者としての地位を確立してからは、投手への興味をほとんど失ったと言われていますが、大谷翔平は投手と打者の二刀流の道にこだわり続けています。

私も社内の二刀流人財の育成を手がけていますが、自身の専門領域に強いこだわりとプライドを持ちつつ、デジタル技術やデータサイエンスのスキルも貪欲に吸収しようと取り組んでいるメンバーの成長は、本当に目覚ましいと感じています。

一方で、専門領域に詳しいが故に、理論や理屈からの思い込みが優先して、得られたデータを素直に受け入れられない方もいます。得られたデータからの「帰納的思考」と、理論や理屈に基づく「演繹的思考」を往復して、バランスの取れた考察ができるようになることも教育の重要なポイントと考えています。


データという「食材」を美味しく調理できる料理人になる

データ分析の流れは、魚料理に例えるとイメージしやすいと考えています。まず、何を作るかメニューを決める部分が「目的・課題を設定するパート」に当たります。魚を捕る部分は、つまり「データを集める・整備する」こと。そして、魚を捌き(データを前処理・加工する)、調理し(データを分析する)、最後に盛り付けて(結果を実装する)、お客様に美味しく食べていただきます。

魚もデータも鮮度が重要なので、一本釣りする方法や定置網を仕掛ける方法など、ツールの選択や収集する技術も大切なポイントです。そう考えると、魚(データ)の良し悪しを目利きすることが、良い料理人(分析者)になるための条件になることが分かるでしょう。

目利きの「修行」にはさまざまな方法があるとは思いますが、私個人としては、実際に魚が捕れた瞬間、つまり、データがどのように収集されたかに立ち会うことに特にこだわっています。

定置網のように、システムに定期的に蓄積されるデータは、事前に数値が丸められていたり、平均値などの処理がされていたりする可能性もあり、出力されたデータを見るだけでは、見落としてしまう事実もあります。

また、一本釣りのように、担当者がExcelに入力しているようなデータについても、数値を直接入力しているものもあれば、計算式に入れているものもあり、場合によっては入力ミスや計算式のミスが潜んでいる可能性もあります。 だからこそ、たとえ手間でも自身の目で目利きをすることで、普通は手に入らない、データの背後にある示唆を得ることができるのです。

出発点である「ビジネス課題の設定」が、データ利活用の成否を分ける

ここまで、二刀流人財に必要な資質や育成におけるポイントをお話ししました。最後に、データ利活用を確実に成果へと結びつける上で、最も大切な「ビジネス課題の設定」についても触れさせてください。

どれだけ二刀流人財としてのデジタル技術やデータサイエンススキルを習得しても、実務においては、分析の前提となるビジネス課題が適切に設定されていなければ、成果を出すことはできません。

弊社では、ビジネス課題を設定するための手法として『因果連鎖分析』を2019年に確立し、二刀流人財の育成にも取り入れています。

本手法は、個々人の経験や勘に基づく言語化できていない暗黙知を含め、課題解決に結びつく可能性のある諸要因を「因果の連鎖」という視点から整理し、可視化するものです。諸要因の関係性が可視化されることで、ビジネス課題の設定に向けた合意形成が進めやすく、分析対象とすべきデータも明確になります。 データサイエンス分野で日本を牽引する滋賀大学データサイエンス学部に本手法を導入し、その教育を行うことで、将来を担うデータサイエンティストの育成にも注力してきました。

因果連鎖分析で全社のDXがさらに加速

私自身も製造からマーケティング、営業に至るあらゆる部門のDX活動を推進する立場として、単なるデータ活用にとどまらず、それによってビジネスにどのような成果が表れるのか、という点にまで踏み込んだアドバイスやサポートをしています。現場で実務を行っている、専門領域に強いこだわりを持ったメンバーを相手に、課題をヒアリングするために、因果連鎖分析は非常に強力な武器となっています。

一つの事例を紹介しましょう。ある製造プラントでの設備トラブル原因を調査していたときのことです。製造スタッフとともに設備データを収集し、データ分析で原因を解明しようと試みましたが、一向にうまくいきませんでした。

そこで、因果連鎖分析を用い、現場で作業する担当者にヒアリングして因果を整理することで、担当者自らが問題点に気付くことができ、追加のデータ分析を行わずとも、トラブルが再発しなくなりました。

このように、課題の設定からデータ分析、その結果に基づく具体的な改善の実施まで、一連のプロセスをブラックボックス化することなく、納得性の高い成果に結びつけることが、全社でDXを積極推進する後押しの一つになっていると思います。

JDMCでは、データマネジメントにおいて経験豊富な皆さまとの交流を通じて、多くのことを学ばせていただいています。これからも積極的な活動への参加と意見交換を進められますと幸いです。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。


岡谷 憲二(おかや けんじ)

AGC株式会社
化学品カンパニー戦略本部DX推進室
マネージャー

新卒でAGC(旧旭硝子)に入社し、最初は自動車用ガラスの製造スタッフとして現場の最前線を経験。その後、社内の研修講師や工場の改善活動推進の業務を担当し、2016年から社内横断の課題解決専門の組織で、データサイエンスとIE(経営工学)の二刀流を活かし、改善・革新活動の実践と人財育成に従事。現在は、化学品事業部でDXによる新たな価値創造の企画・推進にチャレンジしている。

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